2月14日、バレンタインデー。 それは女の子が男の子にチョコをあげる日。 その日は一日中、男子はそわそわし、女子はきゃいきゃいする。 …………はずだった。【陰陽師達のバレンタインデー】
『……チョコって武器になるんやな……。』 「おい、聞こえるぞ。」 「、女であるお主がなんとかせんか。」 『だってアタシ家で作ってきちゃったから アタシまで台所立ち入り禁止にされてもーたんやもん……。』 アタシは隣で冷や汗をかいている晴明にそう答えた。 ちなみに左には道満が、同じく冷や汗をかきながら台所を眺めている。 その目は遠くを見ている目だ。(焦点が合ってない……) 「道満、お主クリステルに料理をさせんかったのか?」 「だって女中居るし……。」 『んなことしてるから台所から煙幕がたれ流れてくんねん。』 「そう言う晴明こそ、クリステルに料理を覚えさせなかったのか?」 「大事な妹に刃物を持たせるわけにはいかんからのう。」 『このシスコン。』 「完全に貴様が悪いだろ。」 アタシと道満は一緒に晴明を睨みつけた。 それに晴明は一瞬ひるみ、バツが悪そうに顔を背ける。 何でアタシ達がこんな雰囲気になっているかと言うと、 全てはクリス姉さんが(多分)チョコを作っている台所から 紫色の煙が立ち込めてきた所為だ。 アタシはもう既に家でガトーショコラを作って来てしまったので、 クリス姉さんに台所立ち入り禁止令を出されてしまった。 勿論、今日だけは台所は完全に男子禁制である。 『どうすんねんコレ。アタシあんなん食べたくない。』 「俺だって嫌だ。ここはシスコンの晴明に処理を任せるしかないな。」 「ちょっと待たんか!それを言うなら仮にも元旦那のお主じゃろうが!」 「こういう時だけその話を持ち出すな!」 『アタシは晴明が食べるに一票!』 「ほれみろ!多数決で決定だな!」 「なっ!?お主らはこういう時だけ一致団結しおって……!!」 アタシ達の言葉に、晴明がわなわなと体を震わせながらそう言った。 だってクリス姉さんが料理出来ないのは今まで料理させなかった晴明の所為だし。 結婚していたとはいえ、ほんの一年ちょっとだから道満はギリセーフね。 「なら同じ女としてが食べてやればよかろう。」 『はぁ!?アタシに押し付ける気ぃ!? ええよそんなこと言う晴明にはチョコあげへんから!』 「ま、待て!分かった!わしが全部食べてやろう! しかしその代わり、お主のチョコは全部わしのものじゃぞ!」 「おい!何でそうなるんだ!!」 『ん〜……全部食べてくれるんやったら……。』 「もそこで考えるな!!」 ギャーギャーと口喧嘩をしていたアタシ達は、 いつの間にか台所の煙が止まっていた事に気がつかなかった。 そして着々とその兵器はアタシ達の所へと近づいていた。 「みんなお待たせ〜。やっと出来たわよー。」 『……っ!!!!クリス姉さん……。』 「……クリステル、その手の中の物体はなんじゃ。」 「何って、チョコレートケーキよー?」 「何をどうしたら紫色のチョコレートケーキが出来るんだ。」 「ちょっと失敗しちゃったみたいなのよ〜。」 『ちょっとか?それ……。』 アタシ達はニコニコ笑顔の下に 紫色の物体(もはやチョコレートケーキなんて恐れ多くて呼べない)を携えて 居間に入ってきたクリス姉さんを見て一瞬で凍りついた。 3人とも苦笑いで顔が引きつっている。 冷や汗なんて既に出てこない。 「さ、遠慮なく召し上がれ〜。」 クリス姉さんはアタシ達の様子なんか気にも留めずに 物体Xをテーブルの上に置き、笑顔で食べるように勧めてきた。 お盆の上にはちゃっかり小皿とフォークまで乗っていて、 もはやどこにも逃げられない状態に陥ってしまった。 『……せ、晴明、先に食べてもええよ。』 「いやいや、ここは道満に一番最初に食わせてやるべきじゃろう。」 「遠慮するな晴明。俺は茶でも入れて来よう。」 「あら、いいのよ道ちゃん。みんなは先に食べてて頂戴。 私がお茶を入れてくるから。」 いや、アタシが行く!!!!と口に出す前に、 クリス姉さんは穏やかな笑顔で台所へと戻って行ってしまった。 一瞬、唯一の逃げ道を断たれ絶望の淵に立たされたが、 この隙に目の前の物体Xをどう処理するか作戦会議を始めようと 3人一斉に後ろを向いて頭を寄せ合った。 「どうするんじゃ。」 『やっぱ晴明が全部食べるべきやと思うねん。』 「全部食べたらわしと結婚してくれるか?」 『こ、この状況でそんなんされたら真剣に考えるかもしれへん……。』 「ちょっと待て。じゃあ俺が全部食べる。だから俺と結婚しろ。」 「待たんかバツイチ。」 「バツイチと呼ぶな!!貴様の所為だろ!!!!」 『まぁまぁ道満。晴明も、その呼び方禁止。』 「道満、お主は一度結婚しておるではないか。 婚約の機会は均等に、平等に与えられるべきじゃとわしは思う。」 「どこの政治家だ貴様は。 タイミングと相性さえ合えばいつ誰が結婚しようと構わんだろう。」 『道満はクリス姉さんと相性合わへんかったけどな。(笑)』 「笑うな!!!!!」 「あらあら。3人とも仲良しねぇ〜。お茶入れてきましたよー。」 突然後ろから聞こえたクリス姉さんの声に、 アタシ達は一斉にバッと後ろを振り返った。 しまった……!! 下らない口喧嘩をしている間に折角のシンキングタイムが終わってしまった……!! アタシ達はとうとうクリス姉さんによって綺麗に3等分された 紫色のケーキを目の前にコトンと置かれてしまった。 勿論、紫色の食材は一切使っていない。(むしろ茶色の食材だ) 「…………、道満。覚悟を決めるぞ。」 『うぅっ……アタシ涙出そう……。』 「、紫芋のケーキだと思え。気持ちが楽になるぞ。」 こうしてアタシ達は意を決し、 決しちゃったから一週間寝込むことになってしまったとさ。アンハッピー・バレンタインディ!
(ちゃんのチョコおいしかったわ〜♪皆寝込んじゃって残念ねぇ) (あ、あはは……それは良かった……) (一体誰の所為だと……) (明日からクリステルも台所に立たせよう……) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ ウチの陰陽師たちはとっても仲良し! そしてウチのクリス姉さんはとんでもない人になってしまった……。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2010/02/15 管理人:かほ