しょうせつ

「晋助さん。」
「何だ。」

見えていないくせに空を眺めながら言葉をかけてきた似蔵に、
俺は同じく雲一つない青空を眺めながらぶっきら棒に言葉を返した。

「ここ一ヶ月どうもに見られているような気がするんだが……。」
「あぁ、あいつストーカー体質だからな。」
「そうかい……聞かなきゃ良かった。」

そう言った似蔵は、肩を落としつつ疲れたように溜息を吐いた。
その隣では変平太が哀れみの目で似蔵を見つめ、
何も言わずにただ似蔵の肩にポン、と手を置いた。
お互い口には出さないが、今も似蔵はストーカー被害の真っ只中に居る。
俺たちが立っている場所から3mほど離れた場所に置いてある積荷の影では、
先ほど話に出てきたストーカー・がこちらの様子を窺っていた。

「アナタも厄介なお人に好かれたものですねぇ。」
「なんだってこんなオッサンを付けまわすんだいアイツは……。」
「そりゃ俺が聞きてぇよ。」

俺という超絶イケメンが傍に居ながら、
どうしてこんなくたびれたオッサンの方に目が行くのか。
は一応、世間一般で言う“美少女”の部類に分類される。
もちろん中身は別としてだが、女としてのレベルは高い方だ。
そんながどうして寄りにも寄って似蔵なんかに惚れるんだ。
俺は隣でうなだれている似蔵を横目で見つつ、眉間にしわを寄せた。

「あれ?じゃないッスか。また似蔵のストーカーしてるんスか?」

後ろからそんな声が聞こえてきたと思ったら、
今度はバカデカい声でが『しーっ!!』と声を出す。

『静かにしてよまた子ちゃん!見つかっちゃうじゃない!』
「もう既に手遅れだと思うッスけど。」

叫ぶように言ったの声は勿論俺たちに丸聞こえだ。
まぁ随分前からの存在に気づいては居たが、
あぁも分かりやすく自分の存在をバラすなんて、アイツは隠密には向いていないな。
いやそれ以前の問題か。あのバカには何をさせても失敗する予感しかしない。

『それにこれはストーカーじゃないよ!列記とした片想いさ!』
「いや、言ってる意味が良くわかんないッスけど。」

呆れたようににツッコミを入れた後、また子は深い溜息を吐いた。

「お前もったいないッスよ。一応ちゃんとした美少女なのに。」
『ホント?美少女?似蔵さん好みの美少女?』
「アイツは目が見えないだろーが。
 どうせストーキングするなら晋助様にすればいいのに……。」
『え?何で?晋助よりも似蔵さんの方がカッコいいじゃん。』
「んっだとテメェゴルァ!!!!!その腐った目ん玉に一発お見舞いしてやろうか!!!!」
『ぎゃー!!また子ちゃんが怒ったぁぁ!』

そんな馬鹿馬鹿しい会話の後、数発の発砲音がその場に鳴り響き、
『ぎゃあぁぁ』と叫ぶが銃声と共に俺たちの方へと逃げ込んできた。

『武市先輩助けてー!!また子ちゃんがー!!』
「おやおや、またですか?
 どうせまた似蔵さんと晋助さんを比べて怒られたんでしょう。」
『何が悪いのよ!!そりゃ比べるよ!だって人間だもの!』
「相変わらず仰ってる意味がよく分かりませんが、
 ストーカーなら本人の前に姿を見せてはいけないんじゃないですか?」

騒ぐに対して変平太が冷静にそう言えば、
はハッとしてピタリと動きを止め、そしてゆっくりと似蔵の顔を見た。

『あっ、いや、あの、違うんです!!
 これはそのっ、全然ストーカーとかじゃないですから!高みの見物ですから!!』
「さん、日本語は正しく使わないと相手に伝わらないんですよ。」

相変わらずの電波っぷりを発揮するに、変平太は溜息混じりにそうツッコんだ。
するとさっきまでに向かって発砲していたまた子が
銃を腰元のホルダーに直しながらゆっくりと鞠末の元へ歩み寄り、
「これで許してやるッス」と言いながらの脳天に軽くチョップをした。
するとはチョップされた頭を擦りながら恨めしげな目でまた子を睨む。

『痛いよぅまた子ちゃん。』
「晋助様を悪く言ってその程度で済んだ事に感謝してほしいッスね!
 お前今度晋助様を悪く言ったらただじゃおかないッスよ!?」
『じゃあまた子ちゃんも似蔵さんに惚れたらただじゃおかないからね!』
「誰が惚れるかお前じゃあるまいし!!」

またギャーギャーと口喧嘩をし始めた2人を、
近くに居た変平太が「まぁまぁ、」と呆れながらも宥めていた。

「の奴、ストーカーは堂々とするくせに告白はしねぇんだな。」
「いま告白されたも同然だった気がするけどねぇ……。」
「直接好きだと言われたことはねぇんだろ?」

喚く3人から呆れ顔の似蔵に視線を移せば、
似蔵は「んー、」としばらく考えて、少し驚いたように「ないねぇ、」と言った。

「このあいだ目の前で『惚れてまうやろーッ!!!!』とは叫ばれたけど、
 それ以外はカッコいいだの可愛いだの褒められてばかりだね。」

俺は『惚れてまうやろーッ!!!!』が一体どんな状況で出てきた言葉なのか
激しく気になったが、あえて深くは追求しなかった。

「テメェもいい加減はっきり言ってやったらどうだ。
 かなりうっとうしいから船から飛び降りろとか。」
「いや……俺は……。」

似蔵は言葉を濁しながら、まだ変平太たちと騒いでいるを見た。

「何て言うのかねぇ……別に嫌でもないけどね。
 確かに言動はおかしいと思うけど、可愛いじゃないかい、は。」

似蔵のその言葉に、俺は一瞬にして言葉を失った。




滴は岩をも穿つ

(テメェ正気か?あのド変態ストーカー電波野郎が可愛いだと?) (晋助さん……なにもそこまで言わなくても……) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 六万打本当にありがとうございました! 暴走シリーズすんごい楽しい。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/10/16 管理人:かほ