しょうせつ

聖なる夜、クリスマス。
今日は純粋な子供達がサンタさんに夢と希望をもらう日。
だからアタシみたいな不良娘のところにサンタさんは来ない。

って言うか、アタシはサンタさんなんて信じてない。
サンタさんって、世間一般的にはお父さんのことでしょ?
アタシには両親も居なければ肉親も居ない。
去年ひょんなことからこの船に拾われるまで、ずっと一人で生きてきた。

夢も希望もなければ、暖かい生活もない。
だからクリスマスなんて浮かれた行事に生まれてこの方参加したことがない。
アタシは久々に地球にやってきた船の甲板から光溢れる町を眺めて、
ちょっと羨ましいかも、なんて思いつつ、深い溜息をついた。

『別にクリスマスが嫌いなわけじゃないけど、なんだかなぁ……。』

あの赤と緑の電飾に囲まれた子供達に比べたら
かなり過酷な人生を歩んできた、いわゆるスレた子供であるアタシには、
素直にクリスマスを喜べる心も感情もない。
自分でも寂しい子供だと思う。でもしょーがないじゃん。
楽しみたくても楽しくない。何も感じないんだもん。

「〜!!」
『…………。』

アタシが物思いに耽っていると、後ろからいつもの能天気な声が聞こえてきた。
その声にアタシは眉間にしわを寄せ、また深い溜息をつく。

「ー!おんしゃーサンタば信じとーがか?」

アタシの反応などお構いなしで、
辰馬はいつものように能天気な様子でアタシにそう尋ねてきた。
アタシよりも一回りくらい年上のくせに、
どうしてコイツはこうも無邪気で能天気で明るいんだろうか。
一緒に居るとアタシの方が年上のような錯覚に陥るけど、
アタシはまだ未成年、辰馬はもうすぐ三十路超え。
いっそ性格が入れ替われば、人生上手くいくと思うんだけどなぁ……。

『……サンタなんて居るわけないでしょ?バカじゃないの?』
「アッハッハッハ!予想通りの答えじゃのぉー!」

溜息交じりでアタシが辰馬に振り向きながらそう答えれば、
辰馬はまた能天気に笑ってそう言った。
まぁ、アタシが捻くれてるのは周知の事実だから別にいいんだけど、
それでもコイツにこのテンションで「予想通り」って言われるとちょっと腹立つ。
なんか嫌。イラッとくる。

『だいたいサンタの噂って、それっぽい格好した天人が由来なんでしょ?
 無条件でプレゼントくれる人なんて、この世に居るわけないじゃない。』
「は冷めちゅーのぉー。」
『そりゃ小さい頃から苦労してますから。』

何も考えてなさそうな辰馬の態度にイライラして、アタシは嫌味っぽくそう言った。
コイツ見てると、アタシがさらに可愛げのない子供に見えて嫌なのよ。
何でコイツはこの歳でそこまでちゃらんぽらんで居られるの?
どんだけ温室育ちなの?頭ん中空っぽなの?

「そんなんじゃったら、んトコにはサンタば来てくれんきにー。」
『いいわよ別に。欲しいものなんてないもん。』
「ちなみに、ワシャもうプレゼント貰ぅたぜよ。」
『はぁ?』

アタシは怪訝な顔をして辰馬を睨んだ。
いきなり何言い出すのコイツ。アタシに喧嘩売ってるの?
……まぁ、辰馬のこの性格だったら、
サンタさんが間違えてプレゼントくれちゃいそうな気もしないでもないけど。
でも流石に三十路手前のオッサンにプレゼントはないでしょ……。

「いやー、まっこと貰えるとは思わんかったぜよ。
 何でも信じてみるもんじゃのー!アッハッハ!」
『アンタ何言ってんの?バカなの?頭悪いの?』
「アッハッハ!いい加減に優しくしてくれんと、ワシも泣くぞ!」

アタシがどれだけ冷たく接しても、辰馬にだけは通じない。
そんなこと、この船に来た時から分かってたのに、なんか腹立つ。
あーもう、何でこんなにイライラするのかなー。
アタシは楽しそうに話す辰馬から視線を外し、
下に見える綺麗な電飾をまた眺めることにした。

「のぉー、ワシが貰ぅたプレゼント聞きとーないがか?」
『どうせ陸奥さんから貰ったキャバクラのサービス券か何かでしょ。』
「陸奥がそがいなもんくれるわけないじゃろーが!」
『あーはいはい、本当にサンタさんから貰ったのねー。良かったわねー。』
「ワシャ子供か!」

アタシがバカにしたような態度で接すると流石の辰馬もちょっと怒ったのか、
普段よりもちょっとだけ声を荒げてアタシにツッコミを入れてきた。
でもまだいつもの笑顔だったし、アタシは態度を変えることなく会話を続ける。

『で?辰馬君はサンタさんに何もらったのかなー?』
「じゃき!」

にっこりと音まで聞こえてきそうな程のとびっきりの笑顔で、
辰馬は本当に嬉しそうにそう言い放った。
そんな辰馬の言動に、アタシはビックリし過ぎて言葉を失う。

「さっき取引先から電話があってのー、
 今夜入っとった商談が明日に持ち越しになったんじゃ。
 こりゃあと一緒に過ごせぇ言うとるようなもんぜよ!」

そこまで言って、辰馬はやっぱり嬉しそうに笑った。

何コイツ。ホントイライラする。
何でそんなに嬉しそうに笑うの?何でアタシにそんなに付き纏ってくるの?
何でアタシと居られるからってそこまで喜ぶの?
何でそんなに屈託のない無邪気な笑顔で笑うの?

アタシは何だか顔が熱くなって、辰馬から視線を逸らした。
頭がふらふらする。心臓がうるさい。顔が熱い……。

「ってなわけで!これからワシと地球デートでもするぜよ!」
『……ッ、イヤ!』
「なしてじゃー!せっかくの地球じゃきー、楽しまんと損ぜよー!」
『イヤ!イヤイヤイヤ!アタシ絶対行かないから!』

しつこくアタシの顔を覗き込もうとする辰馬の攻撃を避けながら、
アタシはまるで駄々っ子のようにそう言って顔を隠した。
もう!ホントイライラする!
何でアタシが顔を真っ赤にしなくちゃいけないの!?
何で辰馬の前じゃ、アタシはこんなに子供に戻っちゃうの!?
別に無邪気な子供になりたくないわけじゃないの!
でも、なんか、コイツにそんな一面を見せるのだけは絶対にイヤ!

「なんじゃあ、照れとるがか?」
『照れてない!いいから向こう行って!!』
「そがいに顔真っ赤にして照れてないはないじゃろー。」
『イヤッ!抱きついてこないで!暑苦しい!!』
「こんなに体ば冷やして何を言うとるんじゃー。
 心配せんでも他に誰も居らんきに、思う存分照れればええがじゃ!」
『もぉ〜!!』

何よ、分かったようなこと言って!
いいから離れてよ!ドキドキし過ぎて心臓破裂しそうだから!
頭パーンってなっちゃうから!密着してたらドッカーンってなる!!
あーもう腹立つ!
普段は子煩悩でちゃらんぽらんなくせに、
何でアタシの前だとそんな大人の男の人みたいに振舞うの!
何でアタシの心が読めます的な感じで接してくるの!
余裕の対応か!あーもう!イライラするー!

『ええから離れてぇやー!』
「アッハッハ!おんし方言が出とーぜよ!分かりやすい奴じゃのー!」
『もぉ〜!!この毛玉ぁー!!』

結局今年のクリスマスは始終こんな感じ。
この後辰馬にむりやり地球デートに付き合わされちゃったし……。
全く……こんなの、心臓が何個あっても足りないっつーの!




(は照れると方言が出るから分かりやすいがじゃ) (あーもう嫌い!大ッ嫌い!辰馬と居ったらアタシのキャラが壊れる!!) (アッハッハ!そりゃあベタ惚れっちゅーんじゃ!) (どんなけポジティブやねん死ね!) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 大遅刻ですが、辰馬とメリークリスマス! ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2010/12/31 管理人:かほ