しょうせつ

人に言ったらただの憧れだってバカにされるかもしれない。
そう思ってずっと黙ってたけど、
あの笑顔を前にこの気持ちを押し殺しておくなんて出来なかった。

「さん、あの……。」

顔を真っ赤にして汗びっしょりで言った僕に、
さんはいつもの優しい笑顔でこう言ってくれた。

『ありがと。とっても嬉しい。
 でもゴメンね。アタシまだ新ちゃんのことそういう風に見れないの。』

いつもの優しい笑顔が余計に心を抉ってきたけど、
ダメージを受けて悲しい顔をした僕に、さんはやっぱり笑ってこう言った。

『やだもう、そんな顔しないでよ。“まだ”って言ったでしょ?
 もし新ちゃんがカッコいい大人になって、
 それでもまだアタシのことを好きで居てくれるなら、
 そしたらもう一度プロポーズしてくれる?アタシ思わず抱きついちゃうから。』

まるで陽だまりのような温かい笑顔で僕の頭を撫でるさんに、
僕は心の中でやっぱりこの人しか居ないなぁと思った。

「なぁー、お前本気で新八と付き合うつもりなの?」

僕があの日の出来事に「ほぅ……」と思いを馳せていると、
社長イスでいつもみたいにダラダラと怠けていた銀さんが
突然思い出したかのようにさんにそう尋ねた。
するとさんは神楽ちゃんとオセロをしていた手を止め、
『何か問題でも?』と言いながら可愛らしく小首をかしげる。

「だってコイツ童貞だぜ?まだガキなんだぜ?俺の方が絶対イイ男なのによー。」
『あら、新ちゃんだってイイ男よ?真面目で一途で素直だし、
 剣の腕だって実践さえ積めば銀時を抜かしちゃうかも。』
「あぁ?そりゃねーよ、お前新八を買いかぶり過ぎだっつの。」

僕は銀さんのその言葉に心の中で頷いた。
さん、嬉しすぎるくらい僕のこと過大評価してくれてる。
そりゃ自分で言うのもなんだけど、僕は真面目で一途だとは思う。
でも、剣の腕はまだまださんにも及ばないし、
僕のは道場剣術で真剣での斬り合いとなるとやっぱりまだ足がすくんでしまう。
そんな僕の思いとは裏腹に、
さんは『そうかなー?』と言いながらまた小首をかしげた。

『アタシは本気で新ちゃんは将来イイ男になると思ってるんだけどなー。』

口を尖らせながらそう言ったさんに、僕は思わず心の中でガッツポーズをした。
可愛い!さんその表情超可愛い!!僕のストライクゾーンですさん!!
アイドルとして売り出したら確実にヒットするであろうその可愛さを、
こんなボロいところで燻らせるにはもったいないと思いつつも、
僕たちだけのものっていうのもイイよなぁと常日頃から思っている僕は
つくづくオタク体質なんだと思う。

「あのダ眼鏡がイイ男になるなんてありえないネ。せいぜいマダオ止まりヨ。」

鼻くそをほじりながら言った神楽ちゃんに、さんは『えぇ?』と苦笑する。

『それはないよ。だって最底辺のマダオを見て育ってんのよ?
 反面教師って言葉があるように、新ちゃんは絶対にマダオになんてなりません。』
「オイ、一応聞くがその最底辺まさか俺じゃねぇだろうな。」

こめかみに青筋を立てて言う銀さんを華麗にスルーして、
さんはにっこりと微笑みながら僕の方を見た。
不意打ちのその笑顔に、僕の心臓は思わず飛び跳ねる。

『新ちゃんはどっかの誰かさんと違ってホワイトデーのお返しに丸一日悩んだり、
 誕生日のプレゼントは一週間前から考えててくれたり、
 すっごく一生懸命してくれるもんねー?』
「へっ!?ど、どうしてそれを……!!」

ねー?と言いながら笑顔で首を傾げたさんを可愛いと思いつつも、
僕は今までの自分の行動が全部モロバレだったことに驚いた。
さん、まさか結構前から僕がさんのこと好きなの知って……!?
観察力があるさんのことだから、
僕のチェリー行動を今まで全部把握していたのかもしれない。

それならそうと早く言って下さいよ!!恥ずかしいじゃないですか!!
バレないようにバレないようにって今までしてきた行動が、
まさか思惑まで全部筒抜けだったなんて!
顔から火が出るくらい恥ずかしいじゃないですかー!!

口には出さなかったけど、顔にはバッチリ出ていたらしく、
銀さんと神楽ちゃんがニヤニヤしながら僕の顔を見つめていた。
クソ!コイツ等腹立つな!
そのムカつく面めがけて鼻フックデストロイヤーをお見舞いしてやろうか!!

「まぁ全部バレてたんだとしてもお前の行動はの母性を射抜いたわけだ。
 よかったなぁ新八ィ、チェリーが思わぬ強みになったじゃねぇか。」
「でもそんなんでを守っていけるアルかー?
 お姫様抱っこくらいは出来ないとねぇ奥さん。」
「そうよねぇ奥さん。」

銀さんと神楽ちゃんはニタニタとムカつく顔でそんな会話を繰り広げた。
僕も一応武士の子だ。ここまで言われて黙っておくわけにはいかない。
意を決した僕はおもむろにさんの元に歩み寄り、
「失礼します」と一言断りをいれてからさんを抱えあげた。

『きゃっ!?ちょっと新ちゃん!?』

驚いた顔で僕の首に腕を回してくるさんに、僕の心臓は今にも潰されそうだ。
ちょっと照れて赤くなっている顔がたまらなく可愛らしい。
でも今そんなことを考えたらさんを落としてしまいそうなので、
僕は心頭滅却してあくまで真顔を貫いた。

「おぉ!新八お前のことお姫様抱っこ出来るアルか!」
「そりゃあ僕だって鍛えてるからね!!」
「すげぇな、お前のことちょっと見直したわ。」
「もっと言ってくれて構いませんよ銀さん!!」

さんをお姫様抱っこし続ける僕に
2人が驚いたような感心したような目を向ける中、
当のさんはとても申し訳なさそうな目で僕を見てきた。

『し、新ちゃん、もういいよ、重いでしょ?』
「そんなことありません!!だってさん軽いですもん!!
 これくらい……どうってこと……ふぐぐ……っ!!」
「メチャクチャ重そうじゃねーか。」

それから僕はさんをゆっくりとソファにおろし、乱れた息を整えた。
どうやらまだ鍛え方が足りないみたいだ……恥ずかしいところ見せちゃったな。

『新ちゃん大丈夫?お水持ってこようか?』
「あ、あの、さん。」
『ん?』

ぜーぜー言ってる僕を心配そうに見つめるさんに、
僕は情けないくらい弱々しい声でこう言った。

「僕がさんをずっとお姫様抱っこできるようになったら、その時は、僕と――」




結婚してくれますか?

(僕の言葉にさんは一瞬驚いたような顔をして、) (そしてちょっとはにかんで、小さくうんと頷いてくれた) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 六万打本当にありがとうございました! 初新八夢、やっぱり彼はチェリーボーイです! ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/10/09 管理人:かほ