しょうせつ

昔々、ある村に一人の女の子が生まれました。
その女の子は村でも評判の可愛らしさで、みんなから愛されていました。
しかし、その女の子の中に天人の血が流れていると分かると、
村人の態度は途端に変貌し、その女の子は村から追い出されてしまいました。

「悪魔の仔を殺してくれってよ。懐かしい響きだな、。」
『ホントにね。一体どっちが悪魔なんだっつー話。』

どうして晋助がこの仕事にアタシを連れて行くのか、だいたい予想はついていた。
依頼主はたんまりと報酬を前払いしたらしいけど、
晋助はそれを裏切るつもりなんだろう。
まぁ、相手は小さな組織だし、根絶やしにしてしまえば何も怖くはない。
そんなことよりも、悪魔の仔と呼ばれる少年に興味津々なんだろうと思う。

「先生が初めてお前を連れてきた時は俺も偏見を持ったもんだが……
 世の中何があるか分かったもんじゃねぇな。」
『晋助アタシのこと嫌いだったもんね。』
「だったじゃねぇよ、今も嫌いだ。」
『あっはは、はいはい。』

アタシを殺すために振り下ろされる刃しか知らなかったアタシに、
初めて護るために刃を振るってくれた先生が大好きだった。

“悪魔の仔が暴れてるって言うんで来てみれば、
 随分可愛らしいお嬢さんじゃないですか”

先生はそう言うと徐にアタシに近づいてきて頭を撫でてくれた。
その暖かさと優しさに、それまで溜まっていたものを全部吐き出して、
生まれて初めて人間に抱きついて大泣きしたあの日を、アタシは一生忘れない。

半分天人の、しかもあの夜兎族の血が流れているからと、
母親もろともアタシを殺そうとした村人を皆殺しにしたあの日、
アタシは自分の中の夜兎の血を初めて実感する事となった。
そして噂は噂を呼び、アタシは近隣の村々からお尋ね者扱いされた。
アタシに遭ったら迷わず殺せ。それが当時の口癖だった。
その人たちを返り討ちにしていたら、アタシの危険度はさらに増していった。

アタシを殺す依頼を受けてやってきた、松陽先生に出会うまでは。

『アタシ、晋助たちと会えて本当に良かったと思ってる。
 あの頃はいっそ死んじゃおうかなって何度も思ったけど、
 こうして晋助と一緒に居られて、今すっごい幸せだから。』
「そう言えば、俺達が最初の喧嘩の相手だったんだってな。」
『そーだよ。だって、村の子供達は怖がってアタシに近づかなかったから。
 初めて銀時にチビって言われて、晋助と取っ組み合いして、
 小太郎に殴られて止められた時は、ちょっと嬉しかったんだ。』

本気でかかっては行かなかったけど、それでも、
思いっきり誰かと喧嘩できることが、あんなに幸せな事だなんて思わなかった。

「俺は生まれて初めてお前みたいな凶暴な女に会って驚いたけどな。」
『だって晋助の周りってお嬢様ばっかじゃないの。』
「生まれがいいからな。」
『じゃあアタシなんて釣り合わないね、お坊ちゃま。』

冗談半分でアタシがそう言うと、晋助は嫌そうな顔をした。
お坊ちゃまとか言われるの嫌いなんだよなぁ、晋助。
小さい頃は銀時と一緒にお坊ちゃま連呼してからかってたけど、
流石に今やったら斬られちゃうな。

「釣り合う釣り合わねぇの問題じゃねーだろ。
 俺とお前が同じ想いなら、それでいい。」
『何今の、プロポーズ?』
「自惚れんな。ほら、さっさと行くぞ。」

先生を失ったこの世界をぶっ壊してやりたいっていう想いと、
また昔みたいにみんなで馬鹿やってたいっていう想いと、
もう一つは絶対に言ってくれないけど、お互いちゃんと分かってる想い。

『ねぇねぇ、連れて行くのアタシだけでいいの?どうせ裏切っちゃうんでしょ?』
「お前自分のこと何だと思ってんだ?あの戦闘部族夜兎だろーが。
 あんな小せぇ組織、俺とお前で十分だ。」
『あのねぇ、毎回言うけど、アタシ半分だけだからね!』
「はいはい。」
『聞き流すな!ちゃんと残業代出せよ!おい晋助ー!』

その日、一つの組織が壊滅し、鬼兵隊に新しい仲間が加わった。




沈黙で繋がる

(なんか、こうして3人で歩いてたら親子みたいだね) (馬鹿言うんじゃねーよ。俺は一姫二太郎にしてみせる) (あ、そこ?) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ あとは武市先輩を書けば鬼兵隊全制覇だ!← ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2010/07/25 管理人:かほ