しょうせつ

神威、アンタは帰って春雨を説得してきなさい。そうしたら戻ってきてもいいから。
嫌だ。と離れるくらいならコイツも殺して社長も殺す。
何でそうなるのよ!!いいからさっさとこの依頼を終わらせてー!!

そんなやり取りを繰り広げている神威とのすぐ近くでは、
春雨の暗殺部隊とやらが黙って2人の会話を眺めていた。
あの宇宙海賊春雨の暗殺部隊というからどんだけ危なっかしい奴かと冷や冷やしていたが、
どうやらコイツは神威のような考えなしのバカではないようだ。

「あのー、暗殺部隊さん?でしたっけ?」

俺が恐る恐る声をかければ、暗殺部隊の男はゆっくりと俺の顔を見た。

「あのぉ、神威君は絶対にそちらにお返しするんでぇ、
 今日のところは一先ず帰って頂いてもよろしいですかね?
 あの、社長を殺しに来たとかじゃないんですよね?」
「私の任務は神威団長を連れ戻すことです。」
「あっ、だったらその……今日のところはお引取り頂いても……。」

俺は予想に反して会話が成立したことに内心ホッとしながらも、
相手の機嫌を損なわないように慎重に言葉を続けた。
暗殺部隊なんつー物騒な名前の奴だから、
てっきり「問答無用!」とか言って襲い掛かって来るかと思ってたのに。
新八も神楽もも俺と同じことを思っていたようで、
3人とも俺と男の会話が成立したことに驚いた顔をしていた。

「申し訳ありません。暗殺部隊のクーリングオフは出来ませんので。」
「それどこの悪徳商法ぅぅ!?」
『神威!やっぱりアンタが帰るしか道はないのよ!
 ほら、俺は今すぐ帰るからこの人達には手を出すなとかカッコいいこと言って!!』
「言ったら俺に惚れる?」
『惚れるわけないだろーが!!!いいからさっさと帰れ!!!!』

どこまでもポジティブな神威に痺れを切らしたがそう怒鳴れば、
神威は「うーん、」と何かを考え込むような素振りを見せて、
そしてしばらくしてからゆっくりとに向き直った。

「じゃあ百歩譲って帰ってもいいけど、も一緒に連れて行くよ?」
『絶対イヤ!宇宙なんて行きたくない!』
「は我侭だなぁ。」
『一体誰の我侭のせいで暗殺部隊が来たと思ってんだ!!』

とうとう暗殺部隊を目の前に痴話喧嘩を始めてしまった2人に、
俺と神楽と新八はお互いに顔を見合わせて深い深い溜息を吐いた。
もうこの際も一緒でいいからさっさと帰ってくんねぇかな。
そして神威の権限で社長から手を引くように春雨のお偉いさんに掛け合ってくれ。
そうすりゃ俺達の仕事は終わるから。全部丸く納まるから。

「オイ、――……。」

俺がにちょっとでいいから一緒に帰ってやれよと声をかけようとした瞬間、
突然窓の外にいかにも怪しげな宇宙船が姿を現した。
光を遮られ一瞬で真っ暗になった室内から見えるのは、
船体にでかでかと書かれている春雨のマーク。
どうやら奴さんは痺れを切らして増援を送り込んできたらしい。
もうこれ以上戦うのは御免被りたいところなんだけどなぁ……。

「どうせこんなこったろうと思ったぜ……。」

そう言いながら宇宙船から降りてきたのは、神威の部下のあのオッサンだった。
見慣れたその姿に、俺達は思わず安堵の溜息を吐いてしまった。
このオッサンも春雨の一員であることには変わりはないが、
少なくとも俺達の敵じゃないことだけは確かだ。

「団長、俺言ったよな?次迎えに来る時は大人しく帰って来いって。」

オッサンが神威との元に近づきながら呆れたようにそう言えば、
神威はニコニコといつものわざとらしい笑顔を貼り付けながら
「そんなこと言ってたっけ?」とこれまたわざとらしく首を傾げた。
そんな神威の様子に、オッサンが「はぁぁ、」と深い溜息を吐く。

「言ったっつーの。しかもアンタ、春雨相手に暴れてくれたらしいな。」
「だって俺の前に立ちはだかったから。
 あっ、でもコイツ等は1人も殺していないよ。全員気絶してるだけ。」

神威は言いながら部屋の隅っこで山積みになっている師団員達を指差した。
オッサンは眉間にしわを寄せながらも神威の指差す方向に顔を向け、
そして見なきゃ良かったとでも言いたげな顔をして溜息と共に頭を抱え込んだ。

「ったくアンタはどうしてこう……。はぁ……オイ、万事屋。」
「あ?」

俺が軽く返事をすると、オッサンはその疲れきった顔で俺を見た。

「そこでおねんねしてる社長に伝えろ。
 ウチとの密輸のことを黙ってればもう命は狙わねぇとな。」
「え?じゃあ……。」
「その代わり、と団長はもらってくぞ。」
「『は?』」

オッサンのその言葉に、俺とは同時に声をあげた。

「オイ、任務変更だ。そこのお嬢ちゃんを春雨に連れて帰れ。」
「分かりました。」
『えぇぇ!?ちょっ、阿伏兎さっ……!!』

オッサンの横暴な決定にが抗議しようとした次の瞬間、
は目にも留まらぬ速さで暗殺部隊の男に捕まってしまった。
今は現役を引退していると言っても、は仮にも元凄腕の攘夷志士だ。
そのを油断していたとはいえ一瞬にして捕まえてしまうとは、
やっぱりあの暗殺部隊の男、ただ者じゃねぇな。

『ちょっ、離してよ!!』

本気で暴れるにビクともしない男の隣では、
阿伏兎のオッサンがホッとしたような疲れたような溜息を吐いていた。

「団長、これで大人しく帰ってきてくれるんでしょうね。」
「俺はが居ればそれでいいよ。お前もたまには気が利くね。」
「そりゃどうも。」
『ちょっとー!!神威の我侭にアタシを巻き込まないでよー!!』

怒鳴り散らすの声は誰に受け止められるでもなく虚しく室内に響き渡り、
を担ぎ上げた暗殺部隊の男と神威は
何事もなかったかのように外に待機していた宇宙船に乗り込んでいった。




話の分かる救世主

(あの、銀さん、さん連れてかれちゃいましたけど) (大丈夫だろ。きっと向こうではお姫様扱いしてもらえるって) (いや、そういう問題じゃない気がするんですが……) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 春雨に暗殺部隊なんてあるのか知らないけどね! ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/12/25 管理人:かほ