しょうせつ

俺は呆気に取られる勾狼団長と共にあの2人を見送り、ホッと一息ついていた。
やっとあのバカ団長のお守りから解放される……。
元老への報告が終わればまたすぐに帰ってくるだろうが、
団長の隣にが居る以上、あの人も滅多なことはしないだろう。

それに、今度から団長のお守りはに任せればいい。
その方が被害も少なく効果も絶大だ。
あの時無理やりにでもを連れて帰ってきといて本当に良かった……。

「……なんだ、ありゃ……。」

隣から聞こえてきたその呟きに俺が勾狼団長の顔を見れば、
勾狼団長は元々大きなその口をさらにあんぐりと大きく開けて、
団長達が消えていった廊下をボーっと眺めていた。
無理もねぇ。あの団長があんなに人間らしくなったんだから。

「驚いただろ?」

俺がそう声をかけると、勾狼団長はゆっくりと俺の方を向き、
そしてまた前を向いて口を開いた。

「随分ご執心じゃねーか。あの女、ただの地球人なんだろ?」
「いや、ハーフだ。天人と地球人の。」
「ハーフ?」

どうやらの存在は春雨の連中に知れ渡っていても、
の正体についてはまだ情報が流れていないらしかった。
勾狼団長は俺の言葉にまた驚いた顔をして、
同じく驚いた声で「そりゃまた珍しいモン見つけてきたもんだな」と言った。

「通りであの神威が興味を持つわけだ。」
「いや……。」

勝手に納得してうんうんと頷いている勾狼団長の姿に、
俺はただ苦笑いでそう呟くしか出来なかった。
確かに、今までの団長を知っている人間からすると、
あの夜兎の血に従順な団長が本気で他人に惚れるなんてあり得ない話だ。
だからあの団長を見て興味だの何だの思うのは仕方がないと思うんだが……。

「……勾狼団長。アンタ、それあの2人の前で言わない方がいいぜ。」
「あ?何でだよ。」

怪訝そうに俺を見てくる勾狼団長に、俺は苦笑しながらこう言った。

「多分、どっちに言っても殺されるからだ。」





『じゃあ、その元老ってのがこの春雨のトップで、次にアホな提督が居て、
 神威みたいな団長が居て、その下に師団がいくつかあるわけね?』
「俺も興味ないからあんまりよく知らないけど、だいたいそう。」

俺の言葉に、は『ふぅん……』と言いながら軽く頷いた。
さっきまでの質問攻めが終わったということは、
はやっと全てを理解して納得したということなんだろうか。
俺はそこまで考えて、軽く安堵の溜息を吐いた。

事の始まりはの素朴な質問だった。

『ねぇ、さっき会った勾狼さんと神威はどっちも団長なの?』

のその問いに、俺は簡単に「そうだよ」と答えてやったのだが、
その答えだけではの探究心は満たせなかったらしく、

『じゃあ今から会いに行く元老っていうのは何なの?人の名前なの?
 勾狼団長の兄弟か何か?っていうか阿伏兎さんって団長じゃないの?』

なんて聞いてくるもんだから、
俺はに春雨について説明しなければならなくなってしまったのだ。

最初は春雨の事を知って一体どうするつもりなんだろうかと思っていたが、
もしかしたらは俺と結婚した後のことを考えて
今から春雨について勉強しているのかもしれないと思ったので
面倒くさいのを我慢して一から春雨について説明してやった。

俺は第七師団の団長で、阿伏兎が第七師団の副団長であること。
さっきの勾狼団長は提督になりたいただの犬であること。
俺達団長の上にはアホ提督が居て、その上に元老という不気味なジジィ共が居ること。
第一師団と第十師団はムカつく奴らなので絶対に近づかないこと。
世話になるんだったら第二師団か第五師団にすること。

そんなことを話していると自然との怒りは収まってきて、
じゃああれは?じゃあこれは?と次第に目を輝かせていった。
思えば、と2人でこんなに他愛もない会話をするのは初めてだ。
地球では絶対に銀さんたちが居たし、
が俺に何かを尋ねるなんてことはほとんどなかったし。

まるで玩具を目の前にした子猫のような瞳でに質問される度に、
俺の中で何かが大きく膨らんでいった。
説明は面倒だったけど、不思議と嫌ではなかった。むしろその逆だ。
こうやってに頼りにされるのも悪くはない。

そんな事を考えていたら、俺たちはいつの間にか元老の間のドデカい扉の前に到着していた。

『ほぁー……流石は春雨のトップ。厳かねぇ……。』
「見た目だけはね。ほら、入るよ。」

俺がを先導して中に入れば、
いつものように元老が何人か高い柱の上から俺達を見下ろしていた。

「神威、今回の件は今までのように水に流すことは出来んぞ。」
「任務を無視し地球に無断で滞在し、その上我々の組織に牙を剥こうとは。」
「その件に関してはちゃんと謝りますよ。
 殺しちゃった奴等は別にして、
 俺がボロボロにした奴等はこのがしっかり治してくれますから。」
『へっ?』

俺が言いながら元老達にも見えるようにの背中を押せば、
は間抜けな声をあげて俺と元老達とを交互に見ていた。

「治す……?その女、ただの地球人ではないか。」
「天人と地球人のハーフですよ。珍しい治癒能力の持ち主です。
 春雨にとっても、をここに置いておくことは悪い話じゃないはずだ。」

俺は元老達をしっかり見据えてそう言い放った。
目の前ではが『アタシずっとここに居るつもりないから!!』
とでも言いたげな目で俺を睨んでいたけれど、場の空気を読んで口には出していなかった。

ここは宇宙海賊春雨の本部だ。
例え俺がずっと傍に居るとしても、の命を狙う奴は大勢居る。
俺を恨んでる奴とか、地球人が嫌いな奴とか、ただ人殺しが好きな奴とか。
そいつ等の手からを守るためには、元老の正式な許可が要る。
それさえあればよっぽどの馬鹿じゃない限りに手は出さないだろう。
まぁ、そのよっぽどの馬鹿が居るのがウチなんだけどさ。

「よかろう。今回の件はその女の働きによって償ってもらう。」
『えぇっ!?』

元老の言葉に、は控えめに不満そうな声をあげた。

「今日からその女を第二師団の師団員とする。」

が何か言いたげな顔をして俺を思いっきり睨みつけてきたけど、
俺は当初の目的を達成したので適当に返事を返してと共に部屋を後にした。




まさかの仲間入り

(それにしても、あの女、どこかで……) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ ウチの師団の内訳とか特徴とかはメニュー下のウチ設定を参照して下さい。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2012/06/10 管理人:かほ