しょうせつ

某日某所。
今日は警察組織のお偉いさん方が集まって
今後の方針などについて話し合うデカい会議があるととっつぁんに言われ、
何故か真選組の局長である俺も強制的に参加することになった。

いや、俺も一応局長だからそこそこお偉いさんであることには変わりないのだが、
しかし今後の方針云々言われても学のない俺には全く分からない。
そこら辺を熟知しているとっつぁんがそんなデカい会議に俺を呼ぶなんて、
最初からおかしいとは思っていたんだ。

俺はとっつぁんの言葉を疑いつつ、
念のため頭のいいトシを連れて迎えの車に乗り込んだ。
トシもとっつぁんを疑っているのか、車中ではずっと硬い顔をしていた。
そして、俺たちを乗せた車が辿りついた場所は……。

「「……居酒屋のんべえ?」」

俺とトシの声が見事にハモったその数時間後には、
ベロベロに酔ったとっつぁんと見廻役のさんの声が華麗にハモっていた。

「『エリートがなんぼのもんじゃあああぁい!!!!』」

腹の底から叫んだ2人の声に呼応するかのように、
警察庁の職員達が「なんぼのもんじゃあああぁぁい!!!!!」と叫び声をあげる。

「アンタらよく佐々木殿の前でそんなこと言えたな!!」

俺はガタンッとその場に立ち上がり、
肩を組みながらケラケラ笑っているとっつぁんとさんにツッコミを入れた。
って言うか警察庁に勤めてる時点でお前等全員エリートだろうが!
ツッコミの勢いでそのままそう叫んでやりたかったが、
流石にそこまで言うと風当たりが良くなさそうなので言葉をぐっと飲み込んだ。

「いいんですよ近藤さん。私はエリートと言ってもエリート中のエリートですから。」

2人のすぐ隣でドンペリを飲んでいた佐々木殿がいつも通りの無表情でそう言った。
言ってることは意味不明だが、とりあえず機嫌は損ねていないらしい。

「それに、さんに罵られるのも悪くはないですから。」
「ダメだ!!この人酔ってる!!すでにへべれけに酔ってる!!」

俺が佐々木殿らしからぬ発言に思わずそう叫ぶと、
隣でチューハイを追加注文してたさんが
『佐々木君ってだいたいいつもこんな感じよ?』と言ってケラケラ笑った。

今更だが、俺たちは今デカい会議という名の呑み会に参加している。
警察庁長官であるとっつぁんが主催し、
表向きはお偉いさんの会議ということになってはいるが、
実際はご覧の通り、ただの酒飲み大会だ。

まぁ場所が居酒屋という時点で真面目な会議ではないことくらいは分かっていたが、
それにしてもあのお堅い警察庁の人間がこれだけ集まったのには驚いた。
おまけに同じテーブルにはあの佐々木殿と今井副長も居る。
大方、俺やトシと同じようにとっつぁんに騙されて来たんだろう。

いや、この人たちなら見廻役のさんに
無理やり連れてこられたという説も十分考えられるな。
佐々木殿、さんの言うことには逆らえないから。

『よーし!今日は仕事のことなんか忘れて暴れまくるわよー!』

さんがやってきたチューハイ片手に立ち上がってそう叫ぶと、
またしても警察庁職員の「うおおぉぉぉ!!」という叫び声が店内に響き渡った。
そしてその声に混じってあちこちから
「さん結婚してくれ!」「ちゃん愛してる!」といった言葉が聞こえてくる。
相変わらずのモテっぷりだなぁと感心している俺とは裏腹に、
佐々木殿とトシはこめかみに青筋を立てて周りを睨みつけていた。

「オイ佐々木ぃ、テメーも今日はエリートなんか忘れてパーっとやろうや。」

とっつぁんは真っ赤な顔でそう言いながら佐々木殿の肩にガッともたれかかった。
すると佐々木殿はきっと酒臭いであろうとっつぁんに対して表情一つ変えず、
いつもの平然とした顔で言葉を返す。

「エリートを忘れるって何ですか松平長官。」
「そりゃあオメェ、そのまんまの意味だるぉーが。」
『ちょっととっつぁん。佐々木君のアイデンティティ奪っちゃダメだよ。』

さんがそう言って会話に加わると、
心なしか佐々木殿の表情が穏やかになった気がした。
そして俺の隣に座っているトシの表情は少し硬くなった気がした。

『佐々木君からエリートを奪うってことは、近藤君からゴリラを奪うようなもんだよ?』
「ちょっとさん!?俺のアイデンティティはゴリラじゃないから!!」
『え?違うの?』
「私のアイデンティティもエリートじゃないですから。」
『またまたぁー。佐々木君ったらガラにもなくボケちゃってぇ。』
「いやボケてませんよ。」

佐々木殿がそう言うと、さんととっつぁんが何故かケラケラと笑い出した。
ダメだ。この人たち相当酔ってる。さんは顔には出てないけど相当酔ってる。
俺が心の中でそんなことを思っていると、俺の考えを読み取ったのか、
佐々木殿が真顔で「さんは普段からこんな感じですよ」と教えてくれた。
それはそれでどうなんだと、俺はただ苦笑いを浮かべるしか出来なかった。

『あっ、そーだ。土方君ってさぁ、犬の餌作るの上手なんでしょ?
 アレ何だっけ……土方スペシャルって名前の。』
「お前それ絶対総悟から聞いただろ……。」

やっと会話できたと思ったら話題がとんでもない方向に飛んでいったので、
トシは嬉しそうな複雑そうな、微妙な顔をしていた。
そんなトシの言葉にさんは『あれっ何でバレたの?』なんて言ってまた笑っている。

「それなら私も聞いたことがあります。
 なんでも、あらゆる料理にマヨネーズを山盛りかけた犬の餌だとか。」
「テメェ喧嘩売ってんのか……。」
『マヨネーズ?あぁそっか。土方君ってマヨラーだっけ?』

睨み合う佐々木殿とトシの間にはさまれているにもかかわらず、
さんは相変わらずの天使の微笑みで言葉を続けた。

『ねぇねぇ、土方君はアタシとマヨネーズならどっちが大事?』
「なッ……!?そっ、そんなもん……。」

突然の質問にトシが顔を赤くして口ごもった。
そして同じテーブルの人間にも聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で呟く。

「……お前に決まってんだろ……。」

その言葉に佐々木殿は眉間にしわを寄せたが、さんは何故かケラケラと笑った。

『あはは!そうだよね、アタシ一応上司だもんね。
 ごめんねなんか、言わせちゃったみたいで。』
「い、いや、そういう意味じゃ……。」

トシが遠慮がちに言おうとするのが早いか、
さんが『じゃあ近藤君は?』と言うのが早いか。
俺は突然話題を振られ、思わず「へっ?」と間抜けな声をあげてしまった。

『近藤君はゴリラとアタシ、どっちが好き?』
「そんなもんさんに決まってんでしょ!
 って言うか俺のアイデンティティはゴリラじゃないって何度言わせれば……!!」

俺が全力で抗議しているというのに、さんは相変わらずの様子でケラケラと笑い、
そしてとんでもなく可愛らしい笑みで俺にこう言った。

『嬉しい!アタシも佐々木君と近藤君なら近藤君の方が好き!素直だから!』

その満面の笑みに思わず顔を真っ赤にしてしまった俺に斬りかかってきたのは、
何故か佐々木殿ではなくものすごく怖い顔をした今井副長だった。




人をきつける天性の才能

(は渡さない……) (ぎゃあああ!?ちょ、刀はヤバい!刀はヤバいって今井殿!!) (信女、殺してはいけませんよ。全治4ヶ月くらいにしておきなさい) (何言ってんだ佐々木。2ヶ月くらいで勘弁してくれ) (ちょっとトシィィィ!?) (ぶわっはっはっは!!若いってのはいいなぁ!) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 私な、警察組な、むっちゃ好きやねん。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2012/05/06 管理人:かほ