しょうせつ

もうすっかり日も暮れ、辺りが夕焼け色に染まってきた所で、
近藤さんが「そろそろ戻るか」と言ってアタシの方を振り向いた。
アタシは『そうですね、帰りますか』と言って近藤さんに笑顔で応える。
そして2人で来た道を引き返していた。

今日は年に一度の七夕だというのに、アタシは朝から市中見回り。
いや別に近藤さんと一緒だからいいんだけどさ、
アタシだって短冊書いたり笹飾ったりしたかったなぁ。
しかも今日はトシが一日中歩き回ってこいなんて言うもんだから、
肌を焼く太陽と戦いながらブラブラと適当に周りを見回り、
結局こんなに遠くまで見回りに来てしまったのだった。

『あーあ、今頃みんなは短冊飾って楽しんでるんだろーなぁ。』
「そうだなぁ。俺達も飾りたかったなぁ、短冊。
 来年は早めに用意して、皆で短冊書いて、屯所で笹でも飾るか。」
『えっ、いいんですか!?やったー!』

近藤さんの言葉に、アタシは嬉しくなって思わずその場で飛び跳ねた。
そんなアタシの様子を見て近藤さんは優しく笑ってくれる。

「だから、今年はコレで我慢してくれよな。」

近藤さんはアタシの頭を撫でながらそう言った。
その言葉が理解できなくて、アタシは一時停止する。

『……?コレって何ですか?』
「え?何って……俺と一緒に市中見回り。」
『へ?』

アタシはまだ訳が分からなくて間抜けな声を出してしまう。
それに近藤さんはあれ?と頭を掻いて困ったような顔になった。

「、俺と一緒に市中見回り嬉しくなかった?」
『えっ!?いやいやいや!!めちゃくちゃ嬉しいですよ!!』
「そ、そっか、良かった。」

なんだか誤解を与えてしまったようなので、
とりあえずアタシは全力で近藤さんの言葉を否定した。
この世のどこに大好きな人と一緒に居られて嬉しくない人間が居るだろうか。
アタシがそんな想いも込めて近藤さんを見つめれば、
ちょっと照れたような驚いたような顔になって近藤さんは笑ってくれた。

『でも、それが何か?』
「気づいてなかったのか?
 トシの奴が2人で見回り出来るようにって人員調節してくれたんだぞ?」
『えっ!?そっ、そうだったんですか?』

予想外の事実に驚くアタシに対して、
近藤さんは「でなきゃ俺が市中見回りに来るわけないだろ、」と付け加えた。
実は、今日は幕府の七夕イベントみたいなものがあって、
とっつぁんから将軍様の護衛をするようにとの通達があったのだ。
今思えば、そんな大事な仕事に近藤さんが行かなかったのは確かにおかしい。
トシと総悟と伊東先生が護衛の任務に就いてたから、
こりゃ鉄壁だな、なんて思って全然気にしてなかったけど……。

「トシの奴、気ぃ遣ってくれたみたいでなぁ。
 明日からは公私混同ナシで働いてもらうから、今日だけなって。」
『そ、そうだったんですか……。』

トシのことだから、
いつも仕事で会う機会の少ないアタシ達に配慮してくれたんだろう。
真選組の皆だって、アタシと近藤さんが2人で居られるようにって、
仕事の数増やしたり異動したり、色々頑張ってくれたに違いない。
たくさんの人に支えられてるなぁと思うとすっごく嬉しくて、
アタシは心の底から笑顔になった。

『あ、あの、近藤さん?』
「ん?」

アタシが控えめに名前を呼ぶと、近藤さんは笑顔でこっちを見てくれる。

『手ぇ……繋いでもいいですか?』
「えっ、手!?べべべっ、別にいいけど……!!」

アタシの言葉に真っ赤になりつつも近藤さんがいいよと言ってくれたので、
ちょっと恥ずかしかったけど、近藤さんの大きな手にそっと自分の手を添えた。
すると近藤さんはアタシの手をギュッと握り締めてくれる。
まだ顔は真っ赤のままで、緊張しているのか力が強くてちょっと痛かったけど、
それでも力強くアタシを引き寄せてくれたその行動に、
アタシの胸はキュンと締め付けられた。

『近藤さん……。』
「こ、これくらいはしないとな!俺一応男の子だから!」

恥ずかしさのあまりぶっきら棒にそう言う近藤さんに、アタシは小さく微笑んだ。
近藤さんって、いっつもヘタレで奥手でちょっと鈍いところもあるけど、
こういう時にすっごい頼りになるから大好き。

『アタシ今、すっごい幸せです。織姫様になった気分。』
「織姫様って……毎日屯所で会ってるだろ?」
『でも、近藤さんは局長で、アタシはただの隊士でしょ?
 会うって言っても、回数は少ないし、会ってる時間も少ないもん。』

アタシがスネたようにそう言えば、近藤さんは困ったように頭を掻いた。

「……きょ、今日はゆっくり見回りするか。」
『え?いいんですか?』
「いいよ、だって俺局長だもん。」

近藤さんは赤い顔でちょっと照れたようにそう言った。
その表情がとってもカッコよくて、ちょっと可愛らしくて、
今度はアタシが真っ赤になって近藤さんから視線を逸らす。
どうしよう、アタシ今すっごいドキドキしてる。
激しく波打つ体中の血液に、
繋いだ手からアタシのドキドキが伝わらないかちょっと心配になってきた。

「さぁ、もし短冊書くとしたら何て書く?」
『へっ?たっ、短冊ですか?』

急な話題に、アタシは思わず間抜けな声を出してしまった。
そんなアタシの様子に笑いながらも、近藤さんは「そう、」と頷いてくれる。

『ア、アタシは……やっぱり、
 真選組の皆と、いつまでも一緒に居られますように、かな。』
「そっか。じゃあ俺は……。」

近藤さんがアタシの耳元で自分の願いを呟いた。
その途端、さっきまで真っ赤だったアタシの顔がさらに赤くなる。

『こっ、近藤さん!?』
「大切な人だったら真選組の奴等だが、愛する人だからだぞ?」
『わっ、分かってますよ、そんなこと……!』

近藤さんの表情からはイイ事を言っているといった様子は見られず、
これは本心をそのまま口に出しているだけなんだろうなぁと、
改めて近藤さんの天然っぷりの怖さを体験した。

『で、でも、ホントにアタシだけでいいんですか?』
「迷惑?」
『いっ、いえ!!!全然!!!むしろ……すごく、嬉しいです。』

アタシが幸せな気持ちで微笑みながらそう呟くと、
近藤さんは繋いでいた手に優しく力を込めてくれた。




愛する人を
 一生り続けられますように

(今日の近藤さん……なんだか、とってもカッコいいです……) (ホ、ホント?) (はい!いつもは全くドキドキしないけど、今日は心臓が破裂しそうです!) (あ……あはは、そう、それは良かった……) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 最後の最後でカッコつかないのが近藤さんかと思って。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2010/07/11 管理人:かほ