しょうせつ

「晋助様大変です!!桂一派が攻め込んできました!!」
「分かった。すぐに行く。」

俺は慌しくなってきた船内を一瞥し、報告しにきた隊士にそう言った。

「、立て。」

俺は言うと同時にの両腕と壁を繋ぐ鎖を断ち切った。
は一瞬驚いていたが、俺が鎖の端を持ち上げるとおもむろに苦い顔になる。

『そう簡単に逃がしてくれるわけないか……。』
「はっ……ぬるい生活してるからそんなアホなことが言えるようになるんだよ。」

は未だ拘束されている両腕を恨めしそうに見つめていたが、
俺が鎖を引っ張ると抵抗するでもなく後ろについてきた。
そう言えば変平太とまた子の姿が見えないな。
恐らく先に甲板に出て侵入者の相手でもしているんだろう。

『晋助。』
「……何だ。」

俺に付き従っていたが先ほどとはまた違うトーンで俺の名を呼んだので、
歩みは止めることなく軽く言葉を返した。

『銀時や小太郎と戦うの?』
「…………。」

の言葉はまるで『戦うな』とでも言っているかのようで、
俺はすぐには返事ができなかった。
率先して戦いたいとは思わない。だが、俺の邪魔をするのであれば容赦はしない。
たとえかつて共に剣を取った仲であったとしても、俺達はそんな生温い関係ではない。

俺はそう思っているが、は違うだろう。
誰にも傷ついてほしくないと思っているは、俺達が戦うことを望みはしない。
いや、そもそも俺が復讐の道に進むことすら望んではいなかったはずだ。
しかし俺にはもうの望みを叶えてやることは出来ない。
俺の進む道は、の居ない道なのだから。

俺がの質問に答えることのないまま俺達は甲板へと辿りついた。
そこにはやはり変平太とまた子が居て、俺の姿を見るなり傍へ駆け寄ってきた。

「晋助様!!ご無事ですか!?」
「あぁ。状況は?」
「それがですねぇ、赤いチャイナ服のお嬢さんを桂一派の人質として捕らえたんですが、
 どうやら桂一派の者ではなかったようで、交渉決裂というわけでして。」
「武市先輩がヘマして今猛攻撃を受けてるところッス!」
「そうか。」

俺はの鎖を変平太に預け、今しがた目の前を横切った白い物体に歩み寄る。
どうやら俺の船に得たいの知れねぇモンが入り込んできているらしい。

「オイオイ……いつからここは仮装パーティ会場になったんだァ?」

俺が白い物体を真っ二つにした瞬間、その中から懐かしい匂いと声。

「かっ、桂さん!!」
「ズラァ!!生きてたアルか!!」

ガキ共のそんな声の後、また子の「晋助様ぁ!!」という声が背後から聞こえてきた。
そして、聞きなれた声で再生される、聞き飽きたお決まりのフレーズ。

「ヅラじゃない……桂だ。」

白い物体の中から出てきたヅラを確認すると、ガキ共は安堵の表情を浮かべた。
そしてそのまま視線を俺の後方に移し、途端に表情を強張らせる。

「あれは……!!」
「!!」
『新ちゃん!神楽ちゃん!』

俺に駆け寄ってきたまた子と変平太に連れられ、
も俺達と同じようにヅラ達の前に姿を現した。
するとヅラの後ろからガキ共がの名を呼び、もガキ共の名を叫ぶ。

「……。」
『って言うか小太郎!あんたエリザベスの中に居たの!?このバカ!心配したじゃない!!』

ヅラはそう喚くと俺を交互に見、眉をひそめて俺を見据えた。

「高杉貴様……を捕らえて一体何のつもりだ……。」
「ククク、何のつもりだ、だと?」

俺はその場でゆっくりと立ち上がり、ヅラと対峙した。

「決まってるじゃねぇか。の力は戦場でこそ発揮される。
 テメェや銀時のトコに居たんじゃ、その力も無用の長物なんだよ。」

後ろに居たの、驚くような息遣いが聞こえた。
そして目の前に居るヅラは、疑うような怒るような眼をして俺を睨んでいる。

「貴様らしくないぞ高杉。を兵器みたいに言うな。」
「兵器だなんて思っちゃいねぇ。
 ……ただ、俺以外の奴のところに存在していいものだとも思わねぇ。」
「高杉……。」

向こうの方で爆発音が聞こえる。
人の船で随分好き勝手やってくれているらしい。
俺は変平太とまた子に合図をし、船内に戻ることにした。

「待て高杉!!」

踵を返した俺に、ヅラが腹の底からそう叫んだ。
待て、とは、一体俺のどの行動に対して言っているものなのか。

「いい加減にしたらどうだ。お前のことは、お前が一番良く分かっているはずだろう。」
「…………。」

歩みを止め、しかしヅラの方へは振り返らなかった。
変平太に連れられているは心配そうにヅラの方を見つめている。

「お前は昔からそうだ。にまだきちんと言葉にして伝えたことがないだろう。
 本当にそのままでいいと思っているのか?大切なものを見失うな!!」
「黙れ。」

俺はゆっくりと視線をヅラの方に向けた。
しかし、ヅラの顔を見ることはせず、自分とヅラの間に出来た広い空間に目をやった。

「それ以上言ったら、今この場でブッ殺す。」
「高杉……。」

俺の隣ではが辛そうな表情で目を伏せていた。
これでいい。
今の俺には、を笑顔にすることなど出来はしないのだから。


続く

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救いのないお話は書いてる方のダメージが大きいです。


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2013/06/02 管理人:かほ