しょうせつ

「銀時様じゃねぇ、社長と呼べ。」

こうして俺はかなりカッコつけて巳厘野家へと走ってきた。
俺の後ろを神楽と新八がかなりイイ感じでついて来る。
場面転換したらまさかの新八が式神というオチへの伏線もバッチリだ。
外道丸も俺の味方についたし、あとはお兄たまを助けてめでたしめでたし。

……の、はずだった。





 

【何でもかんでも都合良く話が進むと思うな】

…………。」 巳厘野家の道場的な所にたどり着いた俺は絶句した。 俺の予想ではお兄たまが巳厘野の呪法によって苦しめられてて、 それを俺と外道丸のタッグが華麗に助ける感じだった。 しかし、お兄たまは全くの無傷だし、 巳厘野の奴に至っては向こうの方で既に瀕死状態だ。 俺の後ろから駆けつけた神楽と新八も、この状況には言葉を失った。 「いやいやいやいや。」 「……っ!銀時!貴様なぜ追いかけてきた!」 「そりゃ勿論、お兄たまを助けるために……。」 しかし、それは完全にいらぬ世話だったようだ。 俺と神楽と新八はお互いに顔を見合わせた。 「あれは……様じゃございやせんか。」 いつの間にかお兄たまの隣に移動していた外道丸が嬉しそうにそう言った。 その声に俺達が向こう側を覗くと、 頬に手を添えながら泣きそうな顔で床に崩れ落ちている道満と、 その前に腕組みをして仁王立ちしている少女の姿が見えた。 って言うか、外道丸の嬉しそうな声なんて初めて聞いたぞオイ。 「あの、お兄たま。って……?」 「あぁ。結野家が結成以前からお仕えしている家の跡取り娘の事じゃ。」 「え、結野家って幕府だけに仕えてたんじゃないんですか?」 お兄たまの答えに新八が驚いてそう尋ね返した。 すると今度は外道丸が問いに答える。 「結野家と巳厘野家は、元々は1つの家だったんでござんす。  しかし、ある日その家の兄弟が女を取り合って仲違いし、  2人の子孫が当時敵対していた家に別々に仕える事となりやした。  その時、後の結野家の血筋が仕えたのが、様の家でござんす。」 外道丸の説明に、なんとな〜くだが話を理解した俺達。 つまりだ。 あそこに居るのは大昔から陰陽師を雇うくらいの大金持ちの娘という事だ。 しかも跡取りということは、かなりのお嬢様なんだろう。 「へぇ……あの女の子、凄い人なんですね。」 「その割には道満相手に華麗な右ストレートを繰り出してんだけど?」 「様は相手に権力と家柄を振りかざさない素敵な女性なんでござんす。」 「暴力は清々しいくらい振りかざしてるけどね。  あれ素敵って言うか相応しくないよねお嬢様に。  お嬢様は右ストレートなんて繰り出さないもの、  バックドロップなんてかまさないもの。」 俺は泣き出しそうな顔で正座させられている道満に激しく同情した。 これからお兄たまと式神デスマッチを行おうとしていた 陰陽師編のボスキャラだとは到底思えない姿だ。 『アタシな、クリス姉さんの占いが当たらへんようになった時から  何かおかしいなぁとは思っててん。  でもこっちで解決するやろ思てずーっと黙っててん。  そしたら何なん?クリス姉さん番組降板て何なん?アタシに喧嘩売ってんの?』 「いや、あの……。」 『そりゃ晴明と道満は昔から仲悪かったし、  クリス姉さんとの結婚の話もアタシは完全に晴明が悪いと思てるよ?  でも嫌がらせにも程があるやんか。巳厘野家潰したろか?』 「いや、それは勘弁して下さい。」 『じゃあもーこんなしょーもない事止めや。』 「はい、すみませんでした……。」 さっきまで自信満々で高笑いをしていた人物とは思えないほど、 道満は縮こまってという少女に何も言い返せない状態だった。 それを俺達が唖然として見ていると、お兄たまがはぁ、とため息をついた。 「やはりには敵わんな……。」 「あの、晴明さん。さんと晴明さん達って、どういう……。」 「本来ならば幼い頃より完全なる主従関係のはずなのじゃが、  あやつの性格上それが気に食わんかったようで、まぁ幼馴染という奴じゃ。」 「幼馴染アルか。」 「おっかねー幼馴染も居たもんだぜ。」 「しかも晴明様は昔から様に惚れているでござんす。」 「げ、外道丸!!!余計なことを言うではないわ!!!!」 明らかに照れているお兄たまに俺達が『はは〜ん』という顔をすると、 お兄たまはさらに赤くなって慌て始めた。 何なのこの人、どんだけ分かりやすいの? これは結野アナとの結婚を許してもらう時の イイ脅迫材料を手に入れたかもしんねーな。 『ほな、クリス姉さんの降板はアタシが裏で阻止したるから、  道満はもう晴明と喧嘩せんようにな!晴明もやで!?』 がビシッとお兄たまを指差しながらこちらを向いた。 今まで後姿しか確認出来ていなかったが、こりゃ相当のかわいこちゃんだ。 お兄たまが照れて思わず顔を逸らしてしまうのも分かる気がする。 『晴明返事!!』 「わ、分かっておる!」 『よっしゃ!じゃあ仲直りの印に一緒にご飯食べよか♪  一番広いんは結野の道場やったっけ。今からそこに夕食の支度させるから☆』 「え!?ちょ、ちょっと待て!  まさか巳厘野と結野の全員を巻き込む気じゃ……!?」 『そうやけど?何か文句ある?』 「大有りじゃ!大昔から続いてきた両家の対立を、  よもやこんな茶番劇で終わらせようなどとは思って居らんじゃろうな!?」 『アカンの?』 「「当然(だ・じゃ)!!!!」」 見事にハモった2人の声に、は一瞬キョトンとした顔になり、 その後見事なブラックスマイルを作り上げた。 『ア・カ・ン・の?』 「「いえ、滅相もございません。」」 同時に土下座したかと思ったら、またしても2人の声がハモる。 一緒に居た俺達でさえ顔から冷や汗が流れてくるほどの威圧感だった。 こりゃ誰も敵わねーわ。 そう思って苦笑した俺は、一瞬で前言を撤回することとなる。 『じゃあ2人とも、また昔みたいに仲良ぉしょーな♪』 さっきのブラックスマイルの主とは思えないほどのとびっきり可愛い笑顔に、 その場に居た全員が式神デスマッチなんかどうでも良くなってしまった。 今まで真っ青な顔で土下座していた2人までもが、 の笑顔に一瞬でだらしない顔になっちまったんだから。 そりゃこんな可愛い笑顔見せられたら、誰も敵わねーわな。

こうして話は破綻する

(え、で?俺達の出番は?) (銀さん、潔く諦めましょう) (最初から私達に見せ場なんてなかったアル) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ あれれ、ウチにしては珍しい最強ヒロインだな……。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2010/05/24 管理人:かほ