『あのさぁ、晋助。』 アタシは晋助と2人きりの部屋で重々しく話を切り出した。 すると窓辺に腰掛けながら煙管をふかしていた晋助はゆっくりとこちらに振り向き、 「何だよ、」といつものクールな声で返事をしてくれる。 『前から言おう言おうとは思ってたんだけどさ……。』 「お前が俺の事を愛してるのはもう知ってるぜ。」 『いや、そういうことじゃなくて。』 晋助のあまりの自意識過剰発言に、アタシは思わず冷静に否定をしてしまった。 案の定、ちょっとムッとした顔をしている晋助が視界の端に映ったが、 今はそんなことに構っている暇はないのであえてスルーを決め込んだ。 『あのね……ちょっと言いにくいんだけど……。』 「なんだ、お前孕んだのか?」 『晋助ゴメン、ちょっと黙っててくれる?』 アタシの見るからに重苦しい雰囲気から どうしてそんなおめでたい話が出てきたのだろうか。 ポジティブなのか自意識過剰なのか判断に困るところだけれど、 とりあえずアタシは晋助に軽く釘を刺してから言葉を続けた。 『晋助のさ、お返しがね?その……重いんだよね。』 「あぁ?」 アタシの言葉に今度こそ本当に機嫌を損ねたのか、 晋助はとうとう煙管を置いて立ち上がり、 そのままこっちに歩いてきてアタシの前にどっかりと腰を据えた。 「オイ。俺のお返しが、何だって?」 『だっ、だって!晋助毎年ホワイトデーにどえらいお返しくれるじゃない!? アタシ去年チロルチョコ一個しかあげてないのに お返しが宇宙リゾート三泊四日の旅って一体どういうこと!?』 ものっそい怖い顔で睨みつけられてビビってしまったアタシは、 自分が思っていたことを早口で晋助に打ち明けた。 すると意外にも晋助は全然怒ってこなくて、 それどころかそんなことかとでも言いたげな顔でアタシを見下ろしてくる。 「別にいいじゃねぇか。」 『よくないよ!なんかそーゆーの重いの!!』 「俺の愛は宇宙一重いからな。」 『いやそーゆーのはいいから!』 心なしか開き直りつつある晋助の袖にしがみ付き、 ちょっとだけビックリした様子の晋助を見上げてアタシは言葉を続けた。 『ねぇ晋助、お願いだから今年からは普通のもの頂戴?』 「普通のものってお前……。」 アタシの必死さが伝わったのか、晋助は言いながら考え込むように宙を見た。 「指輪か?」 『いやそれ別の意味で重いよ!もっと庶民的なやつ!』 「庶民的なぁ……かんざしとか着物とか。」 『着物はちょっとアレだけど……かんざしいいね。』 「じゃあ職人にオーダーメイドで……。」 『はいダウト!!!』 アタシは思わず晋助の言葉を遮ってそう叫んだ。 どうして晋助にはそこら辺の店で買うとか、そこそこの値段のものとか、 そういう普通の考え方が出来ないんだろう! 全くもう、この根っからのボンボンは! もし晋助と結婚したら、財布の紐は絶対にアタシが握ってやるんだから! 「、お前一体何が不満なんだ。 高価なモンを買ってやるのは俺がお前を愛してる証拠だろーが。」 『そ、それは分かってるけど……。』 不服そうにアタシを睨む晋助に、アタシは目線を下に落とした。 『アタシは……高価なものも、豪華な生活もいらないから、 ただ一つだけ、晋助の気持ちが欲しいだけなんだもん……。』 晋助が本気でアタシのこと大切にしてくれてるのは痛いほど分かってる。 昔からずっと一緒に居るんだもん、晋助がどんな性格かも理解してるつもり。 自分の身内には不器用なりにだけどとっても優しくて、 敵は敵、味方は味方、利用できるものは利用する、そういう人。 銀時とか小太郎とかは晋助の事を何考えてるか分からないって言ってたけど、 アタシにはむしろその逆で、とても行動が分かりやすい人だと思う。 晋助は、一度心を許した人間のためなら何だってする。 その人を護る為なら命さえかけるし、世界中を敵に回してしまうような人。 さっき自分で愛が重いって言ってたけど、本当にその通りだと思う。 周りにも相手にも、痛いほど伝わる愛情を、晋助は注いでくれていると思う。 でも、その表現方法はアタシがほしいものじゃない。 お金なんて必要ないから、世界なんて要らないから、 ただ一言でいい。愛してるって耳元で囁いて、ずっと隣に居てくれれば、 アタシはそれだけで満足だし、愛してもらえてるって実感できる。 『ただ隣に晋助が居れば、アタシは宇宙一幸せになれるのに……。』 アタシがそこまで言い終えて顔を曇らせれば、 頭上から晋助の「ククク、」という笑い声が聞こえてきた。 『し、晋助?』 「随分可愛いこと言うようになったじゃねぇか、。」 晋助は言いながらアタシを見下ろしてニヤリと微笑んだ。 そのイジワルな顔に思わずキュンとしてしまい、 アタシは折角上げた顔をまたすぐに下に向けてしまった。 「そうだな……じゃあ今年は何もやらねぇことにする。」 『え?』 驚いて顔を上げたアタシの頬をその大きな手で包み込み、 晋助はまた不敵な笑みを浮かべた。 「その代わり、ホワイトデーだけは俺はお前の奴隷だ。 ずっと傍に居て、嫌ってほど世話焼いてやるよ。」 『晋助……。』 あぁ、やっぱりアタシは晋助が好き、大好き。 金銭感覚がちょっとアレな根っからのお坊ちゃまだけど、 テロリストなんかしちゃうような危険な人物だけど、 未だに松陽先生の事を根に持ってるしつこい男だけど、 でも、それでも、本当はとっても優しくてカッコいい人。 アタシの事をとっても大切にしてくれてて、 ずっとずっとアタシのことを引っ張って行ってくれる人。 晋助の隣に居ればアタシは道に迷う事なんかないって、 心から安心して傍に居れる人。 『あっ、ありがと……今までのお返しの中で一番嬉しいかも。』 アタシが晋助の手に自分の手を添えて照れながらそう言えば、 晋助はちょっと困ったような顔をして「はぁ、」と大きな溜息を吐いた。 「お前も安上がりな女だな。」 『やっ、安上がりって言わないでよ!』 失礼な事を言われてちょっとだけムッとしたアタシがそう言い返せば、 何がおかしかったのか、晋助はいつものように「ククク、」と笑っていた。 『あっ、そうだ、チョコレート。ちょっと待ってて、今取って来るから。』 「その必要はねぇよ。」 その言葉にアタシが『え?』と聞き返す前に、 アタシは晋助に両腕を拘束され、その場に押し倒されていた。 「俺が渡すもん変えたんだ。お前も変えるべきだろ。」 『えっ、ちょ……なんか嫌な予感……。』 「俺が体で返すなら、お前も体をくれるよなぁ?」 とっても嬉しそうな声でそう言ってニヤリと微笑む晋助に、 不本意ながらもキュンとしてしまった自分を殴ってやりたいと思った。絡み合う甘い蜜
(こんな事になるなら傍に居てなんて言わなきゃ良かった……) (オイ、ホワイトデーにはガキでお返しってのはどうだ?) (それ結局アタシが贈ることになるじゃん!!) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ あっ、あれ? なんか解釈によっては思った以上にエロいタイトルになってる気が……。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/03/05 管理人:かほ