「ゲホゲホッ、あ゛ー、気持悪ぃ、吐く、これ絶対吐く。」 「駄目これ死にそうだよ俺。、死ぬ前に一発ヤらせて。」 『…………。』 アタシは今、風邪で寝込んでいる2人の上司の看病をしている。 普段ならまるで反抗期の中2の如く喧嘩にいそしんでいる2人だが、 今日だけはさながらママー痛いようあああんと声をあげて泣きじゃくる 5歳児のようなテンションだ。 普段ならいくら殴られても蹴られても腕をもぎ取られてもケロリとしているのに、 たかが風邪ごときでここまで弱るものなのか。 『まさか夜兎族が内側からの攻撃にこれほどまでに弱いとは知りませんでしたよ。』 アタシが呆れたようにそう言えば、 いつもの疲れた顔がさらに疲れを増している阿伏兎さんが大きな溜息をつく。 「俺たちだって初めて知ったっつーの……あーくそ、 何で俺まで巻き込まれなきゃなんねーんだよチクショー。」 「ケホケホ、あーもぅ、復活したら阿伏兎覚えときなよ。」 「いやいやいや、アンタが100%悪いからな!? アンタが昨日の晩飯にあんなモン入れなきゃこんな事にはならなかったんだぞ!」 春雨艦内のアタシの部屋で完全にウイルスに降伏状態の二人は、 (本人達曰く)死の淵をさ迷いながらも相変わらずな会話を続けていた。 阿伏兎さんの言うとおり、事の発端は団長の馬鹿な発想だった。 時は昨日の夜に遡る。 昨日は団長が珍しく「俺が晩飯作るからね」なんて言い出すもんだから、 アタシと阿伏兎さんは本気で世界が滅亡するんじゃないかと血の気を失った。 まず天気予報で異常気象が起きていないか確認をして、 それからニュースでどっかの国が滅びていないかも調べたし、 惑星同士のビックバンが起きていないかも念入りに調べ上げた。 その後もありとあらゆる異常事態を確認したが、 不思議なことにおかしなことは何一つ起こっておらず、宇宙は平和そのものだった。 そして最後にベタながらも団長に熱がないかを調べたところで、 団長から『待たんかい』のツッコミ(という名の鉄拳)を受けた。(阿伏兎さんが) 「そんなに俺が晩飯作ってあげるって言うのがおかしいのかい?」 『いや、今冷静に考えてみたらそれこそが異常事態でしたよ……。』 アタシが床に倒れこむ阿伏兎さんを介抱しながら答えれば、 団長は心外だとでも言いたげな目で私たちを見た。 「酷いなぁ。俺だって料理くらい作れるよ。」 「もしそうだとしても、団長が自分から他人に奉仕するなんて有り得ねぇ……。」 「阿伏兎、さっきのチョップじゃ足りなかったのかな?」 腹黒い笑顔を向けられ、阿伏兎さんは冷や汗をかきながらアタシの後ろに隠れた。 『えぇっと、団長、ホントに晩ご飯作ってくれるんですか?』 「だから言ってるじゃないか。作ってあげるって。」 『あ、あのっ、ありがとうございます。』 「分かればいいんだよ。」 満足そうにそう言うと、団長は台所に入っていってしまった。 勿論、団長を見送ったあと、アタシと阿伏兎さんは同時に顔を見合わせた。 あの『生き物はみんな俺の奴隷』精神の団長が、 自分から進んでご飯を作りに行った……。 それなのに世界で異常気象はおろか、異常事態さえ起こっていないなんて。 団長がご飯を持ってくるまで、アタシ達はずっと顔を見合わせていた。 アタシは絶対に料理に何かあるんだと思ったが、 予想に反して出てきた料理(カレーライス)にはおかしい所はなく、 普通に美味しかった。(何なの団長、意外と料理上手いんだけど) この時点でアタシも阿伏兎さんも疑うのを止めた。(と言うよりは考えるのを止めた) 「あの時もっと団長を疑ってたら、こんな事にはならなかったのによぉ……。」 昨日の出来事を思い返し、阿伏兎さんは泣きそうな声でそう言った。 『団長も馬鹿ですよねぇ。 まさか自分で男にしか効かないウイルスを晩ご飯の中に入れちゃうなんて。』 そう、何故この2人がこんな状態になっているのかと言うと、 昨日団長が作ってくれたカレーライスに入っていた薬が原因なのだ。 どうやらその薬、男性にしか効かないように作られていたらしく、 2人と一緒のご飯を食べたアタシには全くもって効果は現れなかった。 「だってさ、“彼女の違った一面が見られる薬”なんて書いてあったら 媚薬だと思うじゃないか。淫乱な一面かなぁっとか期待しちゃうじゃないか。 が淫乱になる所想像したら買っちゃうじゃないか。」 「あーもうマジでアンタ死んでくれよ頼むから!」 団長のアホすぎる不純な動機に阿伏兎さんがまた泣きそうな声でそう言った。 アタシは呆れながら、阿伏兎さんの額に乗せていた濡れタオルを取り、 すっかり熱くなったそれを水の中に入れてまた阿伏兎さんの額に乗せた。 「、俺も。」 『はいはい。』 アタシは2つのベットの間に置いた椅子の上で方向転換をし、 すぐに団長の方に体を向けた。 そしてすっかり熱くなったタオルを先程と同じように取り替える。 まさかこの2人が風邪にやられるなんて思ってもみなかったので、 冷えピタなんて便利なものは生憎と持ち合わせていなかった。 『それにしても、何で媚薬と思っていたなら 阿伏兎さんと自分の皿にまで薬を入れたんですか? アタシが狙いならアタシにだけ入れたら済んだのに。 そしたらこんな面倒な事にはならなかったのに。』 「そーだそーだ、そしたら俺は今頃こんな吐きそうな思いはしてなかったんだ!」 アタシが団長に尋ねると、阿伏兎さんもここぞとばかりに乗ってきた。 すると団長は「んー……」としばらく言葉を詰まらせて、 ゆっくりとアタシ達の方を見た。 「だって、カレーを混ぜてる時に入れちゃったんだもん。 後から気付いたけど、時すでに遅しだったんだもん。」 団長のその言葉に、阿伏兎さんが「かー!」と頭を抱えた。 「だもんじゃねーよ、このすっとこどっこい! 気付いたんなら何で出したんだ! ラウンドに突入する予定だった団長とはいいとして、 関係ねぇ俺にだって媚薬は効くだろーが!」 『あら阿伏兎さん、アタシが襲われてても助けないつもりだったの?』 聞き逃せない発言をした阿伏兎さんの熱に侵された右腕を両手で持ち、 メシメシと音を立てながら笑顔で尋ねる。 すると阿伏兎さんが青ざめながら 『痛い痛い俺が悪かっただから離してくれ……!!』と謝ってきたので、 優しいアタシは仕方なく右腕を解放してあげた。 そしたら、後ろで団長がちょっと咳き込み、 溜息をついたと思ったらいきなりこう呟いた。 「そうなったら阿伏兎には自分でヌいてもらえばいいと思って。」 この発言でとうとう阿伏兎さんがぷっちん来たらしく、 頭の方からプッチンと何かが切れた音が聞こえた。 「あーくそっ!俺が元気ならアンタのそのイカれた頭ブッ潰してやれんのになぁ! 復活したら覚えとけよこのクソヤロー!!」 『ちょ、阿伏兎さん落ち着いて、熱が上がりますよ。』 「ゲホゲホッ!!ゲホ、ゲホッ!!」 『あーほらもぅ、言わんこっちゃない……。』 盛大に咳き込んでいる阿伏兎さんの背中をさすりつつ、アタシは小さな溜息をつく。 とりあえず、今はこの2人の風邪を治す事が先決だ。 一応この2人は第七師団の団長と副団長なんだし、 いつまでもこの状態だと第七師団や春雨が全く機能しないんだもん。早く治ってくれないかしら
(でも出来れば阿伏兎さんから回復してほしい(私の身の安全のために)) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ アホな夜兎組のお話、続きます。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2012/08/14 管理人:かほ