しょうせつ

今日は2月13日金曜日。
明日がバレンタインデーということで、
クリステルとは昼休みに友達や仲のいい男子にチョコを配っていた。
俺はクリステルの本命チョコを貰う事が決まっているので
その行為に対して嫉妬したりすることはなかったのだが、
バカである晴明にはどうしても許せなかったのだろう、
からチョコを受けとった男共をものっそい顔で睨みつけていた。

そんな(俺からすれば)恐怖の昼休みも終わり、今は放課後。
俺たち4人は特に部活やサークルに所属していないので、
この後はいつものように真っ直ぐ帰宅……出来ると思っていたのだが、
俺の隣の席で朝からずっと黙り込んでいた晴明が
とうとう痺れを切らしたようにガタンッと勢いよく立ち上がった。

「!!わしへのチョコレートがまだじゃぞ!!」
『へっ!?チョ、チョコレート?』

晴明の突然の叫び声に、
俺の前の席に座っていたが驚いてバッと後ろを振り返った。
そのの前の席では同じくクリステルが驚いた顔をしている。

『バ、バレンタインデーは明日やで?』
「お主明日は学校が休みだからと今日配っていたではないか!!」

バンッと机を叩いて眉間にしわを寄せる晴明に、
はちょっとだけ困った顔をして晴明から視線を逸らした。

『そっ、そうやけど……今日持って来たのは義理チョコだけ!』
「何故じゃ!何故友チョコ義理チョコだけ配ってわしにはないんじゃー!!」
『うっ、うるさぁい!!晴明のバカー!!』

とことん鈍い晴明に腹を立てたのだろうか、
は力いっぱいそう叫ぶと鞄を引っつかんで教室を出て行ってしまった。
もちろん晴明は「あっ、コラ待たんか!!」と叫んで
小走りで去っていってしまったの後を追いかけていく。
そんな2人の後姿に、
俺とクリステルは一度顔を見合わせて同時に大きな溜息を吐いた。

「どうして分からないのかしらねぇ、お兄ちゃん。」
「今日は義理チョコだけ配って、
 バレンタイン当日である明日に本命を渡すつもりだと、
 先ほどのの言葉で容易に想像できるだろうに。」

俺たちはそんな会話を繰り広げた後、また同時に溜息を吐いた。

翌日、2月14日土曜日。
今日は恋人達の一大イベント・バレンタインデーだ。
本来ならば今頃、幼馴染が4人揃って
ダブルデート的なものをしているはずだったのだが、
俺は何故か自宅で真っ白い灰になった晴明と2人きりになっていた。

「晴明……いい加減にしろ。
 どうして俺は貴様とこんなむさ苦しい状況に陥っているんだ。」

俺が怒りを顕わにしてそう言えば、
晴明はモゾッを顔を上げてその虚ろな目で俺を見た。
いや、晴明の目に俺が映っているのかは分からない。
それほどまでに晴明の目は濁っていて、焦点も定まっていなかった。

「……わしはの夫失格なのか……!!」

もう朝から何度聞いたか分からない台詞を呟きながら、
晴明はまた机に突っ伏してううっ、と泣き始めてしまった。

「えぇい泣くな鬱陶しい!!貴様はを信じておらんのか!?」
「きっとわしのことじゃ……
 を怒らせるようなことをしたんじゃろう……。
 だからが罰としてチョコの一つも……うぅっ……!!」
「泣くなと言ってるだろうが!!」

そろそろ晴明の扱いが面倒くさくなってきた時、
淀んだ雰囲気を一蹴するかのように俺の家のチャイムが鳴り響いた。
その軽快な音に、俺は助かったと思って即座に来客を部屋に招き入れた。

「まぁ、空気がこんなに淀んでいるわ。
 だから言ったでしょちゃん。お兄ちゃんはここに居るって。」
『うわっ、ホンマや。晴明アンタ何してんの?』
「おっ、お主……ではないか……!!」

突然現れたの姿に、晴明の目が大きく見開かれる。
その目は昨夜から泣き通しだったので赤く腫れ、
銀魂高校の隠れたイケメンと呼ばれている面影は既になかった。

「クリステルも……何故ここに居るんじゃ?」
「本命チョコを渡しに来たのよ。
 2人で当日渡しに行きましょうねって約束していたから。」
「ほ、本命チョコ?」

クリステルは言いながら持っていた袋を晴明に見えるように掲げ、
それを見た晴明は今更になって状況を把握したようだった。

「で、では、昨日わしにチョコを渡さなかったのは……。」
『ほっ、本命チョコは、ちゃんと当日に渡したかったから……。』

呆気に取られている晴明の隣に腰を下ろしながら、
はボロボロになっている晴明を気遣うような表情で言葉を続けた。

『もぅ、アホなんちゃうの?そんな顔になるまで泣くなんて……。
 アタシが晴明へのチョコレート忘れるわけないやろ?』

労わるような目で晴明を見つめながらが言えば、
晴明はあまりの感動に言葉が出ないようで、
ただ体をプルプルと震わせているだけだった。

『せっかくのイケメンが台無しやで。
 はいコレ、アタシからのチョコレート。』

呆れたように微笑みながら、は持っていた袋を晴明に差し出した。
その笑顔に我慢の限界がきたのか、
それともさっきの言葉でゲージが振り切れていたのか、
晴明は爆ぜるようにに抱きつき、そのままを押し倒した。

「……〜ッ!!!!ー!!!!」
『きゃあっ!?』

にガッシリと抱きつきながらまたわんわん泣き出した晴明に、
抱きつかれているはどうすればいいのだろうとオロオロしている。

『ちょっ、晴明……!』
「ー!!わしが間違っておった!!愛しとるぞー!!」
『わっ、分かった!分かったから!ちょっと離れてっ……!』
「もう二度とお主を手放さんからなー!!」
『晴明おもたぁい!!』

晴明とはまた違う意味で喚くの姿に、
俺とクリステルは顔を見合わせてやれやれ、と笑いあった。




盲目になるほど甘い恋

(本当に良かったわねぇー) (昨夜晴明が泣きながら家に来た時はどうしようかと思ったがな) (お兄ちゃんには学習っていうものをしてほしいわねぇ) (……クリステル、お前結構酷い事を言うな) (そう?) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 晴明の唯一の欠点は盲目からくる恋愛下手だと思います。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/03/27 管理人:かほ