しょうせつ

『せーめー!七夕やから遊びに来たったでー!』

本家の七夕祭りが行われる夜まで外出を許されたアタシは、
許婚である晴明の元を訪れていた。
すると、約2ヶ月ぶりの再会に、
晴明はアタシ以上に嬉しそうな顔をしてアタシを迎えてくれた。

「おぉ!久しぶりじゃのう!」
『久しぶりー♪なぁなぁ、晴明もぉ短冊書いた?アタシのこと書いた?』
「もちろんじゃ。ついて来い、わしの笹を見せてやろう。」
『わしの……笹?』

晴明の言葉に若干の違和感を覚えつつも、とりあえずアタシは晴明についていった。
そしてアタシの目の前に現れたのは、たくさん笹が飾られている庭。
晴明は毎年道満と笹の大きさ合戦をやっているので、今年も非常に見事な笹だった。
そして笹には結野衆みんなの短冊が色とりどりに飾られている。

「これがわし専用の笹じゃ。」

晴明は大きな笹の中でも比較的小さな笹を指差してそう言った。

『晴明専用の笹?じゃあこの短冊全部晴明のん?』
「あぁ、そうじゃ。読んでみろ。全部のことについて書いてある。」
『うっそ!楽しみ♪』

アタシは晴明に進められるがままに短冊を読んでいった。
そして、一瞬で笑顔が消え去る。

『早くと大人の関係になれますように……?』

ほかの短冊にも、と早く子作りが出来ますようにとか、
早くと一緒の布団で寝れますようにとか、
サッカーチームが作れるくらい子供が生まれますようにとか、
と早く合体できますようにとか、それらしいことがたくさん書いてあった。

「どうじゃ?気に入ったか?」
『気に入るわけあらへんがァァ!!!!!』

アタシの魂の叫びと共に、華麗な右ストレートが晴明の顔面に直撃する。

『お前これヤることしか書いてへんやんけ!!!!最低か!最ッ低!!!変態!!!!』
「ちょまっ、顔面は反則じゃぞ……!」
『うるさい!もーええ!晴明なんか大ッ嫌い!』
「お、おい!待たんか!!」

アタシが晴明の最低振りに呆れて早々に帰ろうとしたら、
家の縁側の方から「あら、ちゃん!」という声がした。
その懐かしい声にアタシが振り向くと、
相変わらずの素敵な笑顔を携えたクリス姉さんがアタシ達に近づいてきた。

「久しぶりねぇ。元気だった?」
『クリス姉さん!うん!元気やで!』
「元気そうでなによりだわ。ところで、お兄ちゃんがまた何かしたのかしら?」

クリス姉さんは頬を真っ赤に腫らした晴明を見て首をかしげた。

『聞いてやクリス姉さん!晴明な、エロいことしか考えてへんねん!』
「あぁ、この短冊のこと?」
『そう!!どないかしてやこの変態!』
「もぉ、だから言ったのに。短冊に書くより実行したほうが早いって。」
『クリス姉さん!?』

クリス姉さんの思わぬブラックスマイルに、アタシは思いっきり驚いた。
そんなアタシの様子を見て、クリス姉さんがクスクスと笑う。

「冗談よ。お兄ちゃんにそんな大それたこと出来ないわ。
 それに、ちゃんとした短冊もあるのよ?」
『え?ちゃんとした短冊?』

アタシがクリス姉さんの言葉を聞き返すのが早いか、
道満が「晴明ィィィ!!!!」と叫んで庭に入ってくるのが早いか。
例に漏れず、七夕恒例・道満と晴明の笹自慢合戦が始まってしまった。

「ちゃん、こっちに来て。」
『え?』

クリス姉さんは2人に聞こえないようにこっそりそう言うと、
アタシをある短冊の元へと連れて行ってくれた。
そして教えられた短冊を読むと、それは晴明の書いた短冊で、
さっきのふざけた短冊とは打って変わって、真面目な願い事が書かれていた。
たぶん書いてあることはさっきまでの短冊と一緒なのに、
なぜかその短冊だけは嬉しくて、思わず笑みがこぼれる。

「道満見ろ!これがわし専用の笹っ……なっ!?何をしておるんじゃ!!」

道満にさっきのエロい笹を見せようとこっちを向いた晴明が、
アタシとクリス姉さんを見て慌ててそう言った。

「あら、道ちゃんいらっしゃい。ねぇ聞いて、
 お兄ちゃんったら本物の短冊を見られるのが恥ずかしいからって
 わざわざダミーの短冊を作って照れ隠ししたのよ。」
「ダミーの短冊?って、アレのことか?」
「そうそう。」
「ク、クリステル!!余計なことを言うではないわ!」

どうやら図星だったらしく、晴明は真っ赤になってそう言った。

『晴明……。』
「べっ、別に照れ隠しではないぞ!これもそれもわしの本心じゃからな……!」
『うん、分かってる。でも、こっちの方が嬉しい。』

アタシが笑顔でそう言うと、
晴明は顔を真っ赤にしてそっぽを向き、ボリボリと頭をかいた。

「ちゃんもこっちで短冊書いて行ったら?」
『それええなぁ。ほな、早く苗字が変わりますようにとでも書こっかな。』
「まぁ、素敵♪じゃあ向こうの部屋で書きましょうか。」

クリス姉さんは嬉しそうにそう言って、奥の部屋へとアタシを導いてくれた。
それについていく前にアタシがチラッと後ろを振り返ると、
たまたまこちらを見ていた晴明と目が合った。
このまま行くのもなんなのでアタシがニコッと微笑みかけると、
晴明は顔を真っ赤にしてアタシから目線を逸らす。
その姿にアタシは小さく微笑み、クリス姉さんの後を追った。




せな所帯を持てますように

(晴明貴様……いつからそんなにヘタレになったんだ?) (きっ、貴様に言われたくないわ!) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 甘くしようとしたらお兄たまがド変態から変態に降格した。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2010/07/11 管理人:かほ