しょうせつ

その日、アタシは結野家にある晴明の部屋でゴロゴロと寛いでいた。
何で自分の家でゴロゴロしないのかと言うと、只今絶賛お盆中だからである。

ウチの家には変な風習があって、
お盆だけは旦那の実家で過ごさなければならない。
なんか、昔供養しきれなかった怨霊が家に来るとか何とか……。
ウチは婿養子だったから良かったものの、
もし家がお父様の実家だったらどうするつもりだったんだろうか。
なかなか矛盾がある風習だなぁ、なんて、最近になって思い始めた。

でもまぁアタシは将来結野家に嫁ぐわけだし、
家はアタシの姉が婿養子を貰って継ぐらしいので、
当分の間その矛盾を正す必要はなさそうだ。
そんなわけで、お母様はお父様の実家に行き、
家の使用人や分家の人たちもそれぞれ休みをもらって家に帰り、
アタシは一人結野家にやって来ているというわけである。

「。」
『んー?』

ジャンプを読みながら寝転んでいたアタシはふいに晴明に名前を呼ばれ、
生返事をしながらジャンプを置いて晴明の方に振り向いた。
すると晴明は思っていたよりも近くに居て、
やけに真面目な顔をしてアタシの手を握ってきた。

「お主に折り入って頼みがあるんじゃが……。」
『な、何よいきなり……。』

さっきまで読んでいたギャグ漫画と現実のギャップに若干混乱しながらも、
アタシは大真面目に話す晴明にそう言葉を返した。
晴明がこんなに真剣に、しかも折り入って頼みごとなんて珍しい……。

「……。」
『は、はい……。』

まだ晴明は何も言っていないけど、そのあまりにも真剣な表情に、
アタシは思わず顔を赤らめて晴明から視線を外した。
すると晴明はその真面目な顔をどんどんアタシに近づけてくる。
あぁもう、そんなに近づかないでよ……ダメ、すっごくドキドキする……!

「……。」
『せっ、晴明……!』
「来年こそはわしの前でビキニを着てくれんか?」

真面目な顔と声のトーンでとんでもない発言をした晴明に、
アタシのテンションは一気にだだ下がりした。
あまりの衝撃に思わず顔が歪む。
そして真面目な顔でアタシの返事を待っている晴明に、
アタシはとりあえず腹が立ったので張り手を喰らわせておいた。

「なっ、何故殴るんじゃ!!」

まるで乙女の如き座り方で、しかも殴られた頬に手を添えて、
晴明は憤慨したようにアタシにそう言った。
そんな晴明にアタシは笑顔で対応する。

『あらぁ、何で殴られたんか分れへんの?』
「い、いや、待て!分かった、分かったから!!」
『急に何言い出すか思たら……アンタアホなん!?』
「落ち着け!わしの話を聞いてくれ!!」
『下らん理由やったらブッ飛ばすからな!!!』

アタシがそう怒鳴ってもう一度きちんと座りなおすと、
晴明はアタシの真正面に正座をしてゴホン、と一つ咳払いをした。

「、お主は365日ずっと着物を着ておるじゃろう。」
『まぁ……これが正装みたいなもんやし。』
「お主が家の娘としてきっちりしておるのは良いことじゃ。
 じゃが、それでは夫としてあまりにも酷じゃろうが!」

晴明は至って真剣にそう言い放ったけど、アタシには何が何だかさっぱりだ。
するとアタシの思いが顔に出ていたんだろう、
晴明はまたしてもアタシにジワジワとにじり寄りながら力説し続ける。

「わしは結野家頭目である以前に男でありの夫じゃ!
 それなのに何故こうも嫁のちょっとエッチな姿を
 結婚まで我慢せねばならんのじゃ!?男として我慢ならんじゃろうが!!」
『ちょっ、アンタ何言うてんの……。』

ジワジワとアタシの目の前にやってくる晴明のその情熱的な訴えに、
アタシは呆れるとか怒るとか以前にちょっと怖くなってきた。
コイツは一体何をそんなに力強く訴えているんだろうか……。
男って皆こんなものなの?そんなに女の水着姿が見たいの?
アタシが女だから分からないだけなのか、
それともやっぱり晴明が特殊でド変態なのか、
今のアタシには確認する術はなかった。

『あの……晴明の気持ちはよぉ分かったけど……。』
「本当か!?」
『いやっ、でも、お母様たちが許してくれるかどうか……。』
「何でじゃー!!わしだって健全な男子なんじゃぞ!
 年に一度くらい自分の嫁の水着姿くらい拝んでもバチは当たらんじゃろうがー!!」
『拝むとか言うな!!』

まるで駄々っ子のように床に転げまわる晴明に、
アタシはなんだか情けなくなってきて大きな溜息を吐いた。
これがあの歴代最強と謳われる結野家の頭目……。
しかもアタシの許婚だなんて……最悪だ。

『まぁ、晴明ももぅ立派な成人男性やし、
 裸のねーちゃんが見たい気持ちは分からんこともないけど……。』
「わしが見たいのは裸の女ではなくの裸じゃ!!間違えるな!!」
『そんな最低なことを胸張って言うな!!!!』

やけに凛々しい顔でガバッと起き上がり物凄く最低な発言をした晴明の頭を
たまたま手元にあったジャンプで思いっきり殴れば、
相当痛かったのか晴明は頭を抱え込んでその場で悶え苦しんでいた。

『もぅ……。』

アタシは未来の旦那のカッコ悪い姿に肩を落としながらも、
生まれた時からこの自由の利かない結野家で暮らしてきた晴明を
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ可哀想かもしれないと思った。

『分かった、来年はみんなでプール行こか。』
「えっ!?本当か!?」

アタシが言うと、晴明は驚いた顔をしてガバッと起き上がった。

『クリス姉さんが休みの日に4人で行こ。そんでええやろ?』
「……〜ッ!!!ッ!!!!」
『わっ!?ちょっと、晴明!』

晴明はよっぽど嬉しかったのか、満面の笑みでアタシに抱きついてきた。
こういう子供っぽいところを可愛いと思っちゃうんだろうなぁ、アタシは。
自分が考えていた以上に喜んでくれたことが嬉しくて、
アタシはふふ、と笑いながら晴明に体を預けた。

「やっと、やっと念願のの水着姿を拝める日が……!!」
『ちょっと、拝むとか言うの止めてや。雰囲気ブチ壊し。
 それに水着言うたかて普通のセパレートやからな。』
「分かっておる!なら何を着ても似合うからいいんじゃ!」
『……っ!』

子供のような無邪気な笑顔で言い放った晴明に、
アタシは思わず顔を真っ赤に染め上げてしまった。
きっと晴明は本気で言ってるんだろうけど、
そんな恥ずかしい言葉、よくもまぁそんなにサラッと言えるもんよね。
晴明っていつもそう。
子供みたいなことしてると思ったら、いきなりアタシの心臓を鷲掴みする。
ホントにもう、子供なのか大人なのかハッキリしてよね、バカ晴明。




ウチの旦那は子煩悩

(ってゆーかアンタ、興奮してプールで急に鼻血とか出さんといてや?) (そこら辺はきちんと対策を考えておる) (へぇー、どんなん?) (まずは家でじっくりと堪能する。そうすれば外に出ても平気じゃろう?) (……それはそれで嫌やなぁ……) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 果たしてこれは子煩悩と呼べるレベルなのか……。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/01/16 管理人:かほ