しょうせつ

まだ私達が武州に居た頃、よくミツバさんが言っていた。
男の子って、男の子だけで居るときが一番楽しそうねって。
私も、幼いながらにその意味を理解していた。
女の子は、いつだって蚊帳の外なんだ。

でも私は違うと思っていた。
私の体には天人の血が半分流れていて、
攘夷戦争にも攘夷志士として駆り出された。
近藤さんたちの上京にはついていけなかったけど、
私は武州の小さな村を守るために戦い、お偉いさんに目をつけられ、
そして小さな望みを持って攘夷に参加することになった。

このまま天人たちと戦っていれば、近藤さんたちに追いつけるかもしれない。

『でも、近藤さんたちはいまだにアタシを子ども扱いですよね。』
「え?いきなりどうしたの?ちゃん。」
『ほら。まだアタシのことちゃん付けだし。
 アタシもう今年で18ですよ?もう結婚出来るんですよ?』

昔抱いた叶うはずのない願いを思い出しながら、
私はぷぅ、と膨れっ面をして庭に居る近藤さんを睨んだ。
私の言葉に近藤さんは剣の稽古をしていた手を止め、
肩にかけたタオルで汗を拭きながらキョトンとした顔をする。

「え、え?ちゃんは俺と結婚してくれるんでしょ?」
『しますよ?そのために攘夷の後真選組に入隊したんですから。
 でも、アタシは戦いのコトになったら蚊帳の外じゃないですか。』
「だって危ないじゃん!ちゃんを危険に曝すわけには……。」
『アタシは一応、白夜叉と並び称される志士だったんですよ!?』

私が怒ったようにそう言えば、
近藤さんはしばらく何かを考え込むような素振りを見せ、
そしてゆっくりと縁側に座っていた私に近づき、そのまま隣に腰掛けた。

「俺は、武州にを置いてきたことを本気で後悔したんだ。」

急に真面目な顔をして、そしてさりげなく“”なんて呼ぶもんだから、
私はビックリしたやら恥ずかしいやらで思わず顔を逸らした。

「江戸で成功したら、真っ先にお前を呼んで、告白するつもりだったんだ。
 でも、俺が不甲斐ないばっかりに、
 お前を攘夷戦争なんかに参加させちまって……。」
『それは違います!アタシはっ……その……。』

私は、あなたに近づきたくて、自分の意思で戦争に参加したんです。
そう言おうとしたけど、もしそんなコトを言ったら、
近藤さんは自分が私を置いていったせいだって、
自分を責めそうな気がして、言えなかった。

「だからせめて、俺の近くではに戦いに参加してほしくないんだ。
 まだ結婚してないから、形式上真選組隊士としてここに居るけど、
 俺はには普通の女の子としてここに居てほしい。」
『近藤さん……。』

大真面目な顔でそんな恥ずかしいこと、よく言えたもんですね。
いつもはどうしようもないくらい変態でちゃらんぽらんで、
私に好きの一言も全然言えないくせに。
こういう時だけ、貴方はいつもいつも、生意気にそんなコトを言うんです。

ヘタレの極みの近藤さんが、真面目な顔でそんなコト言うなんて、
私をこんなにもドキドキさせるなんて、本当に、本当に、生意気です。

『でも、アタシは……。』
「がどうしてもって言うなら、俺と一緒に戦に出よう。
 そうしたら、隣でを守ってやれるだろ?」

ニカッといつもの笑顔でそう言う近藤さんに、
私は心臓が爆発するかと思って、真っ赤な顔を下に向けた。
すると近藤さんはいきなり私が俯いたので、
心配そうな顔をして私の顔を覗き込もうとしてくる。

「ど、どうした?」
『……本当は、戦いなんか、どうでもいいんです。』
「え?」

私は恥ずかしさのあまり、途切れ途切れに言葉を搾り出した。

『本当は、アタシの知らない近藤さんを、
 みんなが知ってるのが、気に食わなかったんです。』
「……。」
『近藤さんのことは全部知っておきたいのに、
 どうしても女の子の私には、見れない部分がいっぱいある……。
 仕方がないとは分かっていても、すっごく、すっごく悔しかったんです。』

私は顔を隠したまま、今まで思っていたことを口にした。
ポツリポツリと小さな声で喋ったのに、
その言葉の一つ一つを近藤さんが拾ってくれているのが、
ふいに握られた手から伝わってきた。

大きくて、暖かくて、頼りになるその手に、
こんな下らない悩みを持った私なんて、釣り合う気がしない。
それでも近藤さんは血まみれになった私を抱きしめて、
一緒になろうと言ってくれた。

大好きで、本当に大好きで、こんなにも愛してるのに、
どうして全部を見られないんだろうと、いつも思っていた。

「…………だろ?」
『え?』

ふいに聞こえた近藤さんの声に、私はパッと顔を上げる。
顔を上げた瞬間、近藤さんの顔が目の前にあって、
気がついた時には優しくキスされてて、
私が状況を理解したときには、すでに顔が離れていた。

『こ、近藤さ……。』
「こんな顔、ちゃんだけにしか、見せないでしょーが。」

そう言った近藤さんは、困ってるのか、照れてるのか、
笑ってるのか、喜んでるのか、全く分からないような表情で、
その笑顔は真っ赤で、耳まで赤くして、
言った途端に恥ずかしかったのか、私から視線を逸らした。

その様子に私はドキドキしながらくすっと微笑んだ。
そして、ずっと握られていたその汗ばんだ大きな手を、ギュッと握り返した。

『近藤さん、やっぱりアタシ我慢します。』
「えっ、え?」
『アタシは、戦いで疲れた皆を笑顔でお迎えする、大事な役ですもんね。』
「ちゃん……。」
『アタシにしか出来ないことも、いっぱいあるんですよね。』

そして、私にしか見れない、貴方の顔も。
近藤さんのおかげで今まで悩んでいたことが全部吹っ切れて、
私はすっきりとした顔で近藤さんにそう問いかけた。

「…………勿論だ。」

優しい近藤さんは、笑顔でそう言って、私の頭を撫でてくれた。




その顔は私だけのものなんで

(もう我侭なんて言いませんっ!) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ あぁもう近藤さん好きすぎる! ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2010/02/28 管理人:かほ