しょうせつ

『アタシ神楽ちゃんのこと大ッ嫌い!』
「私もなんか大ッ嫌いネ!顔も見たくないアル!」

と神楽はソファーに向かい合って座りながらそう言い合い、
突然2人同時にニヘッと笑ってガバッと抱き合った。
そんな2人の様子に、隣で見ていた新八が
「まだやってるよ」と言いたそうな目で2人を見ている。

コイツ等は朝からずっとこんな感じだ。
今日がエイプリルフールだからって、
2人ともお互いに悪口を言い合っては抱き合うという動作を繰り返している。
この一連の流れのどこに面白みがあるのか、俺には皆目見当もつかない。
そんな事を考えながら、俺がまた悪口を言い始めた2人に深い溜息を吐いていると、
突然玄関の扉が勢いよく開いて「こんにちはー!」という能天気な声が響いてきた。

『あっ、あの声は辰馬だ!』
「あのちゃらんぽらんもに嘘つきに来たアルか?」
『えぇー?そうなのかなー?
 辰馬に嫌いとか言われたら分かっててもショックだなー。』

そう言いながらが照れたように笑うと同時に、
無駄にデカい辰馬が事務所にヘラヘラ笑いながら入ってきた。

「久しぶりじゃのー金時!も元気にしちょったか?」
「俺は銀時だっつーの。」
『アタシは元気だよー!あっ、間違えた、元気じゃないよー!』
「アッハッハ!は相変わらず変な奴じゃのー!」

の言葉にいつものイラッとくる笑い方で笑っていた辰馬だったが、
突然何かを思い出したかのように「あっ、そうじゃ」と言って
懐から小さな箱を取り出した。

「今日はコレを渡す為に来たんじゃ。」
『……?何それ?お菓子?』

不思議そうに箱を見つめながらが尋ねると、
辰馬は何も言わずの傍によってその場でしゃがみこんだ。
そしての顔を見上げながら「、」と真面目な顔で名前を呼び、
に見えるようにして持っていた小さい箱を開いた。

「言うなら今日言おうと思うちょったんじゃ。、ワシと結婚してくれ。」

その言葉に、万事屋が一気に凍りついた。

『えっ……?今日、言おうと思ってたの?』
「そうじゃき。ずーっと前から準備しちょったんじゃ。」
『他の日じゃ駄目だったの?』
「今日やないと意味がないぜよ。」

いつもと違って超真面目な表情で辰馬はそう言い放った。
勿論手に持っている箱の中には結構高そうな結婚指輪が輝いている。
傍から見れば立派なプロポーズなのだが、今日だけは具合が悪い。
だってお前、今日はエイプリルフールなんだから。

『何それ……どういう意味?』
「そのまんまの意味じゃき。」

呆気に取られる俺たちをよそに、辰馬はまだ真剣な表情だ。
しかし言われた本人であるは相当怒っているようだった。
声は震え、体もワナワナと震えていた。
そして突然何かが爆発したように辰馬を殴り飛ばした。
のその行動に、殴り飛ばされた辰馬は勿論のこと、
横で見ていた神楽と新八までもがポカンとした表情でを見ていた。
俺だけはそんなたちを見て一人頭を抱え込む。

『テメー喧嘩売ってんのか!!』
「ちょ、ちょ、待つぜよ!!なしてそがいに怒っちょるんじゃ!?」
『あぁん!?しらばっくれてんじゃねーぞテメェ!!!』
「オイちょっと落ち着けって!!」

床に転がってビックリしたようにを見上げていた辰馬に、
がマウントポジションで殴りかかろうとしたので
俺は慌てて辰馬からを引き離し、無理矢理ソファーに座らせた。
それでもはまだ怒って暴れていたので、
俺はとりあえず神楽に指示して暴れるを抑え込ませた。

「オイ辰馬、今日は何の日だ?」

俺は暴れるから床に居る辰馬に視線を移してそう尋ねた。
すると辰馬は間抜けな顔で俺を見上げ、そしてまたに視線を戻して口を開く。

「今日はワシとが初めて会うた日ぜよ。」

辰馬の言葉に、はキョトンとした表情で辰馬を見た。
俺は「やっぱりか」と頭を抱えて深い溜息を吐いた。

「辰馬、今日は世間一般ではエイプリルフールなんだよ。」
「ありっ?そうじゃったか?」

俺の言葉に辰馬は「あー……」と宙を見ながら記憶を辿り、
そう言えばそんなイベントもあったのーなんて呑気な声を出しながら
またいつものイラッとくる笑い声で笑い始めた。

『ちょ、ちょっと待ってよ……初めて会った日って……。』

が状況を全く理解できていないようだったので、
俺は軽く溜息を吐いてからに補足説明をしてやった。

「俺たちが初めて会ったの天人の船ブッ壊した日だろ?アレ4月1日。」
『な、何でそんなこと覚えてんのよ……。』

不審がるに、俺は昔話をしてやった。
俺たちの隊と辰馬が所属していた隊が協力して
デッカい戦艦で攻めてきた天人を全滅させた日の帰り道、
辰馬が俺に向かってボヤいた言葉。

「今日は4月1日、エイプリルフールじゃき。
 どうせなら、仲間が死んだことが全部嘘になりゃあええのにのー。」

節目がちに言った辰馬のその言葉は、今でも俺の記憶に深く刻まれていた。
だから俺は今でもあの日の事を鮮明に覚えてるんだ。

『そ、そうだったんだ……。』

は情けない顔でそう呟きながら静かにソファーに座り込んだ。

「まぁお前が知らねぇのも無理ねぇよ。
 それに、今日がエイプリルフールだってことをすっかり忘れてたコイツも悪い。」

俺が辰馬を睨みつけながらそう言えば、辰馬はまたアハハと笑った。

『ゴ、ゴメン辰馬……アタシ、全然知らなくて……。』
「ええんじゃええんじゃ!ワシにも非はあるからのー。」
『……辰馬、初めて会った日の日付、ちゃんと覚えててくれたんだね。』

自分の誕生日とかはすぐ忘れるくせに、とは小さくはにかんだ。

「当たり前ぜよ!のことは何でも覚えちゅー。」

平然とそう言った辰馬に、または顔を赤くして俯いた。
そしておもむろにソファーから立ち上がり、
床で胡坐をかいていた辰馬の傍にちんまりとしゃがみこんだ。

『……その指輪、アタシにくれる?』
「勿論ぜよ。その為に持って来たんじゃ。」

いつものようにヘラッと笑いながらに指輪を見せた辰馬に、
感極まった様子のが『大好き!』と言って抱きつきながらキスをした。




もっと大事な記念の日

(オイオイ見せつけてんじゃねーぞバカップル) (えへへっ♪嬉しくってつい) (おまん……は、反則じゃっ……!!バタッ) (わー!?坂本さんんん!?) (キスされたくらいで気絶するなんてまだまだネ) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ ちょっと無理やりだったかなって反省してる。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/04/05 管理人:かほ