しょうせつ

本日の天気、晴れ。超晴れ。かなり晴れ。
夏休みも明けて一週間くらい経った今日、太陽さんは絶好調だった。
教室の窓は全開放、下敷きは本来の機能を停止しうちわへと早変わり。
そんな炎天下の今日、アタシは信じられない光景を目の当たりにする。

『失礼しまーす。銀ちゃーん、プリント持ってき……あっつ!!!!!』

アタシはドアを開けた瞬間漂ってきた熱気に思わずそう叫んでしまった。
やって来たのは国語準備室。
本来ならば涼しいはずの部屋が今は何故か尋常じゃないほどの熱気に包まれている。
国語準備室ならクーラーかかってて涼しいだろうと思って
このアタシが珍しくすすんで授業プリントを持ってきたというのに……。

「あー……か……プリントそこ置いといて……。」
「坂田おどれ喋るなや……暑苦しいねん……。」

アタシが恐る恐る部屋の中に入ると、
とんでもない熱気の中で銀ちゃんと勝男先生が2人仲良く机に突っ伏していた。
いや、全然仲良くなかったんだけどね、めちゃくちゃ険悪なムードだったんだけどね。
とりあえず、2人ともYシャツ一枚という格好でダラァと机にうな垂れている。

『ど、どうしたんですか2人とも……。』

アタシが銀ちゃんの机にプリントを置きながら恐る恐る尋ねてみると、
勝男先生が目線だけをアタシの方に向けてダルそうに答えてくれた。

「このアホのせぇでクーラーブッ壊れたんじゃ……。」
『へっ?クーラーが?』

勝男先生が言いながら銀ちゃんを睨みつけると、
銀ちゃんは「あぁん?」とガラ悪く唸りながら勝男先生を睨み返した。

「元はと言えばテメーがここを北極にしようとか言い出したのが悪いんだろーが。」
「ワシは南極にしょーゆうたんやがな。それをお前が北極に変更しよったから……。」
「あぁん!?北極より南極の方が寒いだろーが!!」
「なんやとゴルァ!!北極の方が寒いに決まっとるやろが!!」
「んっだとゴルァ!!」
「やんのかゴルァァ!!」
『ちょっと止めてよ2人とも!!』

ガタッとその場で立ち上がって胸倉を掴みだした2人に向かってアタシが怒鳴れば、
2人はしばらく睨みあった後、同時に「フン!」とそっぽを向いた。
話から察するに、どうやらこの部屋をキンキンに冷やそうとしたら
設定温度を下げすぎてクーラーが壊れてしまったようだ。
って言うか国語教師が2人揃って何バカなことしてるんだろう……。
この2人ってお互いに負けず嫌いだからなぁ。

「あーもうダメだ。俺ちょっと外出てくるわ。」

とうとう限界がきたのか、銀ちゃんがいつも以上に虚ろな目でそう言って
フラフラとドアの方に歩いていった。
そんな銀ちゃんに向かって勝男先生が「ハン!」と鼻息を荒くする。

「おーおー出て行けや!まぁ俺は別に平気やけどな!」
「なんだとテメー!
 別に俺涼みに行くわけじゃねぇからな!マラソンしに行くだけだからな!」
「さいでっか!ええからさっさ行け!」

口喧嘩のあとまたしばらく睨みあった2人は、
また同時に「フンッ!!」と顔を背けて銀ちゃんはバタンッと部屋から出ていった。

「あー……あつぅ……あのアホのせぇでまた暑なったやんけ……。」
『あ、あの、勝男先生……。』

ドタッとまた机に倒れこんでしまった勝男先生にアタシが声をかければ、
勝男先生は「あぁ?」と生返事をしてアタシの顔を見た。

「お前授業プリント持って来ただけやろ?
 さっさ帰り、この部屋ずっとおったら死ぬで。」
『いえ、あの……窓、開けないんですか?』
「…………。」
『…………。』

そして数秒間の沈黙の後、勝男先生はおもむろに国語準備室の窓を全開にした。

「ま、まぁ座れや……助けてもろた礼や、茶ぁでも入れたるわ。」
『そっ、そんな……助けただなんて……。』

すっかり涼しくなった室内で、
勝男先生は冷蔵庫からお茶を取り出してアタシに手渡してくれた。
助けただなんて大げさな表現が正しいのかどうかは分からないけど、
とりあえずアタシはこの部屋を灼熱地獄から救い出せたようだ。

「あー、こらええわ。外の方が涼しいんやなぁ。」

窓の方を向いて気持ちよさそうにそう言った勝男先生に、
アタシは『風がありますからね』と言って小さく笑った。
さっきまで室内が蒸し暑かったせいで勝男先生は汗びっしょりだったけど、
窓から入ってくる風のおかげでだいぶ乾いてきているようだった。
それでも額から首筋に流れ落ちる汗がYシャツにしみこんで、
ちょっとだけ透けている服がなんとも言えない色っぽさで……。

そこまで考えて、アタシはいきなり顔を真っ赤に染め上げた。
さっきは部屋が暑すぎることに気を取られて全然気づかなかったけど、
今の勝男先生、男性グラビアの人並に色っぽい!!
微かに汗ばんだ髪、流れ落ちる汗、肌に張りつくYシャツ、
暑さで崩壊した7:3分け、つまりオールバック!!

ヤバい、これはヤバい。何がヤバいかって色気が相当ヤバい。
あーダメだ、アタシ絶対に顔真っ赤で変な顔してる……!
なんか変なふうに思われても嫌なのでアタシがバッと勝男先生から顔を逸らすと、
その行動が逆に不思議に思われたようで、
勝男先生がキョトンとした顔でアタシの方を見た。

「、お前どないしてん?」
『へっ!?いっ、いやっ、あの……!!』

声をかけられてアタシがどぎまぎしていると、
勝男先生はふと何かを思いついたような顔をして、
そしてゆっくりとアタシの顔に手を伸ばしてきた。

『へっ!?あっ、あのっ……!!』
「ジッとしときや。」

確実にアタシの頬を狙って伸びてくる手と近づいてくる勝男先生の顔に、
とうとうアタシの思考回路がキャパシティーオーバーでパンクしてしまった。

『やっ、ダメですよ先生!アタシは生徒で先生は教師……!!』
「ほれ取れた。お前髪の毛にてんとう虫とまっとったで。」

アタシが目をつぶってあわあわしていると、勝男先生のそんな声が耳に入ってきた。
予想外のその言葉に、アタシは思わず『へっ?』と間抜けな声をあげて先生の方を見る。
するとそこには勝男先生の指に止まっている可愛らしいてんとう虫の姿。

「ほんで何て?生徒と教師?っちゅーかお前、顔赤いで?どないしたん?」
『あわっ……あわわっ……!!』

遠のいていく意識の中、勝男先生の慌てた顔だけが鮮明に頭の中に入ってきた。




さのせいか、アナタのせいか

(ただいまー) (坂田!!大変や!!が熱中症でぶっ倒れてもーた!!) (はぁぁ!?大丈夫かよ!って言うかこの部屋そんなに暑くなくね!?) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 六万打本当にありがとうございました! 関西弁キャラがホンマに好きやねん……!! ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/10/02 管理人:かほ