『女が男に組み敷かれるだなんて、一体いつ、どこの誰が決めたんでしょうか? いいえ!そんな事は法律で定められていないのです! 男と女のラブゲームなんて所詮はただの大衆文化!! 男が上で女が下だなんて固定概念はナンセンス!!!! 今こそこの下らない悪習に終止符を打ち、 女が上、男が下の世界を作り上げるべきなのです!!』 アタシは晋助の部屋でお正月のお祝いのために集まっていた 武市先輩、また子ちゃん、万斉、似蔵さんの目の前で とっても冷たい視線を浴びながらも声高らかにそう言い放った。 そして部屋の主である晋助の方にバッと体を向け、 華麗に歩み寄りながらこう続けたのである。 『そんなわけで晋助君、アタシの下であがけ!』 ジュッ アタシの額に晋助の煙管があてがわれ、肉が焼ける音が室内に響いた。 『っぅあっつううぅぅぅぅ!!!!!!』 あまりの衝撃にアタシは一瞬反応が遅れ、 後からやってきた額の熱に思わずその場で叫びながら飛び跳ねた。 そして額を両手で覆いながらその場でビタビタ暴れていると、 一部始終をみていたみんなが同時に深い溜息を吐いた。 「さん……あなた馬鹿だ馬鹿だとは思っていましたが、 まさかそこまで馬鹿だったとは思いもしませんでしたよ。」 みんなが頭を抱えている中、 武市先輩がアタシに哀れみとも軽蔑ともとれる視線を向けながらそう言った。 その失礼極まりない言葉に、アタシは体勢を立て直しながら必死で抗議する。 『武市先輩酷い!!アタシ馬鹿じゃないもん!!』 「いや、正真正銘の馬鹿ッスよ。」 『また子ちゃんまで!酷い!』 「自覚のない馬鹿が一番厄介だねぇ……。」 『似蔵さんも酷い!ってかアンタが一番酷い!!』 「酷いのはの頭の中でござる。 前々から頭のネジが足りない奴だとは思っていたが……。」 『うわぁぁん!!晋助ー!!みんながアタシのことをいじめるよー!!』 みんなの冷たい視線と突き刺さる言葉に耐え切れず、 アタシは思わず泣きながら晋助の足にすがりついた。 すると晋助はもんのすごく鬱陶しそうな顔をしたものの、 アタシを振り払おうとはせず、それどころかポンポンと頭を撫でてくれる。 あぁやっぱり晋助って優しい……。 アタシが思わぬ優しさにホロリと泣きそうになっていたまさにその時、 突然アタシの脳裏にそもそもの原因は 晋助の「ジュッ」だったということが駆け巡った。 『違うじゃん! そもそも晋助がアタシに煙管を当てなければ こんなことにはならなかったんじゃん!』 「それを言うならいきなりさんがあんな馬鹿馬鹿しいことを言わなければ 晋助さんに煙管をあてがわれることもなかったんじゃないですか?」 『シャラップ!武市先輩はいっつも屁理屈ばっかり言う!』 「いや列記とした事実ですよ。」 武市先輩の冷たいツッコミは華麗にスルーして、 アタシは目の前で悠然と煙管をふかせている晋助をキッと睨みつけた。 『何でさっき煙管でジュッってしたの!?アタシのこと嫌い!?』 「嫌いだったら今頃蹴り倒してボコボコにしてる。」 『こっ、怖いことサラッと言わないでよ……。 そんなにアタシが足にまとわりついてるのが鬱陶しいの……?』 「鬱陶しくねぇからこうして好きにさせてんだろーが。」 晋助はそういい終わると横を向いてフー、と煙を吐き出した。 その姿がなんだか艶やかで、新年早々綺麗なものを見た、と得した気分になった。 『晋助アタシのこと好きだもんね……知ってたよ?』 アタシが晋助の膝に顎を乗せながら可愛らしく小首を傾げれば、 晋助は眉間にしわを寄せて呆れたように溜息を吐いた。 「さっき嫌いかどうかって訊いてきたのはどこのどいつだ……。」 『だって晋助がアタシに組み敷かれてくれないんだもん。』 「あたりめーだ。」 『何でよぉー!』 アタシは不服そうにそう言いながら晋助の足をグラグラと揺らし始めた。 晋助は凄く鬱陶しそうな顔をしていたけど、 特に止めさせるでも怒るでもなく、いつものクールな表情で会話を続ける。 「世の中にはリードできる女も居るがなァ、お前は違うだろーが。」 『何ィ!?アタシの何を知っててそんなこと言うんだ!』 「全部知ってるだろーが。」 『そうだった!でもなんか腹立つ!』 アタシのその言葉に、後ろで4人が深い溜息を吐いたのが聞こえてきた。 何よ、何このアタシがボケましたみたいな雰囲気。 「それに、女に組み敷かれるのは俺のプライドに反する。」 『何それズルい!男ってズルい!』 「何がズルいんだ……。」 『主導権を話し合いもナシに奪えちゃってズルい!アタシも主導権握りたい!』 「何なんだお前……発情期か?」 『違うー!!そういう意味じゃなくてー!!』 アタシが言いたいのはアンダーザ男子の構図が 暗黙の了解になっているこの世界をぶっ壊すしかあるめーよって話であって、 別に今アタシがオンザ男子になりたいとか、そんなんじゃないのにー! アタシの語彙力と表現力が不足しているのか、 それとも晋助が万年中二病なのが悪いのか、 不幸にもアタシの言いたいことは全く晋助に伝わっていなかった。 むしろ誤解されている気さえする。 『とりあえず!アタシは晋助と一緒にこの世界をぶっ壊します!』 「何だよ、いきなりプロポーズか?お前も分からねぇ女だな。」 『だから違うってば!』 「オイテメェ等、しばらくこの部屋から出て行け。」 晋助のその言葉に、『えっ?』と声をあげたのは何故かアタシだけだった。 後ろでアタシと晋助の会話を聞いていた4人は 予想していましたとでも言わんばかりに小さな溜息を吐き、 そして迅速にその場を立ち去ろうと全員一斉に立ち上がってしまったのである。 ちょっと待って、この状態でアタシと晋助だけ置き去りにされたら つまりそういうことにしかならないじゃない。 ちょっと待って。お願いだからちょっと待って!! 『えっ!?みんな待ってよ!嫌だ嫌だここに居て!そういう意味じゃなくって!!』 「さんの言いたいことは分かりますが、晋助さんの命令ですから。」 「後でシバく。」 『えぇぇ!?ちょっ、また子ちゃん!?シバいてもいいから今すぐシバいて!!』 「じゃあ拙者達は食堂で祝いの席を設けているでござるから。」 「あぁ、後で俺達も行く。」 『嫌だ嫌だ今すぐ行きたいぃー!!ちょっ、みんなっ、待っ……!!』 ピシャン。 非情な音が室内に響き渡る。 何でだ。どうしてこうなった。 アタシはただ、レールの上に敷かれた道を歩み続けるこの世界を、 純粋にぶっ壊したかっただけなのに……。 『……ねぇ、晋助?』 「あぁ?」 『アタシね、今すっごい嫌な予感がする。』 アタシが晋助に背を向けながら静かにそう言えば、 晋助はちょっとだけ不機嫌そうな声で 「嫌な予感?テメェ喧嘩売ってんのか」と言った。 そしておもむろにアタシの腕を掴むと、乱暴に畳の上に押し倒した。 「至福の一時の間違いだろ?」 言いながらニヤリと意地悪く微笑んだ晋助に、 思わずキュンとしてしまった自分を殴りたかった。結局アタシが下なのか
(うぅっ……力で押し負けた……) (お前が俺を組み敷こうなんざ100万年早ぇーんだよ) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ んー、ちょっと内容が大人向け、かな? なんか、さっぱりした大人……って感じ。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2012/01/02 管理人:かほ