しょうせつ

その日、俺は猛烈に二日酔いだった。
だから所定の位置でダラダラと休息を取っていたのだが、
どうやら酔いは増しているらしく、さっきから幻聴が聞こえてくる。

「きーんとーき君!あーそーぼー!」
「…………。」

もう3度目になるそのアホっぽい声に、俺はとうとう両耳を塞いだ。

『ちょっと銀時!アタシ今洗濯物干してるから銀時が出て!』
「うるせぇよ。ありゃ幻聴だ。もしくはオレオレ詐欺だよ。」
『アンタ何言ってんの!?あの声は辰馬でしょ?』
「はぁ?辰馬?誰それ。俺の知り合いに辰馬なんて居ねぇけど。」
『銀時!!』

俺が自分でも意味不明な言い訳を続けていると、
痺れを切らしたがイライラした声でそう怒鳴った。
あんなもんガキ共に相手させりゃいいんだよと思ったが、
そう言えば神楽と新八は朝からどっか出かけてたっけか。
俺と以外で残ってんのは定春だけだな……。

「おーい定春ー。お前が出ろー。」
「ワンッ。」
『銀時!!いい加減にしないと怒るわよ!?』

そろそろ顔面ストレートをお見舞いしてきそうなの声と同時に、
玄関がガララッと開く音と、
「ちょっと銀さん!」という新八の声が聞こえてきた。

「何してるんですか!坂本さんずっと外で待っててくれてましたよ?」
「おー、おかえりー。」
「お帰りじゃないですよ!全く……すみません、坂本さん。」
「アッハッハ!いやいや、ワシは気にしとらんきー。」

どうやら買出しに出掛けていたらしい2人の手には
大江戸スーパーの袋がそれぞれ2つずつ握られていた。
その後ろから無駄に馬鹿デカい辰馬が
いつものイラッとする笑い方をしながらのそのそと入ってくる。

『ゴメンね辰馬ー、アタシ洗濯物干してたから。』

神楽と新八がスーパーの袋を机の上に置いてソファーに座ったのと同時に、
洗濯物を干し終えたが隣の部屋から事務所に入ってきた。
するとの姿を見た途端、辰馬はこれ以上ないくらい喜んで、
普段の倍の笑顔での方に歩み寄っていった。

「おぉ!久しぶりじゃのー!相変わらずベッピンじゃのぉ!」
『辰馬は相変わらず頭悪そうねー。』

爽やかな笑顔で毒を吐いたは
テーブルの上に置かれた袋を見て『あ、』と声をあげ、
その袋の中から綺麗に包装された箱を1つ取り出し、辰馬に差し出した。

『はいコレ。お目当てはこれでしょ?』
「……?何じゃこりゃ。」

差し出された箱を受け取りつつ、辰馬は小首を傾げる。
それに呼応するかのようにと新八、
そして神楽までもが顔を見合わせて小首を傾げた。

『えっ、何って……チョコレート貰いに来たんじゃないの?』
「チョコレート?ワシャ久々に金時と遊ぼー思ぅただけぜよ。」
『へ?』
「俺は銀時だっつってんだろーが!!
 しかもテメェ、今日はバレンタインデーだろーが。」

さっきから性懲りもなく金時を連呼する辰馬にとうとう頭に来た俺は、
ガンガンする頭を持ち上げて辰馬に向かってそう怒鳴った。
すると辰馬はしばらく目を瞬かせた後、「あぁ、」と納得したように手を叩く。

「そう言やぁ地球にはそんなイベントがあったのー。」
「知らずに来たんですか?
 僕はてっきりさんのチョコを貰いに来たのかと……。」
「いやー、すっかり忘れちょったきー。
 友達は大切にするもんじゃのー。危うく貰えんところじゃった。」

辰馬はそこまで言うとまたアホみたいに大笑いをし始めた。
正直コイツの笑い声は頭に響くから今すぐにでも殴り倒してやりてーが、
せっかく久々に恋人のと会えたわけだし、
銀さん優しいから寛大な心で許してやる事にする。

『辰馬今日はいつまで居るの?』
「夕方には帰る予定じゃ。あんまりサボると陸奥に怒られるからのー。」
「またサボって来たアルかこの毛玉。」
「アッハッハ!嬢ちゃんは相変わらず手厳しいのー!」

またバカみたいに笑う辰馬に、は心なしか喜んでいるように見えた。

『夕方まで居るんだ。じゃあ神楽ちゃん、さっさと配りに行っちゃおうか。』
「はいヨー。」
「え?いいんですか?久しぶりに会ったのに。」

さっきガキ共が買ってきた袋を持ち上げながらが言えば、
神楽は返事をして立ち上がり、新八は眉をハの字にしながらそう言った。
どうやらあの袋の中身は今日配る予定のチョコレートだったらしい。

『すぐ戻ってくるから大丈夫よ。辰馬、銀時と喋っててね。』
「どこ行くがじゃ?」
『えっとね、去年お世話になった人たちにチョコ配りに……。』
「ならん!!」

が喋っている最中に
あの温厚通り越して何も考えていなさそうな辰馬が急にに怒鳴りつけた。
これにはその場に居た全員が心底驚いて、も俺も新八も神楽も定春も、
全員目をパチクリさせながら怒った顔をしている辰馬を見つめていた。

『なっ、何でそんなに怒ってるの……?』
「がチョコば渡す相手はワシだけで十分じゃ!
 他ん奴に渡しに行くなんてこのワシが許さんぜよ!」
『さっきまでバレンタインデー忘れてた奴が何言ってんの!?』

辰馬の予想外の束縛に、が驚きつつも正論でツッコミをいれた。
それでも辰馬はが他の男に愛想を振りまくのが嫌なのか、
が持っていた袋をバサッと奪い取り、
ついでにもう片方の手での右手を拘束した。

『ちょ、辰馬放して!』
「ワシャ浮気は絶対に許さんぜよ!」
『浮気じゃないよ!ただチョコ配るだけ!』
「全裸にチョコはフィクションだけで十分じゃ!」
『誰がアンタのAVの趣味訊いたよ!!』
「テメー等!!ガキ居んだからヨソでやれ!!!!」

話をとんでもない方向に持っていった2人に俺が怒鳴りつけると、
辰馬は情けない顔をしながら「やけども銀時!」と叫んだ。

『あーもう分かったよ、分かった!じゃあ辰馬も一緒に行こ?』

しつこい辰馬に抵抗する事を諦めたのか、
は溜息混じりにそう言って辰馬に『ね?』と小首を傾げた。
そのの発言に新八が「え、」と顔を歪める。

「いやさん、それ何の解決にもなってない気が……。」
『一緒に配れば浮気じゃないでしょ?』
「お前馬鹿なの?何それ一体どういう結論?」
『ついでに辰馬をアタシの旦那ですって紹介すればいいんでしょ?』
「、その毛玉のクルクルパーがうつってきてるヨ、気をつけた方がいいネ。」

何でチョコ配りに行くついでに旦那紹介?
ってか紹介された相手は辰馬のこと知らねぇだろーが。超困るよソレ。
紹介された人「え?あぁ、そうなんだ……」みたいな微妙な雰囲気になるよソレ。
神楽の言う通り、本当にバカな思考回路がに伝染してんじゃねぇだろうな。
昔のなら絶対にあんなアホなこと言わなかったってのに……。

「……!」

さっきのの発言のどこに感動する要素があったのか、
辰馬はまるで乙女の如く喜んでいて、目にはうっすらと涙まで見える。
正直ちょっとどころかかなり気持ち悪いが、
はそんな辰馬に向かって気遣うような視線を送った。

『あっ、もちろん辰馬がいいなら、だけど……嫌?』

そう言いながら小動物よろしく小首を傾げたに、
辰馬は感極まったといった様子でいきなりガバッと抱きついた。

「嫌なわけないじゃろーが!ー!愛しとーぜよー!」
『ちょっ、ちょっと辰馬……!』

ギュウゥ、と音が聞こえるくらいを抱きしめている辰馬と、
困った顔をしながらもめちゃくちゃ照れているを目の前にして、
バカップルってのはこういう奴等の事を言うのかと俺は頭を抱え込んだ。




胃もたれするほど甘い恋

(うぷ、気持ち悪……新八ィ、砂糖袋持って来て、砂糖吐きそう) (ぎゃあぁ!?銀さん!?吐かないで下さいよ!?) (ただの二日酔いのオッサンじゃないアルか) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 何も考えてない原作もいいけど、ウチの辰馬はとことん子供です。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/03/21 管理人:かほ