しょうせつ

『2人とも、ご飯食べれます?もうすぐお昼ですけど。』

アタシが時計を見ながら2人に尋ねれば、
さすが夜兎族と言うべきか、2人の表情が少しだけ明るくなった。

「俺ラーメン食べたい……。」
『アホですかアンタ。病人はお粥と相場決まってんですよ。』
「俺ぁ白米がいいなぁ、せめて……。」
『ダメです。阿伏兎さんも食べるならお粥です!』

どうやら2人ともご飯を食べる気は満々なようだったので、
えぇー?という不服そうな声を無視してアタシは台所に向かった。
昨日団長が使ったであろう怪しげな紫のビンはすでに処分していたので、
今日の台所は比較的安全な場所だと思う。
少なくとも、風邪にうなされて文句をたれまくる夜兎族の間に居るよりは万倍マシだ。

そんなことを考えつつ、私はいつもより時間をかけてお粥を作った。
だってあの2人の間に居るのちょっと疲れてきちゃったんだもん。

『はいはいー、出来ましたよー。』

アタシが言いながら完成したおかゆを持ってベッドサイドに戻ると、
団長が不服そうな声で「遅い」と文句をたれた。

『すみませんでした。たくさん作ってたら時間かかっちゃったんです。』

団長の言葉に軽く答えながら、
私はまず自力で起き上がった阿伏兎さんにお粥を渡し、
団長にも自分で起き上がって食べるように言った。
でも団長は動かない。
さっきまでラーメン食べたいとか言ってたくせにこの野郎。
私がそんな事を考えていると、ふいに団長が私を上目遣いで見つめてきた。

「いま俺、寂しくなると死んじゃうか弱い兎なんだよ?
 出来る限りずっと一緒に居てよ、……。」
『だ、団長……。』

いつもはそのちょっと童顔なイケメンフェイスを見ても
素行のせいで憎たらしくなって殴りたくなるのだが、
今日ばっかりは何をしても本当に可愛く見える。
ってか可愛い団長。めっちゃ可愛い。本気で可愛い。
出来る限りと言わず一日中片時も離れずに一緒に居てあげたい。

私が可愛すぎる団長にキュンキュンなっていた時、
団長がおもむろに起き上がって私の手を掴んで真面目な顔でこう言った。

「ということで、とりあえず一発ヤらせて、寂しいから。」
『あーはいはい、分かってましたよきっとこんなオチだろうなって。
 ほら、起き上がったんなら自分で食べて下さい。この器重いんで。』

そう、分かってたんだ、団長が可愛くないことくらい。
私がぴしゃりとそう言い放つと、
団長は『ちぇー』と文句を言いながらも私が持ってきたお粥を食べ始めた。
そして私は一部始終をきっと馬鹿を見るような目で見ていたであろう
阿伏兎さんの方を向き、はぁ、とわざとらしくため息をつきながら話しかける。

『阿伏兎さん、アタシのこと馬鹿にしてます?』
「あぁ、ちょっとだけな。
 団長がか弱い兎とか言った時点でお前等を馬鹿だと思ってた。」
『……もうちょっとオブラートに包んでほしかったなぁ。』
「え?コンドーム?」
『言ってない。』

アタシは阿伏兎さんとの会話に下ネタで割り込んできた団長にピシャリとそう言った。
そして2人がお粥を食べ終わるのを本を読みながらのんびりと待ち、
病人とは思えない量(どんぶりサイズの器に3杯くらい)を平らげた2人に
『本当にこの人達病気なのか……?』と若干の不信を抱きつつ、アタシはどんぶりを下げた。

「ゲホゲホッ……ねぇ、俺もうそろそろ死ぬかも……。」
『ついさっきお粥をどんぶりで平らげた人がそんなすぐ死ぬとは思えませんが。』
「俺が死ぬ前にせめて一回でいいからとヤっときたいんだけど。」
『団長アタシの声聞こえてます?そんなに早く死にませんってば。』
「未来の夜兎族のために子孫を残そうか。」
『団長、額のタオルで窒息させますよ。』

団長の「死ぬ前に一発」攻撃にアタシが冷静にツッコミを入れていると、
後ろから阿伏兎さんのバカにしたような目線が突き刺さってきた。
その視線にアタシがゆっくりと阿伏兎さんの方を振り返れば、
思ったとおり阿伏兎さんは団長を可哀相なものを見る目で静かに見つめていた。

「俺……こんな人の部下なんだな……。」
『だめですよ阿伏兎さん、病気に負けてネガティブになったら終わりです。』

アタシは自分にも言い聞かせるように阿伏兎さんを励ました。
すると阿伏兎さんは一瞬目頭を押さえて、
そしていつも通りのやる気のない表情で団長の方を向いた。

「っつーか団長、ヤれる体力があるなら十分元気だろ。」
「バッカだなぁ阿伏兎は。人間は命の危機に直面したときが一番精力が増すんだよ?」
「アンタは年中とんでもねぇ精力だろーがこの万年発情期。」
「そのとんでもない精力がさらに凄くなるんだって。
 今の俺なら5つ子ぐらいは余裕で作れるね。」
『団長、そんなに頭の悪い会話ができるくらいだから実は相当元気になってますね?』

アタシが呆れた声でそう言えば、やはりさっきよりも顔色が良くなっている団長が
「え?まだまだ下の方は元気になってないけど?」とお得意の下ネタで返してきた。
ダメだ、この人相当元気になってる。
ご飯食べてしばらく寝てりゃあ大抵の病気は跳ね返すのかこの人は。

『阿伏兎さん、阿伏兎さんはどうです?気分は戻りました?』
「いや……吐き気はましになった、かな……。」
『阿伏兎さん、もうヨボヨボのおじいちゃんで体力も回復力もないかもしれないけど、
 せめて団長と同じ時期には治って下さいね!アタシの身が危ないから!!』
「お前人にもの頼みながら心抉れんのかスゲェな。」

アタシのお願いに阿伏兎さんは驚くくらい低い声でそう言って、
なぜか「お前元気になったら覚えてろよ」とアタシを睨みつけてきた。
何でアタシそんなに怒られてるの?
こりゃあどっちが元気になってもアタシに得はないのかもしれない……。




元気な夜兎にもをつけろ!

(あ、俺そろそろ動けるかも。、とりあえず回復祝いに一発ヤっとく?) (阿伏兎さんんん!!!!今すぐ治って下さいアタシのこと殴ってもいいから!!!) (団長、が本気で怯えてるから冗談はそれくらいにしといてやれよ) (俺は本気なのになぁ……) (なおさらタチ悪いわ) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 夜兎組はこんな風にまったりとアホなことしてればいいよ。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2012/11/17 管理人:かほ