「どこ行ってた。」 俺は手に持っていた煙管をふかせ、 窓の外の月から腕を切り落とされた似蔵へと視線を移した。 「随分ハデにやられたなァ。」 「まぁね……でもこれでもう邪魔者は居なくなったよ……。」 似蔵は切り落とされた紅桜を片手に、至極満足そうな表情でそう言った。 大方、銀時あたりと一発殺りあってたんだろう。 コイツは使えると思って拾ってきたが、最近ずいぶんと勝手な行動が増えたことだ。 「クククッ……邪魔者、ねぇ。」 窓際に腰掛けながら俺は小さくそう笑った。 こいつの言う邪魔者は、恐らく俺の考える邪魔者とは違うのだろう。 一体こいつがどんな意味を込めて邪魔者と言っているのか、 そう考えると滑稽すぎて笑いがこみ上げてくる。 そんな俺の様子に似蔵は怪訝そうな顔をしていたが、 突然「あぁそうだ、」と思いついたように口を開いた。 「そう言えばもう1人邪魔者が残っていたねぇ。」 口元をニタリと不気味に歪め、似蔵はゆっくりと部屋の中に入ってきた。 「後に伝説となった攘夷志士の紅一点…… 傷を癒す力を持っていると攘夷志士共からは崇拝され、 天人共からは戦場の舞姫と恐れられた伝説の侍・。 なんでも彼女は踊るように戦場を舞い、戦うそうじゃないか。」 そこまで言うと、似蔵は恍惚の表情を浮かべながら紅桜を見つめる。 「ぜひ一度手合わせ願いたいものだねぇ……。」 似蔵が言い終わるのを待たず、俺は似蔵に斬りかかった。 「ぐっ……!?」 突然の出来事に驚きの色を隠せない似蔵は俺の太刀をなんとか受け止め、 もはや何も映らないその目で俺を睨みつけた。 「一体何の真似だい……。」 「1つ忠告しておいてやる。アイツには手を出すな。」 俺がそう言って刀に込めた力をゆるめれば、 似蔵も全身に込められていた緊張を少しだけ解いて俺と対峙した。 「やっぱりアンタ、には恐ろしいほど執着しているねぇ。」 「そうでもねぇさ。俺はアイツと袂を分かった。 目的のためならアイツを捨てることも厭わなかったのさ。」 そう、俺は世界を壊すためにを捨てた。 攘夷戦争中は良かった。も天人を憎み、共に剣を取り戦った。 ずっと俺の傍に居た。俺が傷つけば隣で俺を支えてくれていた。 俺もを護りつづけてきた。の体を何度も何度も抱き寄せてきた。 しかし、そんな日々も長くは続かなかった。 「お前今何て言った。」 それは天人共が猛威を振るい、俺たちの負けが確実となってきた頃だった。 攘夷戦争も終盤に差し掛かってきた頃、俺はこの世界に復讐することを決めた。 松陽先生を奪ったこの世界を俺は絶対に許さない。 恐らくこれから俺たちは天人との共存という未来を辿るだろう。 天人襲来のせいで、攘夷戦争のせいで犠牲になった者たちを乗り越えて、 新しい未来を築き上げようとするに決まっている。 俺はそれが許せない。 だから坂本が宇宙に行った後、俺はこの先どうしようかとずっと考えていた。 俺は、俺と同じように平和という言葉に甘んじてのうのうと暮らす世界に 一矢報いてやろうとする大バカ共を集め、指揮し、世界をブッ壊す。 たとえ銀時やヅラと道を違えても、俺は俺の信じた道を進むだけだ。 だが、俺にはどうしても1つ諦めきれないものがあった。 それが今俺の目の前に居るだ。 幼い頃の俺たちがまだ村で松陽先生に教わっていた頃、 銀時と同じように松陽先生に拾われて俺たちの元にやってきた女。 頭もそこそこ良ければ気立てもいいし肝も座っていた。 その可愛らしい外見とは裏腹に、剣術も俺達といい勝負が出来るほどの腕前だった。 その上、どこぞの天人の血を引いているのか、には治癒能力があった。 松陽先生が決して周りには言わないようにと口止めしていたその力は、 寺子屋内では俺と銀時とヅラしか知らないことだった。 俺達はいつも一緒で、4人で行動することがほとんどだった。 そして俺とはある約束をした。今思えばとんだ夢物語だ。 いつか結婚して、ずっと一緒に居ようと。 だからは俺達が攘夷戦争に参加すると決めた時、一緒に来ると言ったんだ。 俺の隣で、俺をずっと支えると約束したから。 だから俺は、この世界に復讐しようと決めた時、 当然のようにも一緒に来てくれるものだと思っていた。 しかし、 『ごめん晋助。アタシは行かない。 確かに松陽先生を奪ったこの世界をアタシは許せない。 死んでいった仲間も、村の人たちも、こんな結末望んでたわけじゃないと思う。 でも、アタシは……。』 アタシは、みんなが心の底から笑って暮らせる未来が見たい。 だから、破壊の道には進めない。 は驚く俺をまっすぐ見つめてはっきりとそう言い切った。 その時俺は、ではなく世界への復讐を選んだ。松陽先生を選んだ。 俺は、唯一愛した女を復讐のために手放したのだ。 「に指一本でも触れてみろ、この俺が直々に叩き斬ってやる。」 俺は似蔵にそう言って刀を鞘に収めた。 確かにあの日手放しはしたが、が他の誰かのものになるなんざ虫唾が走る。 他の誰かに盗られるくらいなら、俺はこの手でを殺す。 「ククク……惚れているのかい?」 俺が部屋を後にしようとすると、似蔵が癇に障る表情で俺にそう言った。 「……まさか。」 俺は自嘲気味にそう言って、去り際に誰にともなく呟いた。 「もしそうだとしても、叶わぬ恋だ。」 続く .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 似蔵さんの邪魔者は晋ちゃんの心の中にいつまでも残ってる連中で、 晋ちゃんの邪魔者は自分の道を阻む人間とか……そんな違い。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2013/04/05 管理人:かほ