しょうせつ

『ねぇお妙さん、返品したいんだけど。』
「あら、そんなの駄目よ。折角私についていた虫が取れたんですもの。
 このまま一生持っていてもらわないとね。」

私の前に座ってバーゲンダッシュを食べているお妙さんは、
まるで何か憑き物が取れたかのような活き活きとした表情をしていた。
それもそのはず、実際に憑き物が取れたんだから。

「さああぁぁぁん!!!!!結婚してくれェェェ!!!!!!」

私はお妙さん宅でバーゲンダッシュを食べながら、
外の電柱から聞こえる叫び声を軽くスルーした。
いつだったかな、あのお妙さんに憑いていた近藤さんが私にとりついたのは。
あぁ、アレだ。確か一週間前くらいに行った屯所でだったかな?

またお妙さんに振られて落ち込んでいた近藤さんに、
ちょっと可哀想な気がしたから

『大丈夫ですよ。近藤さんは素敵な男性ですもん。
 いつかきっと素敵な女性が近藤さんを好きになってくれます。』

って、とびっきりの営業スマイル付きで言ったのが全ての原因だったんだわ。
その後あの人は私に付きまとうようになり、
今日もこうして私のストーキングをしているのであった。

『あー、もう、止めてほしいんだけど。お妙さん、クーリングオフして。』
「ごめんなさいね、クーリングオフ期間は3秒だったの。もう手遅れよ。」
『わぁー、すんごいぼったくり。』

バーゲンダッシュたこ焼き味の最後の一口をたいらげ、
持って行ってあげると言ってくれたお妙さんの言葉に甘え、
私はありがとうございます、と言って容器とスプーンをお妙さんに渡した。

「あぁっ!!!お妙さぁぁん!!!!そのスプーン俺に下さい!!ぜひ下さい!!」
「一体何に使う気だテメェはぁぁ!!!!!!」

お妙さんの投げた灰皿が近藤さんに命中し、
近藤さんはドサッと地面に落ちていってしまった。

『……ホントにあの人警察なの……?』
「ほんと、世も末よねぇ。」

ふぅ、と一息ついてから、お妙さんは容器を捨てに台所へ行き、
そしてお盆に乗った冷えたスイカと共に帰ってきた。
私は『きゃーvvお妙さんありがとぉーvv』と嬉しい叫び声を上げ、
お妙さんは喜んでくれて良かったわ、と天使の微笑を称えている。

「喜んでるさんも超絶かわいいですよォォォォ!!!!!!!」

いつの間にか復活した近藤さんの叫び声を2人して無視し、
シャクシャクと涼しい音をたてながらスイカを食べた。
ん〜♪めちゃくちゃ美味しいっ!

「さああぁぁん!!!!僕ぁ本気ですよ!!
 お妙さんの時も本気でしたぁ!!見ていてくれたでしょォォ!?」
『なら何でお妙さんからアタシに乗り換えたんですかー?
 所詮、その程度の気持ちだったんですよねー?』
「違います!!!!それは断じて違います!!!!」

そろそろ鬱陶しくなってきたので、返事しやすそうな言葉に返答したら、
大真面目な顔をして近藤さんが叫んでくる。

「お妙さんは運命でした!!!!さぁん!アンタは必然だぁぁ!!!!!」

そこでパトカーの音がして、警察が近藤さんを捕まえに来たらしかった。
必死で抵抗している近藤さんを横目に、お妙さんがため息をついた。

「本当にどうしようかしら……。私も絶対に付き合いたくないけど、
 ちゃんを易々と渡すわけにもいかないものねぇ。」
『お妙さん、アタシ絶対にあんな人と付き合わないよ!』
「でも……私、心配だわ。ずっと前から思っていたけれど……
 実は近藤さんって、ちゃん好みなんだもの……。」
『へ?それどういう……?』

困り果てた顔をしたお妙さんに私がそう聞こうとすると、
電柱から近藤さんの最後の叫び声か聞こえてきた。

「さあぁぁん!!!!!!愛してますよォォォ!!!!!!」

お妙さんの言った言葉の意味を知るのは、まだまだ先のお話。




だって私はお姫様!

(ちゃん……尽くしてくれる一途な人が好きなんだものねぇ……) (へ?お妙さん、何か言った?) (いいえ、何も…………はぁ) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ いきなり一方通行ネタ第二弾! 近藤さんに言い寄られたらいつかは確実に落ちると思うんだ。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2009/01/13 管理人:かほ