『ムー!ム〜……!!』 「…………。」 何を思ってのことだろうか、さんは歩いていた私を急に呼び止め、 突然その場で片腕を上に伸ばしながら背伸びをし始めた。 その行動の意味が全くもって理解できず、 私はただ呆然と背伸びをしているさんを見つめていた。 『ぷはー!くっそー!もうすこしなのに!』 頑張りすぎて息を止めていたのだろう、 さんは真っ赤になった顔で苦しそうに息を吸いながらそう言った。 そしてしばらく呼吸をした後、また腕の伸ばして背伸びを始める。 最初は何かを取ろうとしているのかとも思ったが、 さんの腕の先には私の顔以外何もないのでそういうわけではないようだ。 「あの、さん?」 『ん!?なにぃ!?』 私が声をかけると、さんは今忙しいのと言わんばかりにそう言った。 もちろん背伸びはまだ続けていて、見る見るうちに顔が真っ赤になっていく。 「さっきから何してらっしゃるんです?」 『みたらわかるでしょ!』 「いや……全く分からないから訊いてるんですが……。」 私が呆れたようにそう言えば、さんはまた『ぷはぁ!』と大きく深呼吸をして、 荒い息を整えながら不満そうに私の顔を睨んできた。 『もう!たけちせんぱいのオバカ!あたまよしよしするんでしょ!』 「はい……?」 思いもしなかったさんの言葉に、私は思わず間抜けな声をあげた。 「えぇっと……あたまよしよし?」 『そう!ちんすけがね、たけちせんぱいがガンバッタっていってたの。 だからがあたまよしよししてあげるの!』 「さん、ちんすけじゃなくて晋助ですよ。」 何故か誇らしげに胸を張るさんに、私は困惑して頭をかいた。 さんが言っている“ガンバッタ”とは、 私が先ほど完遂してきた大企業との密輸の話だろう。 確かに頑張ったには頑張ったが、この歳になって頭よしよしはちょっと……。 「……頭を撫でてくれようとしてたんですか。」 『そう!』 私が控えめに尋ねると、さんはフン!と鼻息を荒くした。 「どうしていきなり……。」 『ホントはね、はたけちせんぱいにちゅーするつもりだったの。』 「はい!?」 さんの予想外の言葉に、私はガラにもなく大声をあげた。 『でもちんすけがそれはきょういくじょうわるいからダメだって。 だから、あたまよしよしならいいっていうから、あたまよしよしなの。』 「……なるほど。」 つまり、頭よしよしは晋助さんの代替案であると。 ここまで聞いてさんの突然の行動がようやく理解でき、 私はスッキリしたようなモヤモヤしたような、微妙な心境に陥った。 私としてはキスくらいならいつでも大歓迎なんですがねぇ……。 子供の戯れのキスなんだから、教育上そこまでよろしくないことないでしょうに。 「では、さんは私を労うために頭を撫でてくれようとしたんですね。」 『ネギ?』 言葉が難しかったのか、さんは可愛らしい顔で小首を傾げた。 「んー……、褒める為に、ですよ。」 『うん!そう!』 「でも届かなかったと。」 『そう!!』 「…………。」 何が面白いのか、満面の笑みで答えるさんに、私は小さな溜息を吐いた。 まぁ、さんなりに一生懸命考えた上でのこの結果なので、 ここは大人である私がさんの気持ちを汲んであげるとしましょうか。 そう思った私はさんの目の前でしゃがみこみ、 彼女の手の届く位置に頭を持ってきてあげた。 「これでどうです?」 同じ目線になったさんの顔を見ながらそう尋ねると、 さんはポカンとした表情で私の顔を見ていた。 『たけちせんぱい……ちっちゃくなった……。いまのにんじゅつ?』 「残念ながら違います。」 『じゃあなんで?』 「ただしゃがんだだけですよ。さんにも出来るでしょう?」 しゃがむ、という行動自体は理解できたのか、 さんは元気に『シュバッ!』と言いながらその場にしゃがみこんだ。 そしてキョロキョロと周りを見回し、 自分が小さくなったことを確認するとパァッと満面の笑みになる。 『できた!!』 「よかったですね。」 私が笑いかけながらそう言えば、さんも『うん!』と嬉しそうに微笑んだ。 『じゃあちっちゃくなったが ちっちゃくなったたけちせんぱいをナデナデしてあげる!』 そう言って元気よく伸ばされたさんの手が、私の頭に届くことはなかった。伸ばす(届かない)
(あれぇ?とどかない……) (…………) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 六万打本当にありがとうございました! 武市先輩と幼女の絡みとか燃えたぎるわ。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/10/16 管理人:かほ