「そうか……もう一年以上も前のことなのか……。」 自室で書類整理をしていた俺は、ふと作業の合間に見た写真に呟く。 そこには大勢の人物が映っていた。 万事屋の3人と俺とトシと総悟とザキと、そして……。 「……。」 言ってから急に顔が赤くなる。 無意識のうちに名前を呟いていたのと、 呟いた自分の声があまりにも熱っぽかったからだ。 あー、やっぱ俺駄目だな、とか思いつつ、照れ隠しに頭をガシガシとかく。 自分の声に一瞬ドキッとした。いや別に変な意味じゃなくって。 なんつーか、エロいっつーか、低いっつーか……。 あぁもぅホント、今の一瞬をやり直したい。すっげぇ恥ずかしい。 こんな声出せるのかよ俺、とため息をつきながら、 作業をしていた手を止めてボールペンを置き、そのまま勢い良く後ろに寝転がった。 「一年……か。短いようで、色々あったなぁ……。」 浸るようにゆっくりと目を閉じて、一年と三ヶ月前を思い出す。 あの日は今日と違って一日中やけに暑くて、その為に皆がだらけてて、 何故か万事屋の面子が屯所にカキ氷を食べに来てたんだっけなぁ……。 「テメッ、それは私のイチゴシロップアル!!!!!」 「あぁん?テメーのじゃねぇやい、こりゃ屯所のモンだ!」 『あー、もう!!2人とも!!シロップくらいで喧嘩しないの!』 いつものようにくだらない事で喧嘩する総悟とチャイナ娘を がまるで子供をあやす母親のように止めていて、 他の奴等は炎天下のせいで熱を持った体をカキ氷で冷やしていた。 「買Qッ!?おいおい、ここに天人が居るよー?マヨネ星人ですかコノヤロー。 何でカキ氷にまでマヨネーズぶっかけてんだよ、頭おかしいんじゃねぇの?」 「うるせぇ。カキ氷と言えばマヨネーズに決まってんだろ。 お前こそ、もうそれカキ氷じゃねぇだろ。砕けた氷inシロップじゃねぇか。」 総悟たちとテーブルを挟んで反対側で、トシと坂田さんが醜い争いをしていた。 何が醜いって、そりゃ、あれだよ…… カキ氷と呼んでいいか分からない物体が醜かった。(ダークマターだよコレ) トシは相変わらずカキ氷の上にマヨネーズを盛り付けているし、 坂田さんに至ってはシロップ丸々一本をぶっかけていた。 「俺はこのくらいシロップかけねーと楽しめねーんだよ。 本当は白玉とか小豆とか欲しかったけど……。」 「もう十分だろ!!甘ったるい通り越してただのシロップだろそれ!! 見てるだけでベタベタしてくんだよ!!テメェ絶対に零すなよ!?」 『あぁもう!!あんた達も五十歩百歩の喧嘩しないの!! ってかお前等気持ち悪ッ!!!!カキ氷に謝れ!!』 総悟たちを怒っていたが、今度はこっちを怒り出す。 最初は怒った顔だったが、2人のカキ氷の成れの果てを見たとたん、 急に青ざめた表情になって口元に手を当てた。 その気持ち、良く分かる……。 『あーもう!どうしてあんた達はこうなのぉ〜!?』 色とりどりの氷が並ぶテーブルの右では総悟とチャイナ娘の喧嘩。 左ではトシと坂田さんの喧嘩。 見かねたは大きくため息をついて、2組を交互に睨み付ける。 『折角皆でかき氷食べてもいいって、近藤さんが許可をくれたのよ!? 今日くらい仲良くしなさい!!』 その声は怒っていると言うよりも、子供に注意しているといった様子で、 若干アニメ声なのが本当に可愛いなんて不謹慎なことを考えた。 すると隣に座ってた山崎が小声で『局長、顔がニヤけてますよ』なんて言うもんだから、 俺は慌てて顔を横に振り、至って普通のカキ氷をスプーンで掬って口へ運んだ。 「へぇへぇ、に言われちゃ聞かないわけにもいきやせんねェ。」 「……悪かった。」 「ほほぅ?大串君が謝るなんて、はまるで真選組の母ちゃんだなぁ。」 「何!?、人妻だったアルか!?誰アルか!?相手は誰アルか!?」 俺はこの時、今思うと不思議な話だが、たまたま話をちゃんと聞いてなくて、 チャイナ娘の「が人妻」の所しか耳に入っていなかった。 「何ィ!?、お前結婚してたのか!?俺以外の男と!!!!」 勿論、聞き捨てならないセリフに思いっきりテーブルを叩いて 怒鳴りながら立ち上がってしまったわけで。 一瞬周りが唖然となったが、その時の俺には全く関係なかった。 俺の知らないうちにが誰かのものになっていたなんて、 考えただけで腸がブチ切れるくらいに悔しかったのを覚えている。 『え……?あ……あの……。』 俺はよほど怖い顔をしていたんだろう。 が怖がったような、困惑したような表情で俺を見上げていた。 「……近藤さん、座れ。そいつぁ勝手にそこのチャイナが言った事だ。 がまるで母親みたいだなって言ってただけで、事実じゃねぇ。」 トシが見かねたように頭を抱え、俺にそう言ってきた。 「……え?」 俺は急に冴えた頭で状況を理解した。 自分でもいつものアホ面に戻ったのが嫌というほど分かった。 その後、自分が言ってしまった言葉を思い出し、顔を真っ赤にする。 山崎が隣でボソッと百面相と言ったのが聞こえたが、こっちはそれどころではない。 勢いに任せて言ってしまった。 鈍いには、言わなかったら分からないだろうと、ずっと黙ってきたのに。 「俺以外の男と」なんて、まさにそんな展開だろ……!! 「あぁっ悪い!!そのっ……!!!」 怯えていたが急に顔を真っ赤にして、俺から目を逸らした。 俺はが怒ったのだと思い、慌ててに目線を合わせるためにしゃがみこむ。 「……あー、俺、厠行きたくなってきたわ。」 「さ、坂田さん……?」 俺は情けない顔でおもむろに立ち上がった坂田さんを見た。 分かってくれ、俺の助けてオーラ。 すると今度はトシと総悟まで厠に行くと言い始めた。 ちょっと待ってちょっと待って!!!!! 俺とをこの部屋に2人きりして置いていく気か!? 「じゃあ私はを慰めるアル!」 「神楽ちゃん?空気読もうねー?さぁ僕たちも行くよ。」 「じゃ、じゃあ局長、俺も行って来ます。」 柏V八君こそ空気を読めェェェェ!!!!!!! いやいや、そこのチャイナ娘置いて行ってくれるかなぁ!? 気まずいじゃん!完全にこの雰囲気ヤバいじゃん!!察してよ誰か!! しかもザキまで便乗して出て行きやがった!!!! アイツ等、帰ってきたら超痛いデコピン食らわしてやるからな!!!!! 『……あ、あの……。』 「ッ!?なっ、何だ!?」 アイツ等が部屋を出て行った後、 気まずい沈黙が流れるかと思ったらが急に声をかけてきた。 予想外の出来事に俺は返事をする時、声が裏返ってしまった。 はまだ顔を真っ赤にして俯いていたが、声はちゃんと俺に届いていた。 『さっきの……俺以外の男と、って……。』 「え!?あ、あぁ、それね!!!! えぇっと、べっ、別に怪しい意味じゃないからね!? ただ、その何て言うか、俺以外の人と結婚したを見るのが嫌だなぁとか、 そんな純粋な気持ちであって、別にをどうこうしたいって訳じゃ……!!!!」 あぁもう!!俺は一体何を言ってるんだァァ!? 慌てすぎてるし噛みまくりだし、自分で何言ってるか理解出来てないし!! っつーか明らかに話が変な方向に進んで言ってるじゃねーか! 自分の首をギュウギュウ締め付けてるだけじゃねーかァァ!! 『あっ、アタシ!近藤さん以外と……結婚する気、ないですから……。』 「……へ?」 まだ顔は俯いたままだったけど、きっとさっきよりも真っ赤なんだろうなぁ。 だって、俺が真っ赤だし。ってか体がすっげぇ熱いんですけど。 の小さくも力強い声は、俺の心臓に右ストレートを決め込んできた。 息苦しい。鼓動が早鐘のように速くて、頭がボーッとする。 汗なのか冷や汗なのか分からない液体が俺の顔を伝う。 驚いて息を吐くと、緊張した声帯を無理やり震わせて間抜けな声が出た。 いやいやいや、これ何?聞き間違い?そうだよね、だよね? は何て?俺以外の男と、結婚する気はない? それって、つまり、俺と結婚する気があるってこと? ってかそれしかないって事だよね?え?ってことは……。 「っ、!?ほほほ、本当に俺でいいのか!?」 あまりの驚きに、主語らしきものが全部すっ飛んだ。 それでもは俯いたまま、静かに頷いてくれた。 その瞬間、俺の中で何かが弾け飛んで、目の前のを思いっきり抱きしめた。 『きゃ!?あの、近藤さん?』 「大好きだ!!もう超好きだ!!真選組の奴等より好きだ!!」 『なっ……!?なんですかいきなり……!』 嬉しさで舞い上がっていた俺は、今まで秘めていた想いを全てぶつける。 『好きだ』としか言えなかったが、それでもそれが俺の気持ちの全てだった。 俺は抱きしめていたの肩を乱暴に持ち腕を伸ばす。 困惑するを真っ直ぐに見つめ、そしてとうとう俺は告白した。 「もし俺でよければ、結婚してくれないか、……!!」 「懐かしいなぁ。あの後いきなり皆が部屋に入ってきて、 おめでとうございます!って言われて、困惑したっけなぁ……。」 俺がに告白してすぐに厠へ行ったはずのアイツ等が入ってきた。 その時初めて盗み聞きされていた事に気づき、 自分の顔が真っ赤になったのをつい昨日の事のように覚えている。 そしてその後聞いた話では、なんと奴等全員が と俺が随分前から両想いだった事を知っていたらしい。 「全く、それならもっと早く言えっつーの……。」 俺はふぅ、とため息をつき、グッと寝ていた体を起こした。 「そうだそうだ、トシと総悟に書類を持って行かにゃならんのだった。」 俺は先ほどまで整理していた書類を何束か持ち、自室を後にした。 続く .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ ずっと前に書いてた近藤さん長編がついにお披露目!! 近藤サイドとヒロインサイドがあるので2倍楽しめます!(きっと) ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2009/02/12 管理人:かほ