ない、ない、ない!!どこにもない!! 俺は非番であるというのに、朝っぱらから自室で大慌てだった。 その原因は一枚の封筒。 確かに昨日ここに置いて寝たはずなのに、朝になったら綺麗さっぱりなくなっていた。 とても大事なものなのに、一体どこいっちまったんだ!? 俺は机の中のものを全部床に放り出して探し回った後、 誰か知っている者は居ないかと大急ぎで部屋を出た。 「あっ、おーい!!総悟ー!!」 部屋を出てしばらく走っていると、 廊下の向こう側で居眠りしている総悟の姿を発見した。 奴は今日もガッツリ仕事のはずなのだが、そんな事はどうでもいい。 「おい総悟、俺の部屋にあった封筒知らないか!?」 俺の呼びかけにいつもの趣味の悪いアイマスクをはずしながら、 総悟は「封筒?」と言って小首を傾げた。 「これくらいの白い封筒で、中には手紙が入ってるんだが……!」 「なんでィ近藤さん、またカミソリレターですかィ?」 「またって何!?そんなもん貰ったことないけど!!」 こっちは本気で困ってるっていうのにコイツは! 俺が一体どうしたものかとその場でジタバタしていると、 ふいに後ろから「それなら見たぜ」と聞き慣れた声がした。 「えっ!?嘘!どこにあった!?」 俺はその声に反射的に振り向いて、 いつも通りの涼しい顔で俺たちの方に歩いてきたトシの肩をガッと掴んだ。 「ちょ、落ち着け近藤さん。その封筒、そんなに大切なものなのか?」 「そうなんだよ!めちゃくちゃ大切なものなんだ!!なぁトシ、どこにあったって!?」 「白い封筒ならさっき山崎が持ってたぜ。 面白いモン見つけたとか言って食堂に見せびらかしに……。」 「あんのヤロォォ!!!!!」 俺はトシの言葉を最後まで聞かず、一目散に食堂へと走り出した。 そんな俺の様子にトシと総悟がお互いに「?」と顔を見合わせていたが、 今奴らに事情を説明している暇はない! なんとしてもザキが中身を見せびらかす前に封筒を奪還せねば!! 「ザキィィ!!どこだァァ!!封筒を返せぇぇぇ!!!!」 「あれ?近藤さん?」 俺が廊下を走りながら大声をあげていると、 食堂近くの廊下を歩いていた伊東先生が俺に気づいて目を丸くした。 「一体どうしたんです?そんなに慌てて。」 「伊東先生!!山崎のヤロー見かけませんでしたか!?」 はぁはぁと息を切らして切羽詰った様子の俺を驚いた顔で見つめながら、 伊東先生は後ろにある食堂を指差した。 「山崎君ならさっきスキップしながら食堂に入って来てたけど……。」 「ぎゃああぁぁぁ!!!!!」 俺は尋常じゃないくらいの叫び声をあげながら食堂へと駆け込んだ。 後ろではやっぱり伊東先生が「?」という顔をしながら俺の後姿を呆然と見ていた。 しかし例によって今事情を説明している暇はない! だってザキがもう封筒の中身を見せびらかしているかもしれないんだから!! 「ザキィィィ!!!!!!」 「ひっ!?きょ、局長!?」 俺の怒鳴り声に食堂内に居た全員が撥ねるように俺の方を見た。 全員が揃いに揃って驚いた顔をしていたが、 名前を呼ばれたザキはどこか青い顔をしている。 そしてザキの目の前には封筒を片手にこちらを見つめるの姿が。 「み……見せたのか……?」 俺は2人に近づきながら愕然とそう尋ねた。 するとザキはもっと顔を青くさせて一度だけゆっくりと頷いた。 その瞬間、俺は顔から火が出るほど恥ずかしくなった。 『近藤さん……。』 あまりの衝撃にその場に立ち尽くしている俺を見つめながら、 がどこか嬉しそうな声で俺の名前を呼んだ。 その可愛らしい声にさらに恥ずかしくなった俺は、 ろくに返事もしないままふい、とから顔を逸らしてしまう。 『近藤さん、ずっと持っててくれたんですね……アタシの手紙。』 はそう言うと、愛おしそうに手元にある封筒を見つめた。 『小さい頃に近藤さんと結婚するとか言って、 あんまり意味も分かってないのに勝手に婚姻届を書いて封筒に入れて……。 アタシ、てっきり捨てられてると思ってました。』 そう言って嬉しそうに微笑んだのあまりの可愛さに、 俺の心臓はバクバクと激しいリズムを刻み始めた。 きっと今の俺は真っ赤な顔にダラダラ汗かいて、 まるでサウナに入っているオッサンの如き顔になっているんだろう。 そんなむさ苦しい顔をに見せるわけにはいかないと、 俺は顔を逸らしたままの状態でに言葉をかけた。 「す、捨てるわけないだろう、そんな大事なもの。 せっかくお前から貰った婚姻届なのに……。」 照れて上手く喋れなかったが、それでもは嬉しそうに微笑んだ。 『そう言えば、この婚姻届まだ未完成なんですよ。 せっかくですから、新調して一緒に完成させてくれません?』 「えっ!?」 の口から放たれた予想外の言葉に、俺は自分の耳を疑った。 驚いた拍子に思わず間抜けな顔での方を向いてしまい、 汗でぐしゃぐしゃになった顔を見られてしまったが、 それでもは俺に向かってニッコリと微笑んでくれた。 『今度は近藤さんが紙を用意して下さいね。 それとも、アタシと結婚するのは嫌ですか?』 「いやいやいやいや!!!!嫌なわけないじゃん!! いやっ、今の“いや”は“嫌”って意味じゃなくて!!」 俺がテンパって首を横に振りながら言えば、は可笑しそうにケラケラと笑った。 『分かってますよ、そんなに慌てなくても。』 「……。」 俺は落ち着きを取り戻しながら愛おしいその名を呼んだ。 「し、しかし、本当にいいのか? 俺は真選組の局長で、野郎共をまとめて行かなくちゃならねぇ。」 『分かってますよ。 ここに居るやんちゃ坊主たちを抱え込むくらいの覚悟はあります。』 「そ、それに、俺、その……ゴリラだし……。」 『バカ正直でとっても優しいゴリラなら大歓迎です。 それに、全部承知で今まで一緒に居たんですから。』 「……!」 まるで天使の如き微笑みで、はあっさりとそう言い放った。 その言葉と表情に、俺は思わず涙ぐむ。 「。」 俺は意を決し、の名前を呼んだ。 するとは微笑みながら『はい、』と返事をしてくれる。 「俺と――……」結婚して下さい
(なんだ、何事かと思って来てみれば、近藤さんの公開プロポーズかよ) (おーい誰かこの中に一部始終を録画してた奴は居ねぇのかィ?) (君はその映像を手に入れて一体どうするつもりなんだね?) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 六万打本当にありがとうございました! 近藤さん、ホントに優しくて一途でカッコいいゴリラなのにね。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/10/09 管理人:かほ