しょうせつ

昔のはそれはそれは可愛らしい女子じゃった。
いつもいつもわしの後ろを付いてまわっては
『せーめーくん、せーめーくん!』と可愛らしい声で言っていたものじゃ。
ある日わしが綺麗な貝殻をプレゼントしてやると、
は天使と見紛うほどの笑顔でわしにこう言った。

『おおきに!、せーめーくんとけっこんするー!』

その笑顔に、わしの左手の薬指は完全ロックされた。
しか居ない。わしの嫁にふさわしいのはしか居ない。
幼いながらに運命というものを感じ取ったわしは、
今もずっとに心を奪われ続けている。
それなのに……。

「当のときたら最近わしを生ゴミを見るような目で見てくるんじゃ!!
 顔を合わせればキモいだのウザいだの、わしへの愛が全く感じられん!!
 そんなの態度をどう思う、道満!!」
「いや、どうって言われても……。」

わしが隣で茶をすすっていた道満に力いっぱい叫べば、
道満は何とも言えないような顔でわしを見てきた。

「もしかしてお前、それだけの為に巳厘野家に押しかけてきたのか。」
「そうではない!たまたま縁側に座っておるお主を見つけたから
 丁度いい、聞いてもらおう!と思っただけじゃ!」
「なんて傍迷惑な奴だ……。」

道満はそう言いながら疲れたようにため息を吐いた。

「がお前に冷たくあたる原因はお前が立派な変態に成長したことだと思うが?」
「わしのどこが変態なんじゃ!
 ちょっとブルマ履いてくれとか脱ぎ捨てた下着を貸してくれとか
 メイド服を着てくれとかお兄ちゃんって呼んでくれとか頼むだけじゃろーが!」
「お前って奴はとことん予想の斜め上を行く男だな。」

わしが言い終わると、道満までわしを生ゴミを見るような目で見てきた。
そう言えばこの間クリステルにも同じ話をしたが、
その時も一緒に居た外道丸と共に蔑んだ目で見られたような……。
何故じゃ、わしの何がいけないんじゃ。
わしはただへの愛を語っているだけだというのに。

そんなことを考えながら頭を抱えている道満を眺めていると、
廊下の向こうから聞き覚えのある声がこちらに近づいてきた。

『あー!道満やー!久しぶりー♪』
「おぉ、じゃないk「!!!!」

道満の言葉を遮り、わしは素早くの傍へと駆け寄った。
そして久々の再会を祝して熱い抱擁を交わそうとした次の瞬間、
わしはに蹴り飛ばされて巳厘野家の庭にズザザッと転がり落ちた。

『道満久しぶりー♪元気やったー?』
「あ、あぁ……お前は相変わらず元気そうだな……。」
『えー?そう?どこら辺が?』
「いや、どこら辺って……。」
「!!!!」

庭に放り出されたわしは勢いよくその場で立ち上がり、
わしを放置して道満と仲良く喋り始めたの名前を叫んだ。
するとはキョトンとした顔でわしを見る。
あぁ……その顔も超絶可愛らしいが、今はそんな事を言っている場合ではない!!

「!!コレは一体どういうことじゃ!!」
『どういうことって?』
「未来の夫であるわしを華麗に蹴り飛ばし、
 あろうことか道満に声をかけるとは一体何事じゃ!!
 今の蹴りは本当に気持ちよかっ……いや、すこぶる痛かったぞ!!」

わしが叫ぶと、と道満が一斉に顔を歪ませた。
道満はわしを可哀相なものを見るような目で見つめ、
は心底鬱陶しそうな顔でわしを見つめてくる。
あぁまたその目か!あの頃の可愛らしいは一体どこへ行ったんじゃ!

『ちょっと何なん?未来の夫?夢でも見てんの?うっとうしいわー。』
「何を言うか!幼い頃わしの嫁になると言っていたではないか!!」
『そんなん昔の話やろ?いつまでも覚えてるとかホンマキモいわー。』
「キモいって言うな!コレはわしの愛情表現でありアイデンティティなんじゃぞ!」
『胸張って言うなキモい。』

わしが言いながら2人の方に近づいていけば、
は思いっきり嫌そうな顔をして道満の後ろに身を隠した。
そんな羨ましい状況の道満を嫉妬の目で睨みつけてやると、
道満はわしの視線を察知し、焦った様子での顔を見た。

「そ、そう言えば!お前また見合いを断ったそうだな!」
『え?』

道満の言葉に、が『あぁ、まぁ……』と顔を曇らせた。

「様が愚痴っていたぞ?が全然見合いをせんと。
 もしやお前、心に決めた男でも居るんじゃないか?」

道満のその言葉に、はバツが悪そうに視線を落とした。

「!!その反応はもしや図星か!?誰じゃ、誰に惚れておるんじゃ!!」
『うっ、うるさいなぁ!アンタには関係ないやろ!?』
「大有りじゃ!!先にを娶ると約束したのはわしじゃぞ!!」
『勝手なことゆうなやー!!あーもうホンマにアンタキモい!!』
「晴明なんじゃないのか?」

口喧嘩をしているわしらの声を遮るようにして、
道満はハッキリとした口調でそう言った。
その言葉にわしらは一瞬動きを止め、そしてゆっくりと道満を見る。

「、お前の意中の相手とは、昔の普通だった晴明なんじゃないのか?」

普通だった晴明とは一体どういうことじゃ。
わしが道満に向かってそう言おうとした時、
が顔を真っ赤にして道満から顔を背けるのが目の端に見えた。

「、お主……。」
『か、勘違いせんといてや!!アタシが好きなんは昔の晴明やもん!!
 今みたいに変態な晴明じゃなくて!!』

真っ赤な顔でそう叫ぶに、わしの心臓は久々に射抜かれてしまった。
そうか、は昔のように優しかったわしに戻ってほしかったのか。
確かに最近のわしはを求めるあまり
自分の要求だけを口にしていた気がしないでもない。

わしのどこら辺が変態なんだろうかという疑問はまだ解決していないが、
それでもの求めているわしの姿は容易に想像できた。
の嫌がることをせん、を笑顔で受け入れる、昔のような優しいわしじゃ。

「……すまんかったのぅ。これからはお主の嫌がることはせん。」
『せ、晴明……。』
「もう生足を拝ませろとか、足の裏なめさせろとか、
 体操服で体育座りをしてくれとか、そういうのは一切言わん。」
「晴明お前……。」

呆れ返る道満を横目に、わしは昔のように可愛らしい顔になったを見つめた。

「だから、わしと――……。」




結婚してもらうぞ

(せ、晴明がそこまで言うなら……ちょっと、考えよっかな……) (しかし体操服まで禁止となるとちと辛いか……、体操服だけは許してくれんか) (じゃあアタシも今考えるってゆうたの取り消してくれへんかな腹立つわお前) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 六万打本当にありがとうございました! ウチの晴明は基本的に残念なイケメン(変態)です。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/10/09 管理人:かほ