しょうせつ

「「ハァァ!?まだ何もしてないィ!?」」

ある昼下がり、トシの自室で総悟とトシが叫んだ。

『そ……そう、だけど。』

私はバツの悪そうな声でそう答える。

「おまっ、えぇぇ!?だってもう一年以上付き合ってんだろ!?」
「正確には一年と3ヶ月ですぜィ。」
「ありえねーだろ!!それはありえねぇ!!」
『う、うるさいなぁ!!私だって分かってるよ……。』

そう、この2人が叫んでいる原因は私。
正確には私と私の彼氏さんの所為なんだけど……。

「いくら近藤さんが女に免疫がないからって、それはねぇだろ……。」
「ちょっと待ちなせェ。もしかして……キスもまだなんですかィ?」
『それどころか、手もつないだ事ないわよ、バーカ。』

私の言葉に2人が絶句した。
そうだよねぇ……付き合い始めて早一年と三ヶ月。
キスどころか手すらまだつないだ事がないなんて、駄目だよねぇ。
私たち別に健全な高校生!って訳でもなく、
真選組を引っぱる立派な三十路のおっさんと18歳の女の子なんだから。
……いや、18歳はまだ高校生の年齢か。
あ、じゃあ私が原因じゃね?あれ、私のせいじゃね?

『いや、でも、手はつないでくれてもいいのに!!』
「いやいや、お前等の年齢だったらそれ以上は必要だろ。」
「そうですぜ?バキューン!!!!とか、ピー!!!!!とか。」
「『最年少のお前がそんな単語を口にするなぁ!!!!!』」

なんだよー、は同い年じゃねぇか!と文句を言ってる総悟は無視して、
私たち3人は作戦会議を開く事にした。
会議名は『近藤さんとをどうにかして進展させ隊』。
……あ、ネーミングセンスがないのはトシだからね。私じゃないからね。

『つかさ、トシまだ村麻紗の呪いぬけてないんじゃないの?』
「うっせぇな。ほっとけ!
 とりあえず、近藤さんがどうしてに手を出せないのかを考えるぞ。」
「やっぱ年齢差じゃないんですかぃ?」
『でもさ、なら最初から付き合わないでしょ。
 アタシ、お妙さんよりも年下なのよ?』
「いや、あの人は惚れたら突っ走るタイプだから、年齢じゃねぇだろ。
 一番の問題は、突っ走るあの人が突っ走ってねぇってトコロだ。」

一時の沈黙。
確かに、お妙さんのストーカー時代を考えたらおかしい。
あの人は愛のためなら犯罪スレスレの事(むしろ犯罪)を簡単にやっちゃう人だ。
いくら自分より一回り違う娘でも、愛のためなら今頃大変な事になっているはずだ。
俺の予想では絶対に初夜でヤると思ってた、とトシ。

『じゃあ……まさかアタシ、愛されてないんじゃ!?』

ヒィィ!と演技がかったリアクションをすれば、それはねぇ、とトシ。

「大切にはされてるだろ?」
『ん、まぁ……。』
「大切にしすぎてんじゃねぇですかぃ?ほら、よくあるじゃねぇか。
 『乱暴に扱ったらが壊れちゃいそうで、怖くて手を出せなかったv』
 っていうパターンが。」
『総悟、アンタ絶対少女漫画読んでるでしょ。』

俺はリボン派でぃ。アタシはちゃお派だったもん!と口喧嘩を始めれば、
トシが明らかにイライラしたようなトーンで咳払いを一つ。
そして、黙った私たちに『それもねぇな』と一言。

『なんで?近藤さんだったらありそうじゃない?
 ってか今までの中で最有力候補だったんだけど、アタシ的には。』
「さっきも言ったろ?あの人は突っ走る人なんだよ。
 妙っつー女の時も、も、どっちも遊びじゃねぇなら対応は同じはずだ。」
『はぅ……やっぱりアタシは遊びなんだ……!だから対応が違うんだぁぁ!!」
「あーあ、土方さんが泣ぁ〜かした。」

大袈裟に泣く真似をする私の肩に手を置いて総悟が言った。
トシは明らかに面倒くさそうにため息をついて、私たちをスルーした。(酷っ)

「で、結局のところ原因が全く不明だ。そこである作戦に出る。」
「『ある作戦?』」

私と総悟の声が揃う。

「手を出してこないなら、手を出せばいい。」
『それってつまり……えっ、アタシが近藤さんを襲うの!?
 アタシ嫌だよ!?女の子なのに初めてが攻めなんて!!!!』
「馬鹿かテメェは!!行きすぎだ!!!!!」
「うわ……俺ちょっと嫌な想像しちまった……おえぇぇ。」

総悟が吐く真似をしながら『喘ぐ近藤さん、受けの近藤さん』とか何とか言ってる。
それに私とトシも想像力と嘔吐中枢を刺激された。

『ちょ、止めてくんない!?こっちまで想像しちゃうから止めてくんない!?』
「総悟テメッ、気持ち悪ぃ事言ってんじゃねぇ!!!!」

本格的に気持ち悪くなった私たちは、満場一致で台所にお茶を飲みに向かう事にした。




「……で、場所を台所に変更して作戦会議を再開するが……
 お前等今度こそちゃんと考えろよ?」
「『はーい。』」
「素直が余計に不安だな……。で、。さっきの作戦についてだが……。」
「おぉ、3人ともここに居たのか!探したぞ〜!」
「「『!?』」」

トシがさっきの作戦の説明をしようとしたとき、ターゲットがにこやかに登場した。
いつも通りの人懐っこい笑顔にゴリ……あ、いや、ちょっとゴツい顔が可愛く見える。
ってこの前トシと総悟と退に言ったら3人声を揃えて
『眼科か神経科に行け』って言われてちょっとヘコんだ。(何だよ何だよ)

「トシにはこの書類。期限は明後日だからな、頼んだぞ。
 んで、総悟にはこの始末書。ちゃんと書くんだぞ?
 この前みたいに何コレ作文?みたいなモン書いたら駄目だからな!」

持っていた紙の束を2人にそれぞれ渡しながら、近藤さんは空いていた席に座り、
勝手に人の(ってか私の)コップを取ってお茶を飲む。

「あー、しっかし今日は暑いなぁ!!見廻り面倒だなぁ、!」
『え?アタシ?いや、今日は……。』

今日は私の番じゃないですけど、って言おうとしてハッとする。
ヤッベ、忘れてた。そういえばこの前当番変わったんだった!!

『……ヤベェ、サボろ。』
「おいおい、俺と近藤さんの目の前でよくその単語を出せたな。
 駄目に決まってんだろーが。」
『うっせぇよトッシー。』
「よおぉし分かった!!!!
 お前ちょっとそこに直れえぇぇ!!!」

私の言葉に真剣を抜いたトシを、近藤さんが慌てて止めてくれた。
何とか落ち着いたトシだけど、総悟がまた『トッシーだっせ。』って言ったから
また近藤さんが止める羽目になった。(今度は私の所為じゃないからね)

『あーもー。こんな時間からめんどくせー。』

なんやかんやしている内に、時刻はもう夕刻。
何でこんな時間から見廻りに行かなきゃいけないの……。
そりゃ確かに犯罪の多発する時間帯だけどさ。
心底面倒くさそうに机に突っ伏している私に向かって、近藤さんが一言。

「そう言うな。俺も一緒に行ってやるから。」

な?っと満面の笑みで私に笑いかけてくれる顔を、これ異常ないほど凝視した。
絶対今の私の顔、怖いだろうな。目なんて最大に真ん丸く開いて口は半開き。
ちょっと引いてる近藤さんからトシと総悟に視線を移す。
予想通り、2人とも作戦決行のサインを出している。(親指グッ)
あぁ、やっぱり?と心の中で思って、近藤さんにありがとうございますと言った。



続く

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ずっと前に書いてた近藤さん長編がついにお披露目!!

近藤サイドとヒロインサイドがあるので2倍楽しめます!(きっと)


※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。

2009/02/12 管理人:かほ