しょうせつ
なっ、なんじゃこりゃあぁぁぁ!!!!!」

俺は現実を受け入れることが出来なくて、
少し高くなった等身で腹の底から思いっきりそう叫んだ。
しかし、その声は自分のものではない。
その証拠に、目の前には「俺」が目を見開いて俺を見ている。

「これは一体……。」

「俺」が冷静に、しかし動揺を隠せない様子でそう呟いた。
何なんだ……一体何が起こってるんだ?
確か俺は落し物を預かったからそれを持って屯所に戻ろうとして、
そうしたら佐々木のヤローにばったり出くわして、
お互いに社交辞令で挨拶を交わして、それから……。

俺はそこまで考えてもう一度目の前の「俺」を凝視した。
やっぱり俺だ。どっからどう見ても俺だ。
右手にはさっき預かった落し物を持っている。完全に俺だ。
いやでもちょっと待て。何で俺が目の前に居るんだ?
そもそも俺は一体誰なんだ?服が白いのは気のせいか?
コートの裾の辺りがやけにヒラヒラするのは気のせいか?気のせいなのか?

「どうやら、コレが原因のようですね……。」
「は?」

真剣な面持ちで手に持っている落し物を見つめながら言った「俺」に、
俺は思わず間抜けな声を出してしまった。
すると、それを聞いた「俺」が途端に嫌そうな顔をする。

「私の顔で間抜けな表情をするのは止めて頂けませんか。プライドに反するので。」
「お、俺はプライドに反するとか言わねぇぞ!」
「いや貴方じゃなくて私が言ってるんですよ。
 と言うかその言葉遣いも止めてください。エリートに反します。」
「エリートに反するって何!?」
「だから止めろと言っているでしょうがこのバカが!」

「俺」の中に入っているであろう佐々木は相当動揺しているのか、
普段なら絶対に言わないであろう台詞を吐いて微妙な顔をした。
多分、今のもエリートに反する発言だったんだろう。
エリートに反するってどういう意味か全く理解できないが。

「とにかく、原因はこの球体のようです。屯所に帰って部下に調べさせましょう。」

気を取り直すようにそう言った佐々木は、手の中に持っていた落し物、
もとい得体の知れない球体を見ながらそう言った。
その球体は側面にそれぞれ星とハートの穴があり、
半分ずつ赤と青に色が塗られているものだった。
そう言えば、さっきまでハートの方が青、星の方が赤だったはずなのに、
今はハートの方が赤、星の方が青になっている。
それもこの怪現象と何か関係があるのだろうか。

「全く……厄介なことに巻き込んでくれましたね。」
「なっ、俺のせいじゃねーだろ。俺も被害者なんだよ。」
「その言葉遣いは止めてください。
 はぁ……せっかくこの後さんと会う予定だったのに……。」
「と?」

俺は突然出てきた妹分の名前に、思わず眉間にしわを寄せた。
そう言えば今日はやけにの機嫌が良かったな……。

「と何するつもりだったんだよ。」
「貴方には関係ありません。それより、一刻も早く戻る方法を見つけねば……。」

こんな状況下でも冷静に事を運ぼうとする佐々木を目の前にして、
俺の頭の中には一つの名案が浮かんでいた。
どうやら俺は今、佐々木のヤローと体が入れ替わっている。つまり、俺は佐々木だ。
ということは、俺の行動は全部コイツに降りかかるわけだ。
俺が言ったこと、やったことは全部コイツの責任になる。

そこまで考えて、俺は佐々木に背を向けて全速力で走り出した。
後ろでは俺の声で佐々木が「待ちなさい!!」と怒鳴っている。
いつもだったら銃で動きを封じられていたのだろうが、
生憎「俺」は銃を携帯していないので今の佐々木にその手段はなかった。

いける。俺ならやれる。今の俺ならば、念願のあの夢が叶えられる!
俺は嬉しさのあまり思わず口角が上がってしまっていた。
このまま屯所まで走って行って、にとことん冷たく接する。
そうすればコイツとの仲を引き裂くことが出来る!
前々からと佐々木の仲には反対だったんだ。
大事な妹分をあんな腹の底知れない男に渡したくはない。
本人の意思とは関係なく、それは真選組内での決定事項だった。

そんなことを考えながら走っていると、やっと目の前に屯所が見えてきた。
俺は素早く屯所の門をくぐり、一目散にが居るであろう道場を目指した。

「!!」

俺は道場へ到着した瞬間、隊士達に茶を配っていたの名を呼んだ。
すると中に居た全員が信じられないと言いたげな顔で俺を見てくる。
無理もねぇ。アイツ等から見れば、いきなり佐々木が息を切らしながら
真選組に押し入ってきたようにしか見えないんだからな。

『さっ、佐々木さん?』

名前を呼ばれたが驚いた顔で俺に声をかけた。
その顔はどこか疑っているようにも見える。
いかんいかん。うまいこと佐々木を演じなければにはバレてしまうかもしれない。
コイツ変な時に限って勘が鋭いからな……よし、頑張れ俺。

「さん……今日は大事な話をしに来ました。」
『だ、大事な話?』

俺が佐々木を演じながらに近寄れば、
は驚いた様子で、しかし何の疑いも持たずに俺の顔を見つめてきた。

「実は私、さん以外の女性とも関係を持っているんです。」

隊士達の凄まじい殺気が突き刺さる中で俺がそう言えば、
その殺気はより強いものとなって隊士達が一斉に持っていた竹刀を握り直した。
アイツよくこんな殺気の中で今まで飄々とに近づけたもんだな。
俺はすでにギブアップ寸前だ。全力でこの場から逃げ去りたい。

『え……?あの、一体どういう……。』
「言ったとおりの意味です。
 なので今後さんとはいいお友達でいようかと思いまして。」

許せ。これもお前のためなんだ。
身分も違えば考え方も生き方も育った環境も全部違う、
そんな相手と一緒になって幸せになれるわけがねぇんだから。
と言うか、佐々木みてーな何考えてるか分かんねぇ野郎と一緒になって幸せになれるはずねぇ。
……と言うか、単純に佐々木のヤローが身内になるのが嫌だ。

俺にいきなり別れをきりだされたはしばらく黙って俺を見つめ、
そしておもむろにその目からポロリと涙を零した。
そんなの表情に俺が罪悪感を感じたと同時に、
隊士達の殺気がピークに達し全員が一斉に俺に襲い掛かってくる。

しかし、隊士達が俺にたどり着く前に、後ろから黒い隊服が俺に斬りかかってきた。


続く

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今回は土方君は悪者ってことで。


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2012/05/27 管理人:かほ