しょうせつ

「悪かったな。ウチの団長がとことん迷惑かけたみてーで。」
「いやいや、こっちもおかげで仕事が片付いたんでね。お互い様さ。」

阿伏兎のオッサンが俺達の元に歩み寄ってきて改めて詫びを入れてきたので、
俺は手を横に振りながら軽くそう言葉を返した。
そんな俺達の左側では、俺と神威にやられた師団員たちが
後から来た春雨の小型船に担ぎ込まれている真っ最中だ。
先に来た大型船は、の脱走防止のためにすでに出発した後だった。

「ところで、本当にいいのか?この会社から手ぇ引いても。
 密輸のことがバレたから殺すつもりだったんだろ?」

俺が阿伏兎のオッサンに向かってそう尋ねると、
オッサンは「まぁそうだったんだが……」と疲れた顔で苦笑した。

「あのバカ団長がこっち側に付いている今、
 これ以上の戦いはウチにとって被害を被るだけなんでね。」
「あぁ……。」

俺は春雨の小型船に運ばれていく師団員たちを眺めながら苦笑した。

「それに、あの社長が他言しねぇんなら春雨に不利益はねぇからな。
 団長の帰還を約束するのと引き換えに、元老に話を通しといたんだよ。」

無駄な戦いは避けるに限るだろ?と続けて、オッサンは肩をすくめた。
俺は純粋な夜兎族と言えば神楽と神威、
そして星海坊主とこのオッサンしか知らねぇから、
どうしても闘争本能に忠実な神威の姿が異端に思えてくる。
星海坊主はそこそこ本能に忠実だけど、
神楽とオッサンは全然そんな素振り見せねぇからな。
まぁ、最近では神威もその闘争本能をに奪われ気味なんだけど。

「アンタ、本当に夜兎族らしくねぇな。」

俺が言うと、オッサンは疲れたように笑った。

「俺はもう年寄りなんでね。団長みたいにやんちゃする歳じゃねぇだけだ。」

その割には吉原でウチのガキ共をこてんぱんにしてくれたみたいだけど?
オッサンの言葉にそう思った俺だったが、
神楽たちの話によるとボコボコにされた後どうやら命を助けられたらしいので、
根っからの夜兎族、根っからの悪人ってわけでもなさそうだ。
その証拠に、神威の我侭を無理やり止めるでもなく振り回され、
敵である俺達に対してもこうして協力的に接している。

「阿伏兎副団長、全員船に乗せ終えました。」

そうこうしているうちに師団員達の積み込み作業が終わったらしく、
積み込み作業をしていた春雨の1人がオッサンにかしこまってそう言った。
って言うかこのオッサン副団長だったのか。まぁそんな気もしてたけど。

「おぅ、ご苦労だったな。じゃあもう帰るぞ。アイツ等にもそう伝えろ。」
「はっ。」

オッサンが言うと、男はきびきびと船に戻って行った。

「じゃあな万事屋。はいつか必ず返す。それまで春雨で預からせてもらうぜ。」
「あんまり長いことに家を空けられると俺達も困るんでね。
 出来るだけ早く返してくれよ。あのバカはいらねぇから。」
「まぁそう堅いこと言うなよ。あの2人、結構仲良くやってるみてぇじゃねーか。」

オッサンの言葉に、俺は思わず苦笑した。

「まぁ、神威がに変えられてんのは確かだけどな。」

の方はどうかな、と俺が言葉を続けると、
阿伏兎のオッサンは驚いたような疑うような表情で俺を見た。
そして俺が神威がに殴られたことや神威が手加減をしたこと、
もう人間や天人を殺さないと言った事を教えてやると、
オッサンは驚いたを通り越して呆気に取られた顔をした。

「あの団長が?本当か?」

長年あのバカに仕えているだけあって、にわかには信じられないらしい。
まぁ俺達もアイツの変わり様には正直驚かされているので、
実際に見てみないと到底信じられないだろう。

「帰ったらきっとビックリするぜ。アイツ普通の人間みたいで。」
「それもそれで気色悪ぃんだけどなぁ……。」

オッサンは顔を引きつらせながらそう言って、俺達に別れを告げた。
するとさっきまで社長の傍に居た神楽と新八も近くに寄ってきて、
俺と一緒に「じゃあなーオッサン」「さんのことよろしくお願いしますねー」
なんて言いながらオッサンを見送った。

「阿伏兎さんが居れば大丈夫だとは思いますけど、やっぱり心配ですね。」
「あのバカ兄貴が傍に居るってだけで心配ヨ。
 が狼共に襲われなきゃいいんだけど……。」
「心配要らねぇよ。」

俺は春雨が去って行った窓際に背を向けて、ゆっくりと歩きだしながらそう言った。

「にゃ我侭で傍若無人で怖いもの知らずの番犬がついてんだろ。」

俺が言いながら振り返れば、神楽と新八はお互いに顔を見合わせ、
そして笑いながら俺に駆け寄ってきた。




宇宙最の狂犬

(でも銀さん、さんが居ない間、家計簿は誰がつけるんですか?) (えっ?) (朝ごはんも晩ごはんも銀ちゃんが作るヨロシ) (えっ?えっ?) (それに、お登勢さんには何て言えば……) (ちゃんやっぱり帰ってきて今すぐにぃぃぃ!!!!) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 次回はお待ちかね、春雨・鬼兵隊篇に突入です! ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/12/25 管理人:かほ