しょうせつ

銀時と似蔵が戦っている。変平太やまた子もさっきのガキ共と戦っている。
ヅラの一派も甲板でドンパチやっているし、ヅラももうすぐここへやって来るだろう。
その前に、俺はケリを着けなくちゃならねぇ。

「、最後のチャンスだ。」

俺はに刃を突きつけながらそう言った。
両腕を拘束され苦々しい顔をしているは、静かに俺を睨みつけた。

「今度こそ、俺と一緒に来い。」

気のせいか、切っ先が震えているような気がした。

『…………イヤ。』

はやっとのことで搾り出したような、今にも消えてしまいそうな声でそう言った。
分かっていた。最初から答えは分かっていたのに、どうして俺はこうもを苦しめる。

「。」
『イヤ。』
「、」
『絶対イヤ!!』

泣き叫んでいると言った方が良さそうなのその声は、俺の剣先を少しだけ後退させた。

「……分かってねぇなァ。お前、自分だけは俺に殺されないと思ってるだろ。
 そりゃあとんだ見当違いだ。俺はお前を殺せる。」

剣先が鈍ったのを悟られたのか、はゆっくりと顔を上げ、俺を真っ直ぐ見据えた。

「お前が俺のモンにならねぇ以上、この世にあっても無意味なんだよ。
 他の誰かのもんになるくらいなら、いっそここで俺が殺してやらァ。」
『晋助……。』

は驚いたような、悲しんでいるような、そんな声を出した。
そして一瞬目を逸らし、俺のよく知っているの顔になる。

『それでもイヤ。アタシはこの手で誰かの笑顔を奪うようなことしない。』
「じゃあここで死ぬか?」
『死なない!絶対に死なない!!アタシはこんな戦場で死ぬなんて絶対に嫌だ!!』

“こんな戦場で死ぬなんて絶対に嫌だ”

その昔、同じ言葉を聞いたことがある気がした。
俺たちが攘夷戦争に参加してしばらく経った頃、あの戦場で。





「オイ、その天パより俺の方が重症だぞ。」

先に本拠地に戻ってに手当てを受けていた銀時を足蹴にすれば、
銀時が俺の顔をキッと睨んで吼えてきた。

「あぁん!?テメーなめてんのか!!順番くらい守りやがれ!」
『もー、2人とも喧嘩しないの!いいよ、晋助ここ座って。同時に出来るから。』
「、あまり無茶をするな。お前だってボロボロじゃないか。」

に言われるがままに銀時の隣に座った俺を見て、ヅラは眉間にしわを寄せる。

「その上その力を乱用していたら、いつか死ぬことになるぞ。」
『大丈夫だって!そのためにみんなと一緒に居るんだから。
 ピンチになったら小太郎達が守ってくれるでしょ?』
「まぁ……そうだが……。」

が言いながらにこっと微笑めば、ヅラは困ったような照れたような声を出す。
その様子が気に入らなくて、俺は「ふん、」とそっぽを向いた。

「ヅラごときがを護りきれるとは思えねぇけどな。」
「アッハッハッハ!でもはそう簡単に死ぬ女じゃないきに!」
「違ぇねぇ。」
『ちょっと、辰馬も銀時も殴られたいの?アタシを女の子扱いしろ!』
「女扱いされたいなら女らしくしろよ。」
『はぁ?晋助アンタ何言ってんの?
 戦場で女らしくなんかしてたら殺されるじゃない!馬鹿じゃないの?』
「テメェ……自分で言っといて……!!」

俺が睨んでいるのを見ないフリで、
が銀時の背中を叩きながら『はい終わりっ!』と軽快な声をあげた。

『それに、アタシは絶対に戦場では死なないって決めてるの。』

俺の創部に両手をあてながら言ったの言葉に、俺たち4人は同時に顔を見合わせる。

「なしてじゃ?」

辰馬が訊くと、はゆっくりと俺たち全員を見回した。

『だって戦場で死んじゃったら、最期に笑えないまま死んじゃうことになるでしょ?
 アタシは最期の時は笑って死にたい。だから、こんな戦場で死ぬなんて絶対に嫌だ。』

それはまるで胸に秘めた願いを無理やり声に出しているかのようで、
俺たちは誰一人として声を出すことなく、ただの声に静かに耳を傾けていた。

『それに、最期の言葉が“天人全滅しろ……マジ死ね”になるのも嫌だしね。』
「お前……死に際にそんな悪態をつくつもりだったのか。」
「アッハッハッハ!」

真面目なのかふざけているのか良く分からないの言葉に、
ヅラが呆れたような声を出し、辰馬がケラケラと笑い始めた。
そんな2人につられてかも『ふふ、』と小さく笑い、そして静かにこう続ける。

『アタシは、最期の言葉は“楽しかった”に決めてるの。
 だからここでは絶対に死なない。どんな形でもいいから、最期は笑って死にたいの。』

あの時のの手の暖かさは今でもよく覚えている。
そして、言いながらの手が小刻みに震えていたことも。





「…………。」

あの頃からコイツは何一つ変わっていない。
人一倍不安でたまらねぇのに、それを悟られまいと気丈に振舞う。
本当は前線なんかに立たず、安全な場所で誰かに抱きしめられて居たいのに、
自ら茨の道へと足を踏み入れちまう。

『もしここで死んじゃったら、最期の言葉が“晋助の馬鹿野郎”になっちゃうもん。
 アタシの最期の言葉は、絶対に“楽しかった”って決めてるんだから。』
「…………変わっちゃいねぇな、お前は。昔も、今も。」

俺が再度切っ先をの目の前に突きつけながらそう言えば、
は依然として俺を真っ直ぐに見つめ、どこか寂しそうな声で言葉を返してきた。

『晋助は変わっちゃったね。』
「…………そうでもねぇさ。」
『…………?』

俺の言葉に、は怪訝な顔をした。

「大切なモンは、今も昔も何一つ変わっちゃいねぇ。」
『…………。』

俺は刀を降ろし、乱暴にを抱きしめた。

「、俺に抱かれてから死ぬか?最期にお前を愛してやるよ。」
『……ごめん晋助、そんな愛情いらない。それに……。』

の言葉を遮って、後ろから俺の名を呼ぶ声が聞こえた。
振り向きざまに刀を振るうと、斬りかかってきたヅラの刀と交差する。
俺がヅラに気をとられている隙には俺の手中から逃げ出し、
ヅラは俺と距離を取ると同時にの両腕の拘束を刀で切り落とした。

『晋助、ごめん。アタシも晋助と一緒。』

そこに、俺の姿を映すは居なかった。

『アタシには、晋助の為にだって捨てられない、大切な仲間がたくさん居るから。』





「逃げられたでござるな。」

船から飛び降りた銀時とヅラを眺めながら、万斉が静かにそう言った。

「戦場の舞姫などと呼ばれていても、
 所詮は戦いに溺れた醜い女だと思っていたが……予想以上の美しさでござるな。」
「惚れんじゃねぇぞ。アイツァ火傷どころじゃすまねぇぜ。」

万斉と同じように銀時たちの消えていった空を見つめながら俺が言えば、
隣に居た万斉はゆっくりと視線を俺の方に向けた。

「お主も、火傷どころでは済まなかったようだな。」
「…………。」

俺はしばらく押し黙り、そして自嘲気味に笑いながら呟いた。

「皮肉なもんだ。心は手に入ってるってのに、
 体も、声も、笑顔さえも手に入れることが出来ねぇなんてよォ……。」

結局最後まで、一番言いたかったことが言えなかったな、お互いに。




”の、その一言

(天邪鬼な貴方も、天邪鬼な私も) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ やっぱり私の中で晋ちゃんと銀ちゃんは根は一緒っていうのがあるので、 晋ちゃんには銀ちゃんと同じ台詞を言っていただきました。 と言うか誰かコイツ等を幸せにしてあげて……。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2013/07/08 管理人:かほ