しょうせつ

『あーあ……そろそろ真面目に進路考える時期やなぁー……。』

ある日の放課後、いつものメンバーで居残り勉強をしていると、
急にシャーペンを置いたがダルそうにそう言いながら机に突っ伏した。

「ちゃんは大学に行くんだったかしら?」
『んー……一応。』
「ならいいじゃない、別に頭が悪いわけじゃないんだから。」

の隣に座っているクリステルがいつもの笑顔でそう言うが、
当のはまだ何か不服なようで、ムゥ、と口を尖らせている。

『でもさー、卒業したらみんなに会われへんようになるしー。』
「何を言っておるんじゃ。卒業してもわし等の関係は何も変わらん。」

今度はの向かい側に座っている晴明が口を開いた。
コイツにしては中々普通の、しかもちょっといい事を言うじゃないか。
この晴明の言葉に、はちょっと感動したような眼差しを晴明に向けた。

『晴明……。』
「ただ一つだけ変わるとするならば、の姓が結野になるくらいじゃ。」
『あー受験嫌やなぁー!』
「あらあらちゃんったら、素敵なスルーっぷりね。」

晴明の言葉を無視してまた机に額をゴツンッとぶつけたに、
クリステルはとてもイイ笑いでそう言った。
いつも思うが、
クリステルは兄である晴明がに酷い仕打ちを受けてもいいのだろうか。
……いいんだろうな、いつも楽しそうに2人のやり取りを見ているから。

『それに大学終わったら次は就職やろー?嫌やーアタシ一生学生するー!』
「お前はピーターパン症候群か。」

今度は俺がに向かってツッコミを入れた。
するとはまるで子供のように机をダンダン叩きながら
『だって学生が一番楽やんか!』と憤慨したように俺に言葉を返してきた。

「でもちゃん、お仕事も結構楽しいと思うわよ?」
『クリステルはちゃんと夢があるからー。』
「そういえば、クリステルはアナウンサーになるんだったな。」
「そうなの。もうどこの局にするかも決めてあるのよ。」

俺が問えば、クリステルは嬉しそうに返事をしてくれる。
そうか、クリステルはアナウンサーか……じゃあ俺は野球選手にでもなろうかな。
……駄目だ、俺は根っからの運動音痴なんだった。

『あーあ……笑顔さえ作っとけば何も考えんでいい楽な仕事ないかなー。』

はまた机に突っ伏して、心底ダルそうにそう呟いた。

「、お前は世の中をナメすぎだぞ。」
『だってぇー。』
「それならあるぞわしの嫁じゃ。」
『アンタに嫁ぐくらいやったらバリバリ仕事するわ。』
「ちゃんそこまで……。」

の自堕落な言葉に晴明が真顔で返せば、
さっきまでダラダラと机に突っ伏していたが
急にシャキッと姿勢を正してやけにきっぱりそう言い放った。
その言葉に俺とクリステルは呆れた顔をし、大きな溜息をついた。

しかし言われた本人である晴明にの言葉は伝わらなかったらしく、
晴明はうんうん頷きながら
「嫁がキャリアウーマンでもわしは一向に構わんぞ」なんて言っている。
その反応には諦めたような顔で窓の外を眺め始めた。

「ところで。結婚はさておき、交際はいつから始めるつもりじゃ?
 まさか何もかもを通り越して婚約というわけにもいくまい。」
『あんたホンマに一回でええからアタシの言葉理解してや……。』
「わしは卒業と同時に付き合うのがベストだと思うんじゃがのぅ。
 もわしも18歳、あんなコトやこんなコトも出来て万々歳じゃろう。」
『アンタの頭ん中はそればっかりか!!!!』

大真面目な顔で平然といやらしいことを言い放った晴明に、
は机をバンッと殴りながら声を荒げてそう叫んだ。
隣にいたクリステルはまぁまぁ、とを宥めていたが、
晴明はの反応などお構いなしにマイワールドを貫き通す。

「よいか……偉人の言葉にこんな言葉がある。
 恋は下心、愛は真心、両方あって恋愛じゃ。」
『アンタは下心しかないやないか!!!!』

今度こそ頭にきたのだろう、はガタンッと立ち上がり
椅子を頭上に構えながら晴明に向かって怒鳴りつけた。
これには隣のクリステルも、そして斜め向かいの俺も慌てて立ち上がり、
怒り狂うを必死に宥めながら体を抑えつけた。

そんな中、何故か全ての元凶である晴明は涼しい顔で席に座って
「はっはっは、怒っておるも可愛いのう」なんて呑気に笑っている。
俺はそんな晴明の態度に腹が立ち、
いっそこのままを押さえる腕の力を緩めてやろうかとも思ったが、
今のなら本気で椅子を晴明に投げかねないので止めておいた。

「ところで、お主はわしの事をどれ程想ってくれておるんじゃ?
 Likeか?Favoriteか?それともやはりLoveか?」
『お前なんかKillじゃボケェ!!!!』

とことん空気を読まない晴明にがそう怒鳴れば、
意外にも晴明はハッと驚いたような、ショックを受けたような表情になる。
今度こその言葉が晴明に届いたのか?
俺とクリステルは晴明の反応に驚いて、同時に顔を見合わせた。

「そんな……まさかがわしを……。」
「あ、あの……お兄ちゃん?」
「晴明、あまり気を落とすな。自業自得だ。」
「道満君、それフォローになってないわよ。」

珍しく頭を抱え込む晴明にちょっとだけ同情した俺たちは、
一応落ち込んでいるであろう晴明を励まそうとした。
だが次の瞬間、晴明に対する同情はこちらが馬鹿を見るのだと思い知らされる。

「がわしを殺したい程愛しておったとは!!!!」

晴明が高らかにそう叫び立ち上がった瞬間、
がフラッと目眩を起こしてクリステルにしがみ付いた。
その顔からは生気が消え、目は遥か遠くを見ていて、
あまりの衝撃に塞がらなくなった口からは哀しい溜息が漏れていた。

「せ、晴明……。」
「ここまで来るともう才能ねぇ……。」

俺とクリステルはもう一度顔を見合わせて、そして大きな大きな溜息を吐いた。




なポジティバー

(!今までお主の愛の重さに気づいてやれなくてすまん……! この結野晴明、一生をかけてお主を愛してみせるぞ!!) (あんたホンマ一回でええから落ち込んでや……) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ ウチの晴明は鬱陶しいくらいポジティブです。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/01/16 管理人:かほ