「。」 『…………。』 「ねぇ聞いてる?って呼んでるんだけど。」 『…………。』 「…………。」 「あいだだだだ!!!!!」 『……っ!?』 アタシが神威の言葉を無視し続けていると、 突然後ろから阿伏兎さんの悲鳴が聞こえてきた。 その声に驚いてバッと後ろを振り返れば、 案の定神威が阿伏兎さんの腕を捻りあげているところだった。 『ちょっと何してんのよ!?』 「やっとこっち見た。」 『いいから阿伏兎さんを離しなさい!!』 アタシが怒鳴りながら2人の間に割って入れば、 神威は阿伏兎さんを離して2、3歩下がり、 そして胡散臭い笑顔のままでわざとらしく降参のポーズを取った。 「困ったなぁ。、相当怒ってるじゃないか。」 『当たり前よ!!人を勝手にこんなところまで連れてきて! アタシ海賊って大ッ嫌いなの!特に宇宙海賊春雨はね!!』 「そんなに嫌いなのかい?」 『大ッ嫌いよ!!』 「人殺しの集団だから?」 アタシが思いっきり怒鳴りつけると、神威は笑顔のままでそう言い放った。 その言葉に、アタシは思わず言葉を詰まらせる。 薄々気づいてはいたけれど、やっぱりコイツ、銀時に何か吹き込まれたらしい。 会社の玄関前ではあんなに簡単に敵を殺してたのに、 さっきの敵襲では敵を殺さないどころかこれからも殺さないなんて言い出すんだもん。 神威はアタシに泣かれたら困るとか何とか言ってたけど、 きっと銀時にアタシが無益な殺生を忌み嫌ってるのを聞いたのも関係してるんだろう。 まぁどっちにしろ、アタシのことを気遣ってくれてるってのは一緒なんだけど……。 いや、別に気遣ってないかもしれないけど!嬉しくなんかないけど!! そもそもあの一回だけで夜兎の血を抑えられたかなんて判断できないし! あの時はたまたま弱い奴相手だったから適当に受け流しただけかもしれないし! またアタシにどやされたら面倒くせぇなとか思ってたのかもしれないし! そうよ!神威はそういう奴よ!アタシを気遣ったりなんかしないもん! 『もう絶対に騙されないからね!!』 「、百面相の間に何を考えてたのか知らないけどそれきっと間違ってる。」 ビシッと神威を指差しながら声高らかに宣言したアタシに、 神威は相変わらずのニコニコ顔のまま冷静にそうツッコんできた。 『とにかく、アタシは無差別に殺人を行う海賊が大ッ嫌いなの! 弱い人にも手を出して、最低な奴等の集まりじゃない。』 「俺達を目の前にしてよくそんなことが言えたね。」 流石は俺の嫁だと言いながらケラケラと笑う神威を無視して、 アタシはふと隣に居た阿伏兎さんの顔を見た。 『……阿伏兎さんには謝る。』 「……何で?」 アタシが言うと、神威は急に笑顔を捨ててもの凄く不機嫌そうな顔になった。 『阿伏兎さんは海賊だけど最低な人じゃないから。』 「俺は?」 『我侭で自分勝手で最低の人間だと思うけど?』 アタシが言うと神威は一瞬ショックを受けたような顔になり、 そしてすぐに殺気を纏って阿伏兎さんを思いっきり睨みつけた。 「良かったね阿伏兎、好印象で。」 「あはは……全然嬉しくないですがね……。」 神威に睨まれて冷や汗をかきだした阿伏兎さんは、 明後日の方向を見ながら引きつった笑顔でそう答えていた。 「おぅ神威、帰って来てたのか。」 アタシ達は突然やってきたその声の主に一斉に顔を向け、 そして顔馴染みだったのか声をかけられた神威が「やぁ、」と言葉を返していた。 『うわっ……狼だ……。』 「ありゃ第八師団師団長の勾狼団長だ。 まぁ悪い奴ではねぇから安心しろ。ちょっとアホで狡賢いだけだ。」 『アホと狡賢いって共存できるもんなんですか……?』 アタシの呟きに阿伏兎さんが親切にも突然現れた狼さんの紹介をしてくれたけど、 頭がいいのか悪いのか、いい人なのか悪い人なのか結局よく分からなかった。 まぁ春雨に在籍してるくらいだから良い人ではないんだろうけど、 あのいかにもキャプテンっぽい外見から察する限り、多分アホなんだろうと思う。 「元老がえらくおかんむりだったぜ。 お前、春雨の貿易組をボッコボコにしたらしいな。」 「俺に刃向かってきたから返り討ちにしただけだよ。」 「がはははは!お前のそういう怖いもの知らずなところ好きだぜ!」 「俺は勾狼団長のことそんなに好きじゃないけどね。」 そう言って冷たく突き放した神威に対して、 勾狼さんとやらはまた豪快にがははははと笑い出した。 好きじゃないって言われてんのに、あの人はあれでいいんだろうか。 それともあれは神威なりの海賊ジョークなの? 春雨の人間関係ってものがよく分からないので、 アタシはただ2人の会話を眺めることしか出来なかった。 そんな時、ふと勾狼さんと目が合ってしまった。 「ん?誰だその女。見かけねぇ顔だな。バカスギの仲間か?」 『バカスギ?』 勾狼さんの言葉にちょっとだけ聞き覚えがあるような気がしたけど、 一体何のことか分からず、アタシは首を傾げながら勾狼さんに聞き返した。 すると神威がおもむろにアタシの隣にやって来て、 人の断りもなしに勝手に肩を持ってきたかと思ったら満面の笑みでこう言い放った。 「紹介するよ。これが俺の嫁の。」 『なっ……!?』 神威の言葉に、勾狼さんはギョッとした様子でアタシを見つめ、 アタシはとっさに神威を突き放して阿伏兎さんの後ろに隠れた。 そうしたら阿伏兎さんがまた神威に睨まれると思って 「オイオイ勘弁してくれよ……」なんて疲れきった声で言ってきたけど、 今のアタシはそんな阿伏兎さんの言葉を聞くほどの余裕は持ち合わせちゃいなかった。 『ま、またそういうバカなこと言う!!』 アタシが阿伏兎さんの後ろから神威にそう抗議すれば、 神威は笑顔のままで、しかしちょっとだけ怒った様子でアタシの顔を見た。 「、照れるのは構わないけど阿伏兎の後ろに隠れるのは頂けないな。 そんなことしてたらうっかり阿伏兎を殺しちゃうよ?」 「だから何でそこで俺なんだよ!」 神威の理不尽な一言に阿伏兎さんは呆れきった様子でそう叫んだ。 そしてアタシ達のやり取りを見ていた勾狼さんは 興味深そうにアタシと神威の顔を交互に見つめ、 しばらくしてから意味ありげに「ははーん、」と呟いて神威の顔を見た。 「なるほどな。この女が今回の騒動の原因か。 お前、こういう可愛い系の気の強い女が好みだったのか。」 「そんな単純なもんじゃないよ。俺はだから惚れたんだ。」 『……〜っ!!』 またしても神威が真顔でこっ恥ずかしいことを言い放ったから、 アタシはあまりの衝撃に言葉が出ず、 ただ顔を真っ赤にして口をパクパクさせるしか出来なかった。 すると神威がそんなアタシを見てケラケラと笑い始め、 笑っている神威を見て勾狼さんがまたビックリしたように目を真ん丸にした。 「団長、そろそろ元老のトコ行かねぇと、またどやされるんじゃねぇか?」 阿伏兎さんの冷静なその声に、 神威は思い出したかのように「あぁ、」と言って阿伏兎さんの顔を見た。 「そうだね。じゃあさっさと終わらせてこようか。」 「今度は一人で行って下さいよ。俺もう嫌だからな。」 「分かってるよ。じゃあ、さっさと行くよ。」 『アンタ今一人で行くって言わなかった!?』 そんなアタシの叫び声が神威に届くわけもなく、 アタシは「じゃあなー」と手を振る阿伏兎さんとビックリしている勾狼さんに見送られ、 神威に首根っこを掴まれたままズルズルとどこかに引っ張られていくのでした。アットホームな宇宙海賊
(ちょっと神威離してよ!自分で歩けるから!) (この手を離したら逃げるだろ?あっ、それともお姫様抱っこの方が良かった?) (ギャー!!ちょっと止めてお姫様抱っこは止めて絶対に逃げないからぁぁぁ!!!!) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 勾狼団長と夜兎組ははたして仲が良かったのか何なのか。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2012/04/07 管理人:かほ