しょうせつ

晋助は昔から今みたいに無表情でクールなお子様だった。
周りがどれだけ騒いでいようが、自分はお構いなしと言わんばかりに冷静で、
成績優秀・容姿端麗・剣の腕もなかなかのものだった。
だから女の子にキャーキャー言われちゃって、
でも女の子には興味ないからって何も言わずに放置するような奴だった。

そんな性格だから、ちょっとボロ出させてやろうと思って、
アタシは晋助に向かってこう言ったんだ。

『ねぇねぇタカチン!』

次の瞬間、アタシは晋助に思いっきり殴られた。(しかもグーで)

「テメェブッ殺してやる!!俺をそんな下品な名前で呼ぶなー!!」
『うわあぁぁん!晋助が殴ったぁぁ!』
「ちょ、晋助落ち着きなさい!」

ボロどころか腹ん中に飼ってた獣を呼び出してしまったアタシは、
殴られた頬を両手で押さえながら大声で泣き叫んだ。
すると騒ぎを聞きつけた松陽先生が暴れ狂う晋助を抑えこんでくれて、
松陽先生の後ろからちょろちょろと付いてきた銀時と小太郎が呆れた顔で晋助を見た。

「おいおい高杉ィ、タカチンコくらいで怒んなよなー。」
「銀時、タカチンコじゃない、チンスケだ。」
「あれ、そうだっけ?」
「テメェ等ァ……!!!!!」
「銀時!小太郎!晋助を挑発しない!」

今思えば、あんなに慌てている松陽先生を見たのはあれが最初で最後かも。
そこまで思い出して、アタシはクスッと吹き出した。
あの頃の晋助も無表情といえば無表情だったけど、
アタシや銀時たちと居る時だけはまだまだ感情豊かだったなぁ。
絶対に笑ったりはしなかったけど、結構負けず嫌いですぐにムッとしてたし。

『懐かしいなー。』
「何が懐かしいんだ?」

ふいに後ろから聞こえた声に、アタシは笑顔で振り返った。

『あっ、タカチン!』

次の瞬間、アタシの額にキセルがジュッとあてがわれた。





「おや?さん、そのおでこどうしたんですか?」

談話室でアタシがまた子ちゃんに手当てを受けていると、
廊下を歩いていた武市先輩がアタシ達に気づいてこちらに近づいてきた。

『晋助にやられた……。』
「晋助さんに?何でまた。」

武市先輩は驚いた様子でアタシにそう問いかけた。
すると手当てを終えたまた子ちゃんが苦笑いで武市先輩の顔を見る。

「それが……が晋助様に向かってタカチンって言ったらしいんスよ。」
「あぁ……なるほど……。」

話を理解した武市先輩は哀れむような目でアタシを見つめ、深い溜息を吐いた。

『い、いいじゃん別に!タカチンであることには変わりないんだから!』
「でも、小さい頃に一回怒られたんっしょ?ちょっとは学習するッスよ。」

また子ちゃんは言いながら武市先輩と同じように呆れた顔をした。
そんな2人の様子に、アタシはふん!とそっぽを向きながら腕を組んで憤慨する。

『もう大人になったから大丈夫かなって思ったの!
 でもとんだ勘違いだったよ!奴ぁまだまだガキさ!!』

吐き捨てるように言ったアタシに、
2人は同時に顔を見合わせて溜息を吐きながら肩をすくめた。

「一体どっちがガキなんでしょうねぇ……。」
「ほら、手当て終わったッスよ。
 これに懲りたらもう二度と晋助様にタカチンなんて言わないことッスね。」
『じゃあチンスケは?』
「お前全然反省してないだろ!!」

何の悪びれもなくアタシが言えば、
また子ちゃんはアタシの脳天にチョップをかましながらそう叫んだ。
そのチョップが結構痛かったので、
アタシは『うぅ、』と呻き声をあげながらその場に撃沈する。
そんなアタシに武市先輩がまた大きな溜息を吐いたところで、
入り口の方から聞きなれた声が悠然と入ってきた。

「オイ、は居るか。」
「あっ、晋助様!」

声の主の姿を確認した瞬間、また子ちゃんは嬉しそうな顔をして晋助に駆け寄った。
すると晋助はまた子ちゃんの後ろで悶え苦しんでいたアタシを発見し、
ただ一言「来い」とだけ言った。

『え?何?アタシ?ヤだよ、すぐ暴力に訴える晋助なんて嫌い!』

アタシは冗談半分でそう言って晋助から顔を背けた。
そんなアタシの行動にまた子ちゃんと武市先輩は
「また怒られるぞ」と言いたげな目をしていたけど、
晋助は冗談だと分かったのか、眉一つ動かさずに言葉を返してくる。

「はぁ?何言ってやがる。俺がいつお前に暴力を振るった。」
『このおでこのガーゼが目に入らぬか!』
「そりゃ俺じゃなくてキセルがやったことだ。」
『そのキセルを操ってたのはお前だろーが!』

晋助のボケなのか本気なのかが分からない発言が繰り出されたところで、
アタシはその場でガタッと立ち上がって盛大にツッコミを入れた。
それでも晋助は眉一つ動かさず、
ズカズカとアタシの方に歩み寄り、アタシの腕をガッと掴んだ。

「いいから来い。お前に用があるからわざわざ呼びに来てやったんだよ。」
『いーやーだー!タカチンって呼んだくらいで怒る心の狭い晋助はイーヤー!』

腕を引っ張ってくる晋助に抵抗しながらアタシがそう駄々をこねれば、
初めて晋助の眉間にしわが寄った。

「そんな卑猥な呼び名で呼ぶ必要ねぇだろ。
 テメェいつも晋助って呼んでるじゃねぇか。」
『じゃあもしアタシが晋助って呼ぶことに飽きたら何て呼べばいいの?』
「心配しなくても近いうちに違う呼び名で呼んでもらうことになる。」
『え?』

晋助の言葉にアタシが間抜けな声を出したのと同時に、
また子ちゃんと武市先輩も「え?」と驚いたような声を出していた。

「結婚後は俺のことを旦那様、もしくはアナタと呼んでもらう。」
『なッ……!?』

真顔でとんでもなく恥ずかしい事を言い放った晋助に、
本当に不本意だけど、アタシは思わずキュンとしてしまった。




私だけの特権

(バッ、バカ!そんな呼び方するわけないでしょ!?晋助のバカチンコー!!) (それただの卑猥物じゃねーか!!ブッ殺すぞ!!!) (ぎゃー!?晋助様落ち着いて下さいッスぅぅ!!!!) (さん!アナタいい加減にしなさい!!) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 昔の晋ちゃんは荒っぽかったらいいのになぁー。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/08/10 管理人:かほ