しょうせつ

が晴明の元に嫁に来てもうすぐ1年が経つ。
幼い頃からバカップルと呼ぶに相応しい仲の良さだったが、
流石に結婚して1年も経つと落ち着いてくるだろうと思っていた。
晴明と一緒に住んでいるクリステルだって、
「結婚したらちゃんの方が愛想を尽かすわよ」と言っていたし、
結野衆も巳厘野衆も、全く同じ考えだったのだ。

なのに……。

『もぅ晴明!料理中は抱きつかんといてって言うたやんか!』
「と離れている時間に、わしは耐えられんのじゃ。」
『そっ、そんなん……アタシだって……。でも危ないから……。』
「と共に居る為じゃったら、わしはどんな危険をも冒してみせようぞ。」
『せっ、晴明っ……。』

おい、鍋から黒い煙が立ち込めているぞ。
お前が持っている菜箸も先の方に火が点いているぞ。
しかしそんなことは本人達の視界に全く入っていないらしく、
はとうとう菜箸を放り投げて晴明に抱きついてしまった。
周りで見ていた結野衆の連中が慌てて火を消し対処する。

「……クリステル、アイツ等はいつもあの調子なのか?」
「そうなの。結婚したらもうちょっと殺伐とすると思ってたんだけど……。」
「全然変わっていないではないか。むしろ悪化しているぞ。」
「道ちゃん、ちゃんと浮気してみてくれない?」
「そんな事をしたら俺が晴明に殺されるだろうが!!」

クリステルの予想外の一言に、俺は盛大にツッコミを入れた。
しかし、あの様子では2人とも仕事も家事もろくにしていないのだろう。
一応、江戸守護に支障が出ているという話は聞いたことがないが、
結野衆の連中がウチに来ては
「頭目の様バカが目に余って……」と愚痴を零しているのは知っている。
本当に、何かしらの対策を立てなければ結野家は潰れてしまうんじゃないだろうか。

俺とクリステル、そして結野家の泰親や仲麻呂たちは、
まだ熱い抱擁を交わしている2人の姿を見て、一斉に頭を悩ませた。
せめて一度でいいから本気の喧嘩でもしてくれれば……。
しかし浮気程度であの2人が仲違いするとも思えん。
むしろあの晴明が浮気を筆頭にが怒るようなことをするとは思えん。
も晴明にはとことん甘いからなぁ……これは無理難題だ。

俺たちがそんなことを考えていると、
いつの間にか結野衆の連中のおかげで夕食の支度が整ったようで、
やっと離れたと晴明が手を繋ぎながら食堂へと歩いていった。
俺もクリステルに誘われ、今夜は結野家で夕食を食べることになった。

『わぁ!目玉焼きや〜!結野家に来てから目玉焼き食べんのって初めて♪』
「そうじゃったか?ほれ、ソースじゃ。」

下らないことで喜んでいるに、
晴明はソースを渡しながら「全く可愛い奴じゃのう」なんて言っている。
何だあのニヤケた顔は。全く、結野家の頭目がだらしない。
俺がそんな事を考えながら2人を眺めていると、
ソースを渡されたが信じられないといった表情で晴明を見つめていた。

『目玉焼きに……ソース?』
「ん?どうしたんじゃ?」

そのの表情に、俺も隣に居たクリステルも、
そして一緒に食卓を囲んでいた結野衆の連中も、全員が驚いた。
があんな怒ったような表情で晴明を見たことなど今まで一度もない。
これはもしや、大喧嘩の前触れか!?

『信じられへん!!目玉焼きには醤油やろ!?』
「何を言うか!目玉焼きと言えばソースに決まっとるじゃろうが!」
『はぁぁ!?アンタアホちゃうの!?』

今!が!晴明に向かって!暴言を吐いた……!!
この驚愕の展開に、俺たちは一斉に顔を見合わせガッツポーズをした。
このまま喧嘩し続ければ、バカップルから脱出できるかもしれない!
そうなれば結野家だって安泰だし、俺にもライバルが帰ってくるというもの!
最近の晴明は腑抜けすぎて相手にもならなかったからな!

そんな周りの期待通り、はソースを突っ返しながら
『目玉焼きにソースかける人とやっていける気せぇへん!!』
と怒った様子で晴明に言い放った。
その瞬間、周りがドヨヨ、とザワついた。

「……。」
『アタシ基本的にソースってあんまり好きちゃうねん!
 お好み焼きソースとかはええけど、その液状のソースは嫌い!』

の言葉に、晴明はかなりショックを受けているようだった。
そしてそっぽを向いてしまったに向かって、
頭を垂れながら暗い声色で言葉を放つ。

「では……はソース派のわしとはやっていけんと……。」
『……っ、せ、晴明?』
「やっていけんということは、離婚するということか?」

晴明が顔を上げながらにそう問いかけた。
その顔は悲しんでいるというよりは、ちょっと怒ったような表情だ。
これには先ほどまで怒っていたも眉をハの字にし、オロオロし始める。

『あっ、あの……晴明……。』
「、お主が言ったんじゃぞ?」
『うっ……。』
「わしに何か言うことがあるのではないか?」
『…………。』

怒った晴明にがオロオロしている。
こんな光景、今の今まで見たことがない。
それもそのはず、この2人は昔から一度も喧嘩らしい喧嘩をしたことがない
根っからの盲目バカップルなのだから。
やはり結婚というものは現実を突きつけられるものなんだな……。
俺はクリステルとの結婚生活を思い出して、ちょっと泣けてきた。

「。」
『……ご、ごめんなさい……。』

大きな瞳に涙を浮かべ小さな声でがそう言えば、
晴明はふ、と微笑んでの頭を撫でてやった。

「分かればいいんじゃ。
 じゃが、あまり感情任せに言葉を発するものではないぞ?」
『ふぇっ……晴明ぃぃ〜!』

は情けない顔をして泣きながら晴明に抱きついた。
そんなを晴明はぎゅっと抱きしめ返す。

「っ……愛らしいお主の顔を涙で濡らしてしまうとは、
 わしもまだまだ至らぬ亭主のようじゃな……!」
『ううん!今のはアタシが悪かったぁ!ごめんな晴明、ホンマにごめん!』
「もういいんじゃ。さぁ、わしに笑顔を見せてくれ、。」
『ふえぇん!晴明大好きぃ〜!』

そう言いながら抱きしめあう2人の姿に、
結野衆の連中は何故か感動して涙を流していた。
そしてパチパチと謎の拍手が。
今のやりとりのどこにそこまで感動できる要素があったのか。
俺は予想外の結野家の行動に、開いた口が塞がらなかった。

「どうなっているんだ結野家は……。」
「あの2人をバカップルに育て上げたのは結野家の人たちかもしれないわねぇ。」

俺とクリステルはお互いに顔を見合わせ、深い深い溜息を吐いた。




バカップルの

(はいっ、晴明あーん♪) (……さっきから言っておるが、わしはソース派なんじゃが……) (で、でも……晴明にアタシ色に染まってほしくて……) (……ッ!!ー!!!!) (やんっ!晴明ったらっv) (いい加減にしろ貴様等ァ!!!!) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 私は目玉焼きには何もかけない派です。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/01/16 管理人:かほ