今、俺と晴明は家の近所で催されていた夏祭りに来ている。 勿論、男2人で寂しく祭りに出向いたわけではない。 浴衣を着ていつもの4倍くらいは可愛らしくなったクリステルとも一緒だ。 俺は2人のあまりの破壊力に思わず鼻から大量出血しかけたが、 なんとか出血は免れ、似合ってるじゃないか、なんて粋な言葉をかけた。 しかし晴明の毛細血管はの浴衣姿に耐え切れなかったのだろう、 が待ち合わせ場所に来た瞬間、晴明の鼻から尋常じゃないほどの血が噴出し、 大出血の張本人である晴明はバタンとその場に倒れこんでしまった。 『きゃー!?晴明ー!!』 「……流石はわしの許婚じゃ……マイ・ハート・クラッシャー……。」 『晴明ぇぇ!!!!!そんな謎の言葉を遺言にせんといてぇぇ!!!!』 こんな馬鹿らしいやり取りの後、急いで晴明に緊急輸血を施し、 その結果こうやって祭りに来るのが遅れてしまったのだ。 あの大量出血の時に晴明の鼻にかかった虹は今も俺の胸の中で輝いている。 これが俺のライバルかと落胆したのも、今ではいい思い出だ。 ……まぁ、ほんの数時間前の話だが。 そしていざ夏祭りに来てみると、 今度は・クリステルの2人と逸れてしまうというハプニングに見舞われた。 まぁ人も多いし仕方のないことだと思う。 それに逸れたと言っても2人ともいい歳をした大人だし、 ぶらぶらと会場を歩いていればいずれ出会うだろう。 だから俺はさっさと2人を探しに行きたかったのだが、 と逸れてしまったことで尋常じゃないほど取り乱した晴明が 先ほどからかなり狼狽えているので簡単にこの場を離れる事が出来なくなっていた。 周りの人だかりが晴明を一瞥してはそそくさと去っていくこの状況に、 俺はせめて自分を同類だと思わないでほしいと思った。 「ぬぉぉぉ!?はどこじゃァァァ!?」 「オイ、落ち着け晴明。」 「これが落ち着いていられるかァァ!!!!! わしの超絶可愛いに何かあったらどうするつもりじゃ!!」 そう俺に怒鳴る晴明の目は怖いくらい血走っていた。 どんだけ頭に血が昇ってるんだ。そのまま破裂して倒れてしまえばいいのに。 俺は内心かなり呆れながらも、晴明に向かって声をかけ続ける。 「はクリステルと一緒なんだ、大丈夫だろう。」 「いいや!!!!の可愛さは半端ないんじゃぞ!? あの長い睫毛に美しい漆黒の髪、可愛い声に萌えポイントの京都弁!!!! はんなり可愛い容姿に気立てのいいしっかり者で、 そのわりにちょっと抜けてて天然というプリティーガールなんじゃぞ!!!!」 「とりあえずこの短時間でよくそこまで褒め言葉が出てきたな……。」 俺の呆れた呟きなど華麗にスルーして、晴明はまた 「ー!!!!!わしのはどこじゃぁぁぁ!!!!!」 と、清々しいほどの盲目っぷりで叫び続けていた。 「晴明、そんなに目立っていては見つけられたも恥ずかしいだろう。」 「恥ずかしいじゃと!? わしのが襲われるのとわしが晒し者になるの、一体どっちが一大事じゃ!?」 「どっちも一大事だ。」 「ぬあぁぁ早くを見つけねば、わしのが獣に襲われてしまうぅぅぅ!!!!!」 「そろそろ鬱陶しいぞ晴明!!」 俺が声を荒げて怒鳴っても今の晴明には全く聞こえていないようで、 晴明はまた頭を抱えての名前を叫び始めた。 これはもう駄目だ……放っておくしかない。 俺は俺でとクリステルを探しに行くとするか……。 こうして俺は注目の的になっている晴明から離れ、 1人でとクリステルを探しに行くことにした。 すると案の定、しばらく歩いたところで2人の姿を発見した。 俺たちが居たところよりも随分と離れたところで、 2人は地面にしゃがみこみ金魚掬いをして遊んでいた。 「やっぱりな……。」 俺がそう呟いて楽しそうに遊んでいる2人に近寄ろうとしたら、 ふいに2人の後ろから男が2人やって来て、とクリステルに声をかけた。 俺は一瞬ナンパかと思って眉をひそめたが、 よく見ると男は2人とも中年で、たちには道を尋ねているだけのようだ。 ナンパじゃなかったことに安心して俺が少しだけ歩くペースを緩めれば、 俺の後ろから見覚えのある浴衣が全速力で2人の方に突っ走っていった。 「わしのに何さらしとるんじゃオンドリャアァァァ!!!!!」 見覚えのある姿が聞き覚えのある声でそう叫び、 なんと2人に声をかけた中年の男に華麗に飛び蹴りを喰らわせた。 もちろん男は吹っ飛び、たちは声をあげて驚いている。 俺だってそうだ。アイツ一体何をやっているんだ……。 「ッ!!!!!無事かッ!?」 『きゃっ!?ちょ、晴明!?』 飛び蹴りからの華麗な着地を成功させた晴明は物凄い勢いでに振り返り、 大声を出しながらの肩をガッと掴んだ。 「こやつ等に何もされておらんな!?体に触れられたりしておらんな!?」 『ちょっ、ちょっと落ち着きぃや!アンタ何言うてんの!?』 「わしのにもしもの事があったらと思うと、わしは心配で心配で……!!!!」 『えっ、何!?もしものこと!?』 明らかに温度差のある2人の向こうでは、 クリステルが蹴り倒された男に必死で頭を下げていた。 残念な兄を持つと妹は大変なんだな……。 俺は3人の下へ歩み寄りながら、しみじみとそう思った。 「もう!お兄ちゃんったら急に何するの!」 散々謝ってようやく許しをもらったらしいクリステルは、 去っていく男達の背中を見送った後、晴明に向かってそう怒鳴った。 「クリステル!!お主も大丈夫じゃったか!?」 「誤解よ!あの人たちは道を尋ねに来ただけだったのに!」 「男なんて皆獣じゃ!!あやつ等のを見る目はイヤらしかったぞ!!」 『何言うてんの!?晴明アンタちょっとは反省しぃ!!』 暴走する晴明に2人が真剣に怒っているが、全く効いていないようだ。 それどころか、今度はに抱きついてわんわん泣き出す始末。 これにはもう周りの視線よりも何よりも、 我がライバルの情けない姿に呆れ返ったとしか言いようがない。 全く、晴明はの事となると周りが見えなくなるからな……。 「ー!!本当に無事で良かった……!!!!」 『ちょ、晴明っ、離れて……!!』 「もう二度とお主の事を離さんからなー!!!!!」 『恥ずかしいから大声出して抱きつくの止めてぇぇ!!』 涙目でそう訴えるから晴明が離れたのは、 堪忍袋の緒が切れたクリステルに呼び出された外道丸が 愛用の棍棒で晴明をブン殴った時だった。夏祭りの惨劇
(きゃー!?晴明ー!?) (様、安心するでござんす。急所はハズしてありやすから) (いやそーゆー問題ちゃうやん!!) (また輸血が必要だな……) (全く、困ったお兄ちゃんね) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 惨劇と言っても外道丸はおはぎの中に針を仕込んだりしませんから。← ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/01/16 管理人:かほ