しょうせつ

よく恋愛ゲームとかで選択肢がエンディングに関わることってあるじゃない?
好感度だか親密度だか知らないけど、
とにかくその時選んだ選択肢が相手とのキョリに影響してくるじゃない?
あの時のアタシはちょっと安心してたのかもしれない。
自分の何気ない発言は、エンディングには影響しないんだって。





 

【今度からブタ野郎って呼んでいい?】

その日は朝から本当に何の変哲もない一日だった。 普通に朝起きて、学校行く用意して、学校に来て、 他のクラスよりもちょっとだけ騒がしい3年Z組に入って、 みんなに「おはよー」って挨拶して、お妙ちゃんと神楽ちゃんのトコ行って、 昨日テレビ何見た?宿題した?なんて会話を繰り広げて、 チャイムと共に銀ちゃんが入って来たから自分の席に着席する。そんな朝。 そこからは普通に授業を受けた。 1限目は服部先生の社会。 やたらと「織田信長は実は痔」という単語が飛び交ってたけど、 まぁこれはいつもの事なのでアタシ達は全く気にしなかった。 2限目はミツバ先生の家庭科。 「お味噌汁にタバスコ一本」がテストに出ると言われた時は さすがのアタシ達も言葉を失ったけど、まぁこれもいつものこと。 3限目は坂本先生の数学。 前で問題を解いたおりょうちゃんに正解したご褒美とか言って 先生がおしりを触って殴り飛ばされるという至って普通の授業だった。 4限目は岡田先生の生物。 開口早々「この中で内臓ぶちまけられてもいい奴はいるかい?」だったけど、 まぁアタシ達にとっては何の変哲もない……いややっぱちょっと変かも。 そんな怒涛の午前中が終わり、アタシはいつものように お妙ちゃんと神楽ちゃんと一緒に教室でお昼ご飯を食べていた。 ねぇそのおかず頂戴よ、えーじゃあ交換ね?なんて甘酸っぱい会話を繰り広げながら、 アタシの目の前では可哀想な玉子と真っ黒なタコさんが交換されていた。 この子達の料理のセンスと胃袋一体どうなってるの。 「あっ、そうだ。昨日ね、九ちゃんと好みの男性について話してたんだけど……。」 『えっ?九ちゃん男の子に興味あるの?』 お妙ちゃんの言葉にアタシがご飯をもぐもぐしながら尋ねれば、 神楽ちゃんも驚いたように「意外アル!」と声をあげた。 「あら、九ちゃんだって列記とした女の子よ?  異性に興味を持つのは当然のことだわ。問題はあなたよ、ちゃん。」 咎めるような心配するような表情のお妙ちゃんがそう言ってアタシを見つめてきた。 その顔はまるで30過ぎても結婚しない娘を見る母親のようだ。 すると神楽ちゃんも同じような目でアタシを見つめ、 「アネゴの言う通りネ」なんて一緒になって言ってくる。 『ちょ、ちょっと待ってよ!何でアタシが問題なの?』 2人の予想外の行動にアタシが慌ててそう尋ねれば、 お妙ちゃんと神楽ちゃんは2人同時に顔を見合わせ、ふぅ、と溜息を吐いた。 「ちゃん結構モテてるのに誰とも付き合わないじゃない。  この間だって、2年生の子に告白されたって聞いたわよ?」 『あっ、あれは……その、あんまり好みじゃなかったし……。』 「そんなこと言っては男を泣かせすぎヨ。理想が高すぎるネ。」 『えっ、えぇ〜?』 自分ではそんなつもりはなかったんだけど、 うんうん頷く2人を見て、アタシって理想が高いのかも、と心配になってきた。 そりゃ確かに今まで色んな人から告白されてきたけど、 メールとか手紙で告白されてもいまいちときめかないし、 直接言いに来てくれても、みんな震えたりオドオドしたり、なんだかなぁって感じ。 『アタシは強引な人の方が好きなんだけどなぁ……。』 アタシが呟くようにそう言えば、お妙ちゃんが驚いた様子で口を開く。 「ちゃん、あなたMだったの?」 『えっ!?いやいやいや!Mじゃないよ!?  ただちょっと強引に来てくれた方がときめくなって話!』 さっちゃんの所為でMに対してあんまりいいイメージのないアタシは お妙ちゃんの「M疑惑」を全力で否定した。 しかしもう時すでに遅しだったらしく、お妙ちゃんと神楽ちゃんは 「はM!」「やだ可愛い!」なんて勝手な会話で盛り上がっていた。 『ちょっと2人とも止めてよ恥ずかしい!  確かにSっ気がある人は好きだけど、そんなんじゃなくて……!』 アタシはきゃいきゃい盛り上がる2人に届くように結構大きめの声でそう叫んだ。 今思えば、もうちょっと小さい声で言っとけばあんな事にはならなかったのに……。 人生というものは常に「後悔先に立たず」なのだ。 エブリタイム時すでにおすし。間違えた、遅し。 「何でィ、Sが好きなら好きってさっさと言えばいいじゃねぇかィ。  まさかこんな所で公開告白されるなんて思ってもみなかったぜ。」 突然後ろから聞こえてきたその声に、アタシは全力で後悔した。 そうだった、このクラスにはこの人が……!! 「しょうがねぇなァ。じゃあドS代表の俺が付き合ってやるとするかねェ。」 ブリキの人形のようにぎこちなく振り返ったアタシの目の前には、 すこぶる悪い顔でニタリと微笑む沖田君の姿が。 その顔はまさしくスーパードS・サド王子と呼ぶに相応しいものだった。 『(し、しまったァァァ!!!!!ドS(コイツ)の存在をすっかり忘れてたァァ!!!!)』 ドSの居る教室で「Sが好き!」なんて言えばそりゃ誤解もされるわな! しかしアタシは本当にMなんかじゃないんです!至って普通の女子高生なんです! だから沖田君とは付き合えません!って言うかマジ勘弁して下さい!! そんなことを声を大にして言ってやりたかったが、 沖田君って普段あんまり喋った事ないしドSだってこと意外知らないから、 うかつに断ってマジギレされたら怖いしとてもじゃないけど言えなかった。 怪力おてんばガール神楽ちゃんといつも死闘を繰り広げてるって聞くし、 とりあえず怒らせないようにやんわりとお断りしないと……。 『あ、あの、あはは、ご、ごめんね沖田君。聞こえちゃった?  いやー、確かにアタシはSっぽい人が好きかもしれないけど、  そのSの中に沖田君は含まれてないって言うか……  アタシ、沖田君がドSだなんて全然思ってないよ?  優しい子だよ、沖田君は。あれ、アタシ近所のおばちゃん?』 引きつった顔でそこまで言ったアタシを、 沖田君はいつものクールなベビーフェイスで見つめてくる。 その顔は果てしなく無表情で、怒ってるのか何考えてるのか全然分からない。 でも逆にそれが怖い。この子一体何考えてるの!? 「分かった。」 『え?』 突然聞こえてきたその言葉に、アタシは耳を疑った。 沖田君、今「分かった」って言った?え、今ので分かってくれたの?ホントに? アタシ近所のおばちゃんみたいなことしか言わなかったけど、それでOKなの? 思いも寄らない展開にアタシがホッと胸を撫で下ろしたその時、 沖田君がまたもや無表情でこう言った。 「じゃあとりあえず、今度からブタ野郎って呼んでいい?」 『何がとりあえずぅぅ!?沖田君人の話聞いてたぁぁ!?』 あまりの衝撃にアタシがその場でガタンッと立ち上がりながら叫べば、 クラスの子達がビックリしてアタシ達の方を振り向いた。 そして沖田君の姿を確認した途端、「あぁアイツか」と瞬時に目線を元に戻した。 『沖田君さっき分かったって言ったよね!?一体何が分かったの!?』 「俺とが……おっといけねぇ、俺とブタ野郎が付き合ったってことが。」 『ブタ野郎やめてくれる!?付き合うならせめて愛情を見せて!!』 アタシはそこまで言ってハッと息を呑んだ。 やってしまった…………見る見るうちに顔が真っ青に染まるアタシの前には、 してやったりとニンマリ微笑む沖田君の憎たらしい顔。 「しかと聞いたぜィ。愛情見せたら付き合うんだって?」 『い、いや……今のは言葉の綾ってやつで……。』 「安心しろィ。俺と付き合ってたらそのうちなれるって、ドMに。」 『全然安心出来ないんだけどォォ!?別にドMになりたいわけじゃないし!!』 アタシがこんなにも全力で否定してるっていうのに、 沖田君はアタシの話なんて全然聞かないで楽しそうにニヤリと微笑んでいる。 そして突然アタシの肩に手を置き、グッと顔を近づけてこう言った。 「今日からよろしくな、。」 至近距離にあるそのイジワルな顔が、ちょっとカッコよく見えた、なんて。 ブタ野郎から名前呼びになっただけなのに、 ちょっと……ほんのちょっとだけ、キュンときちゃった……なんて。

認めたらける気がするから言わないけど

(オイドS。テメー私のに手ぇ出したらただじゃおかないネ) (まだ指一本触れてねぇやィ。まぁ時間の問題だけどな) (んっだとゴルァァ!!) (きゃー!2人ともこんなとこで喧嘩しないでー!!) (あらあら、青春ねぇ) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 六万打本当にありがとうございました! 私は「ドS」よりも「飴と鞭」の方が大好きです。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/10/09 管理人:かほ