しょうせつ

俺の船には一癖も二癖もあるような奴等が大勢居る。
まぁそれは俺がそういう奴等を選んで連れてくるからなんだが、
中には2、3度会っただけでは本性を見抜けないような奴も居たりする。
鬼兵隊の残念な美少女、もそんな奴の一人だ。

『似蔵さぁーん!』

俺と変平太と似蔵で作戦会議をしていると、
噂のが片手に袋を抱えながら俺たちの元へ駆け寄ってきた。
ちなみに“鬼兵隊の残念な美少女”とは、
ウチの連中が勝手につけたのあだ名だ。
容姿は俺が認めるほどの美少女だというのに、
先ほどの発言からも分かるように似蔵に惚れているという、
なんとも残念な性格ゆえのネーミングだ。

「なんだ、かい。今日も元気だね。」
『はい!アタシはいつも元気です!
 だからいつ似蔵さんに押し倒されても似蔵さんを満足させる自信があります!』
「その手に持ってる袋は何だい?」

似蔵は慣れた様子での発言を華麗にスルーしてそう問いかけた。
の残念な理由は男の趣味が悪いだけではなく、
こういった暴走発言を乱発するところにもある。
全く、天は二物を与えずとはよく言ったものだ。
の性格がもう少し普通であれば、俺の女にしてやってもよかったというのに。

『これはバレンタインのチョコレートです!はいっ、似蔵さんに!』
「俺に?」
『はい!愛情込めて作ったんですよ♪』

本性を知らない人間が見たら一発で惚れるくらいの笑顔でそう言うと、
は袋の中からそこそこの大きさの箱を取り出し、似蔵に差し出した。

「お前も暇な奴だねぇ……。
 いい歳したオッサンのために右往左往するなんて。」
『右往左往なんてしてません!アタシは常に似蔵さんの後ろにピッタリです!』
「お前それストーカーって言うんだぜ知ってたか?」

清々しい顔でガッツポーズをしながら
堂々とストーカー発言をしたに俺が冷静にツッコミを入れると、
隣に居た変平太が深い溜息を吐きながら頭を抱えこんだ。

『愛の前に法律なんて関係ないのよ!』
「その考えはどうかと思うがね、
 まぁせっかくだからコレはありがたく頂いておくよ。」

いつものテンションで暴走するを軽くあしらいながら、
似蔵は受け取った箱をまじまじと見つめながらそう言葉を返した。

『似蔵さん、それ今開けて下さい。』
「は?今?」
『はい、今ココでです。じゃないと意味ないですから。』

はにんまりと気味の悪い笑みを浮かべながらそう言い放った。
その言葉に俺たち3人は同時に顔を見合わせる。
考えていることは多分同じだ。
の野郎、また下らねぇことを考えてやがるな。
しかしながら、ここで似蔵が箱を開けないとが自分で開けるだろう。
どっちにしろ選択肢は一つなのだ。
そこまで理解している俺たちは同時に軽く溜息を吐き、
似蔵は黙って先ほどから受けとった箱を開け始めた。

「……オイオイ、こりゃ一体何の嫌がらせだい?」

似蔵が箱を開けると、
中にはドロドロのチョコレートがぎっしり詰まったビンが入っていた。
それを箱から取り出した似蔵は眉間にしわを寄せながらに問いかける。

『嫌がらせだなんて人聞きの悪い!
 さぁっ、アタシにそのチョコをぶっかけて舐めとって下さいっ!』
「悪いが俺ぁそんなプレイは趣味じゃないよ。」

案の定気持ち悪いくらいに暴走しているを上手くかわし、
似蔵はビンを箱に直すとそれを変平太に無理やり押し付けた。
いやいりませんよこんな変態チョコ、
同じ変態仲間だろう仲良くしなよ、
私はフェミニストです!なんて会話をしている2人の向かいでは、
が不服そうな顔でブーブーと文句を垂れている。

『似蔵さん鬼畜プレイが好きなのかと思ってたのにー。』
「チョコぶっかけプレイは鬼畜プレイじゃねーだろ。」
『えぇー?そうかなぁ?仕方がない……じゃあはいコレ。』

俺の言葉にまだ不服そうなだったが、
一応は自分の暴走を認めたらしく、
持っていた袋の中から今度は比較的小さな箱を取り出して似蔵に差し出した。

「今度は何だい。」
『安心して下さい、ちゃんとしたバレンタインチョコですから。
 拒否られた時用にまともなやつも用意しておいたんですよ。』

口を尖らせながら拗ねたようにそう言ったの顔をしばらく見つめ、
似蔵はまたから箱を受けとった。
その箱はさっきの箱とは違って綺麗にラッピングされており、
どうやら本当にまともな代物らしかった。

『じゃあアタシ行きますね!この後ちょっと野暮用があって。』
「あぁ。どうもすまんね。」
『もしそれアタシにあーんしてほしかったらいつでも言って下さい!
 勝負パンツはいて似蔵さんの部屋に行きますから!』

は最後にまた爆弾を投下してその場を去って行った。
まるで暴走した台風のようだと呟いて、変平太は大きな溜息を吐いた。
俺も全く同意見だ。アイツと居ると何故か疲労が溜まっていく気がする。
こりゃあ言い寄られている似蔵のストレスは相当なモンだろう。
そう思った俺が労いの言葉をかけるために似蔵の顔を見ると、
似蔵はが去って行った方向をボーっと見つめていた。

「オイ似蔵、どうした。吐きそうなのか?」
「大丈夫ですか岡田さん。」
「あぁ……。」

似蔵は俺たちの声にゆっくりとこちらを振り返ったが、
またの去って行ったほうに視線を向けて、ポツリと呟いた。

「ちゃんとしてたら可愛いんだけどねぇ……。」

似蔵のその一言に、俺たちは言葉を失った。




刺激的な甘味を召し上がれ

(似蔵、それ絶対にの前で言うなよ) (え?) (類は友を呼ぶとはこのことですかねぇ……) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 暴走ヒロインとちょっとズレた似蔵さんのコンビ大好きです。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/02/20 管理人:かほ