しょうせつ

それはある日の朝の出来事だった。
僕がいつものように万事屋へ出勤しようとしていた時、
万事屋の前に馬鹿デカい式神がいるのに気がついた。

いや、気がついたなんてレベルじゃない。
無視しようとしても目の中に飛び込んでくるほどのビッグサイズだ。
幸い朝も早かったので人通りもなく、大事に至ることはなかったが、
僕はちょっとした不安を胸に抱えながらとりあえず万事屋の中へ入っていった。

「銀時……今日は大事な相談があって来たんじゃ……。」
「あ、そうなんですかお兄たま。」

僕の予想通り、中では晴明さんが
なにやら深刻な顔をして手を顔の前で組み、ソファーに腰掛けていた。
その向かいでは神楽ちゃんが寝癖のままで酢昆布を頬張っていて、
銀さんは社長椅子でジャンプを読みながら
晴明さんの言葉に対して生返事をしていた。

「最近、がわしに冷たい気がするんじゃ……。」
「へー、そうなんですか。」
「小さい頃はよくお兄ちゃんお兄ちゃんと言って慕ってくれたというのに、
 最近ではわしのことを晴明と呼ぶんじゃ……!!」
「ふーん、大変っすねぇ。」
「それどころか、昔はよくしてくれた
 ほっぺにちゅーもしてくれんようになったんじゃ……!!!!!」
「そりゃ一大事っすねー。」

まるでこの世の終わりが来たかのような、
妙に演技がかった話し方をする晴明さんに対して、銀さんは相も変わらず生返事だ。
ちょっと見るに耐えなくなった僕はため息をつきながら会話に割り込んだ。

「ちょっと銀さん、アンタさっきから話聞いてないでしょ。
 ちゃんと聞いてあげて下さいよ、晴明さん困ってるんですから。」
「こんな下らねぇ悩み聞いてどーすんだよ。ただの惚気話じゃねぇか。」
「惚気話ではない!!これは愛の危機じゃ!!!!」

僕の言葉に銀さんがやっとこちらを向いて返事をしてくれたのに、
晴明さんが大真面目にそんなことを叫びだすもんだから、
痛いものを見るような目で晴明さんを見た後、
銀さんはまたジャンプに目線を戻してしまった。

「どんなに下らない相談でも、
 上手く解決した感じにして金さえ巻き上げればいいネ。」
「ちょっと神楽ちゃん!どこでそんな悪いこと覚えてきたの!!」

寝癖姿の神楽ちゃんの毒舌に僕がツッコんだ時、
急にガララッと玄関の開く音がして、1人の声が家の中に入ってきた。

『まいど〜。銀さーん、晴明どこに居るか知ら〜ん?』

結構値の張りそうな綺麗な着物を身にまとい、
とっても可愛らしい容姿と可愛らしい声でそう尋ねるさんは、
その外見とは裏腹に隔たりを感じさせない身近なオーラを放っていた。

神楽ちゃんが喜びながらさんの名前を呼び、
僕がさんに軽く挨拶をすると、急にガタッと晴明さんが立ち上がった。

「!!お主なぜここに!?」
『それはこっちの台詞やねんけど。アンタここで何してんの?
 今日は大事なお客さんが来るからって言うといたやろ?』
「そうなの?」
『そうや!なのに晴明ときたら朝っぱらからどっか行ってまうし!
 みんな困ってんで?今は道満がなんとかしてくれてるけど……。』

さんの言葉に銀さんが尋ねれば、
ちょっと怒ったような、拗ねたような、
なんとも可愛らしい仕草でそう答えるさん。
これは晴明さんでなくても、大抵の男ならキュンとくるに違いない。

「大事な用事放っぽって何下らない相談しに来てるネ、萌え。」
「下らない相談などではない!
 わしはこの悩みのせいで三日三晩眠れておらんのじゃぞ!?」
「超下らないアル。」
「お兄たま、とりあえず帰って用事済ませて寝て下さい。」

やっぱり大真面目に答える晴明さんに、
銀さんと神楽ちゃんの非常に冷たい視線が突き刺さる。
その様子に小首をかしげながらも、
さんは晴明さんに意外な言葉を投げかけた。

『晴明寝不足なん?じゃあ今日の祈祷は道満に任せる?』
「いや、それは……。」

さんのあどけない一言に困ったような顔になった晴明さんは、
すぐに返事をすることが出来なくてサッとさんから視線を逸らした。
それを見てため息をついた銀さんは
ジャンプを読むのを再開してさんに話しかける。

「がお兄たまに向かって
 “お兄ちゃん、お兄ちゃんだぁい好きvv(銀時裏声)”
 って言ったら回復するってよ。」
『はぁ?』
「なっ!?銀時貴様……!!!!」

やる気のなさそうな声でとんでもない事を言った銀さんに、
晴明さんがバッと銀さんの方を向いて怒ったような声を出した。

「いやっ、あのっ、実はさっき晴明さん、
 昔さんにお兄ちゃんって言われてたのが懐かしいなぁ、
 なんて言ってたんですよ!ねっ、晴明さん!」
「ん、まぁ……。」
『あぁ、そんな時期もあったなぁ。』

僕が慌ててフォローすると、
元々天然だったさんはあっさり話に乗っかってくれた。

『じゃあお兄ちゃん、さっさと帰ってきてくれへんかな?
 お兄ちゃん居らんかったら話進めへんのやけど?』

きっと深く考えずにそう言ったであろうさんの言葉に、
非常に驚いた顔をした晴明さんの動きが停止する。

「……いっ、今なんと……!?」
『え?何が?』

急に態度の変わった晴明さんに戸惑うさん。
そして次の瞬間、晴明さんがさんの方に素早く近づき、ガシッと肩を掴んだ。

『なっ、何!?』

驚くさんとは裏腹に、
晴明さんはハァハァと息を荒くして鼻血を出している。
これには流石にその場に居た全員が顔を引きつらせた。

「!!!!もう一度だけでいい!!お兄ちゃんと呼んでくれんか!?」
『イヤァァァ!!!!ちょっ、おまっ、キモい!!!!!』
「頼む!!!もう一度わしをお兄ちゃんと呼んでくれぇぇ!!!!」
『二度と呼ぶかァァァ!!!!!!』

その後、涙目のさんは神楽ちゃんに慰められ、
晴明さんは銀さんに殴られたせいで意識を失い、
結局その日の夕方まで目を覚ましませんでしたとさ、おしまい。




もう二度と呼べへんからな!

(と晴明遅すぎる……) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 何故かお兄たまの性格基本変態になっちゃったんだけど、 これ不可抗力だよね?アタシのせいじゃないよね? ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2010/03/25 管理人:かほ