しょうせつ

『ねぇ晋助、何で宴会場で飲まなかったの?』

アタシは窓の傍に腰掛けながら煙管をふかせている晋助にそう尋ねた。
今日はせっかく鬼兵隊のみんなで宴会を開いたというのに、
晋助はその宴会の席でお酒を一杯も飲まなかったのだ。
河上さんも武市さんも、あのまた子ちゃんですら飲んだのに、
晋助だけは頑なにウーロン茶を飲み続けていた。
……あっ、良い子のみんなはお酒は20歳になってからだからね!

「気分じゃなかったんだよ。」
『はぁ?宴会しようって言ったのは晋助じゃない。』
「気が変わった。今はお前と……と2人きりで飲みてぇんだ。」

そう言いながら晋助はアタシに振り向いて妖しい笑みを浮かべた。
その表情が窓からもれる月明かりと相まってとても妖艶で、
アタシは思わず顔を真っ赤にして晋助から視線を逸らす。
やっちゃったなぁ……晋助に照れてるとか思われたくないのに。
アタシが晋助のこと好きだっていう素振りを見せたら、
コイツどんどん調子に乗って俺様発言を連発するからなぁ。

「ククク……お前もそっちの方が良いんだろ?」
『……言ってろっ。』

ほらみろ。どんだけ自意識過剰だよ。
別にこういうトコ嫌いじゃないけど……なんか、負けた気分。

「オイ、こっち来いよ。一緒に飲もうぜ。」
『……しょうがないから付き合ってあげる。』

せめてもの抵抗でアタシは晋助に偉そうにそう言って傍に寄った。
でも晋助はアタシの強がりなんてお見通しで、
お猪口を持った片手をアタシの前に突き出しながら
「しょうがねーから注がせてやるよ」なんて言ってくる。
くっそう晋助め。いつかアンタの弱みを握ってやるんだからね!

『もう!晋助っていっつも余裕の態度で接してくるから嫌!』
「それがいいんだろ?」
『ほらまた!どんだけ自意識過剰なの!?アタシ耐えられない!』
「俺が良いからついて来たくせによく言うぜ……。」

アタシが仕方なしに晋助にお酌をしてあげると、
晋助はまたしても不敵な笑みを浮かべてアタシにそう言った。
そりゃあ攘夷戦争のあと晋助の所に来たのはアタシだけど……
でも、他の奴等のところに行くなって言ったのは晋助じゃない!
それなのにどうしてアタシだけ惚れた弱みにつけ込まれなきゃいけないわけ?
くっそー!腹立つー!

『もう!アタシ決めた!晋助のこと嫌いになってみせる!』
「はぁ?」
『アタシが晋助に冷たく接したら、晋助はアタシのありがたみに気づくでしょ?』
「お前……馬鹿なのか?」
『馬鹿って言うなー!!』

真顔で言ってきた晋助にアタシがウガー!と怒鳴りつけると、
晋助はいきなりアタシの腕を掴み、そのままアタシを床に押し倒した。

『わっ!?ちょっ……!!』
「……テメェが俺を蔑ろに扱えんのか?ん?」
『……ッ!』

自信満々でそう言う晋助のその妖艶な微笑みに、
アタシの体はお酒とは別の原因で一気に熱くなった。
もう……晋助のこういうトコ嫌い。
何でいつもいつもアタシが負けるんだろう……。

『し、晋助のバカ!さっさと退きなさいよ!お酒飲めないでしょ!』
「バカヤロー……酒なんてお前……。」
『…………?』

アタシが上に圧し掛かってくる晋助を退かそうとすると、
晋助はちょっと舌っ足らずな口調で喋りながらふらふらと体を揺らし始めた。
不思議に思ったアタシがしばらく黙って晋助を見ていると、
晋助はドタンッとアタシの上に倒れこんできた。

『ちょっ、晋助!?どうしたの!?』
「んー……もう飲めにゃい……。」
『はぁぁ!?』

突然の晋助の奇行にアタシが混乱していると、
晋助はまるで子供のようにアタシに抱きついてきた。
そして思いっきり寝る体制だ。「んー、」と呻き声をあげている。
何がどうなっているのか皆目見当もつかないアタシは、
とりあえず周りをキョロキョロと見回してみた。
そして、さっきまで晋助が飲んでいたお酒が目に留まる。

『……まさかとは思うけど、アレ?』

アタシは今まで飲んでいた酎ハイの缶を見つめてそう呟いた。
そう言えば、晋助が酎ハイ飲んでるとこって見たことなかったな……。
いつもは日本酒をほんの少し飲む程度で、元々お酒に強くないし。
今日の宴会は安かったからって酎ハイを大量に買ってきて飲んでたし。
酎ハイってジュースみたいだから結構多めに飲んじゃうんだよね……。
もしかして晋助って、お酒にとっても弱い?

「んー……ー……。」
『ちょ、ちょっと晋助!こんなトコで寝ないでよ?風邪ひくよ?』
「バッカおめー……俺が風邪ひくわけねぇだろ。」
『それは自分のことを馬鹿だと言ってるの!?人間なんだからひくよバカ!』

モゾモゾと動きながら徐々に顔を近づけてくる晋助に、
アタシはくすぐったくてちょっと身悶えながらもそんなツッコミを入れた。
するとようやっと目線を合わせられるくらいまで登ってきた晋助は、
アタシの顔を見るなりいきなり唇を重ねてくる。

勿論アタシはビックリして声も出なかったけど、
普段のねっとりとした大人のキスとは違い、
まるで子供のようなフラットなキスに、ついついそれを許してしまう。
すると晋助はアタシが抵抗しないのをいい事に、
何度も何度も繰り返しアタシにキスを落としてきた。

『んっ、ん、ぁ……し、晋助?』
「俺ぁ……酒に弱いから、お前の傍じゃねぇとダメなんだよ……。」
『えっ……?そ、それってどういう……。』

満足したのか今度は肩に顔を埋めてボソボソと喋る晋助に、
アタシは内心ドキドキしながらも言葉を返した。
そんなアタシの問いかけに晋助はしばらく黙っていたけれど、
徐に上体を起き上がらせ、アタシを見下ろす形でやっぱりニヤリと微笑んだ。

「の前でしか酔うような真似はしねぇっつってんだよ。
 俺がこんな風になんのはお前の前だけだ……。」
『なッ……!?バ、バカ!』
「ククク……悦んでんじゃねぇよ、バカヤロー……。」

晋助はその言葉を最後に、ドサッとアタシに倒れこんで寝てしまった。
最後の最後で人の心臓を鷲掴みにして行きやがってこの野郎……。
アタシはとりあえず自分の上から晋助を退かせ、
押入れから掛け布団を引っ張ってきて晋助にかけてあげた。
そして自分も一緒の掛け布団に入り、
ちょっと頬の赤い晋助の寝顔を見ながらうとうとし始める。

『晋助のバカ……大人だったらもうちょっと先に進みなさいよね……。』

アタシはそう言いながら晋助の頬にキスをして、意識を手放した。




大人の階段 一歩手前

(……何だこの状況……何でオレと一緒に寝てるんだ……) (んんー……晋助……) (まさか……ヤったのか?駄目だ、全く覚えがねぇ……!) (うー……晋助のヘタレぇ……) (へっ!?何!?どっち!?) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 晋ちゃんは普段は完全無欠だけど、 大事なところでちょっと足りないタイプだといい(笑) ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/01/15 管理人:かほ