一体どれくらい気を失っていたんだろう。 気がつくとアタシは無機質な部屋で両手を拘束されていた。 腕を引っ張ると、じゃらじゃらと重たい鎖がついてくる。 足は拘束されていなかったが、金髪の女の子に撃たれた左足がまだ痛んだ。 幸い血は止まっており、大事には至らなかったようだ。 「よぉ。」 『…………!?』 やっと起きたか。そんな言葉が頭上から聞こえてきた。 その声にアタシは一瞬心臓が止まる。 よく聞いた声。懐かしい声。昔、とても大好きだった声。 『……晋助。』 アタシが名前を呼ぶと、もう昔の面影はどこにも残っていない晋助が 妖しくニタリと微笑んでアタシを見下ろした。 「久しぶりだな。まさか銀時の所に居るとは思わなかったぜ。」 晋助は言いながらゆっくりとアタシの元へと歩み寄ってきた。 「あの時俺の誘いを蹴って、銀時についていったわけだ。」 晋助の言い方はまるでアタシを責めているようで、思わず『違う』と声が零れる。 『銀時についてったわけじゃないわ。偶然また同じ人に拾われたの。』 「ふぅん……そんな偶然、2度もあるもんかねぇ。」 『本当だってば!』 アタシがそう言う頃には既に晋助はアタシの目の前で腰を下ろし、 すぐそこでアタシの瞳を真っ直ぐに見つめていた。 戦争が終わった時にバラバラになって以来だから、数年ぶりの再会になる。 相変わらず男のくせにさらっさらの髪の毛をしている。 その眼は常に前だけを見つめていて、自分の信じた道を真っ直ぐ見据えている。 ちっとも腐ってなんかいない。昔と同じ、信念を感じさせる眼差しだ。 でも、 『どうして……。』 「……それは、お前を攫ったことに対してか? それとも、お前を捨てて復讐の道を進んだことに対してか?」 そう言った晋助の声は驚くほど静かで低く、表情はとても真剣なものになっていた。 先ほどまでの余裕の笑みはどこへやら。 まるで攘夷戦争が終わる直前、 晋助の誘いを断ったときのように冷たく、張り詰めた空気が周りを覆う。 『アタシのこと、まだ怒ってるの?あの時一緒に来なかったから。 それとも、銀時と一緒に居ることに嫉妬してるの?晋助はアタシをどうしたいの?』 聞こえてくるアタシの声は驚くほど震えていて、思わず目の前が霞む。 今目の前に晋助が居るのに、アタシのことを見て、アタシを必要としているのに、 手を伸ばすことも寄り添うことも、 ましてや晋助の望むようにしてあげることも出来ないなんて。 「俺がお前をどうしたい、だと?」 晋助はそう言いながら初めて眉間にしわを寄せた。 「そんなもん、お前が一番よく分かってんだろ。」 『…………。』 そうだ、アタシをどうしたい?なんて、アタシが訊いちゃいけない質問だった。 晋助がアタシをどうしたいかなんて、数年前のあの日から明白だったじゃないか。 「この戦争が終わったら、俺は同志を集めてこの世界に復讐する。 俺達から松陽先生を奪ったこの世界をブッ壊す。、俺と一緒に来い。」 あの時の晋助の疑いのない視線は、今でもアタシの心を締め付ける。 ずっと一緒に居ると約束したアタシが断るはずないって、 戦争が終わってもずっと自分についてくるはずだって、信じてたんだよね。 でも、アタシは晋助の誘いを断った。 確かに松陽先生を奪ったこの世界は憎いし、天人だって大ッ嫌いだった。 本当は全部めちゃくちゃにしたいって思ってた。 でも、そのせいでもっと多くの人たちの笑顔が奪われるのだけは嫌だった。 戦争には負けちゃったけど、天人が大きい顔して歩いてる世の中だけど、 そこに少しでも笑顔があれば、将来みんなが心から笑い合える世界があれば、 アタシはそれでもいい。過去を背負って生きていく覚悟は出来ていた。 晋助と一緒に行きたくなかったと言えば嘘になる。 一緒に行きたかったに決まってる。ずっと一緒だって約束したんだもん。 でも、アタシは晋助と同じ道は歩けない。 晋助も、アタシのために自分の信じた道を諦めるようなことはしない。 それだけはお互いに分かっていた。だからあの日、アタシ達は夢物語を捨てた。 『じゃあ何で……。』 何で今更、アタシを必要としてくれるの? 何でこんな時にアタシの目の前に姿を現すの? 何でこんなことをして、アタシの心をかき乱すの? 「……。」 そう呟いた晋助の声は、昔と同じ、とても優しい声だった。 ずっと隣で聴いていた声。優しくアタシの名前を呼んで、優しく微笑んでくれた。 あぁダメだ、目の前が霞んで見えやしない。 ねぇ晋助。晋助は今どんな顔をしているの? 悲しんでる?怒ってる?泣いてる?笑ってる? 今でもアタシと同じ気持ちで居てくれてるの? 今でも世界が憎いの?松陽先生が一番なの?またアタシを置いて行ってしまうの? 「……、悪いな。俺はお前のために立ち止まりはしねぇ。」 そう言った晋助の声は、少し震えていた気がした。 続く .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 書いてる私が辛いからやめろお前ら。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2013/04/12 管理人:かほ