去年も結局全然会えなかったなぁ。 年が明けた瞬間、アタシがなんとなしにそう呟いてから早6ヶ月。 梅雨も明けからっとした暑さが肌に厳しいこの季節に、アタシは大きな溜息を吐いた。 「あれっ?カレンダーまだ6月のままじゃねーか。」 ったくよぉ、と文句を垂れつつも、 銀時は日捲りカレンダーの紙をビリビリとめくっていった。 「おっ。そーいやぁ今日は七夕か。」 カレンダーの日付を見ながらそう言った銀時に、アタシはまた深い溜息を吐く。 そんなアタシに気づいた銀時が不思議そうな顔でこちらに歩み寄ってきた。 「何溜息吐いてんだよ。」 『いや……アタシ達まるで織姫と彦星みたいだなぁって。』 「え?何?暴力姫と毛玉?」 ズガンッ 銀時を床にめり込ませた後、アタシは小さく溜息を吐いてまた座りなおした。 『昔はずっと一緒に居たのに、突然宇宙に行くとか言い出して、 それからろくに連絡もよこさないし、最近は全然会いに来てくれないし……。』 「お前それ捨てられたんじゃねぇの? アイツ銀河中のキャバクラ行きまくってるらしいじゃん。 もうお前なんかに興味ねぇんだよ。さっさと諦めちまえよ。」 アタシが辰馬と約2年近くろくに連絡を取っていない事を知っている銀時は、 傍から見ればそこまで言わんでもってくらいにバッサリとそう言い放った。 辰馬が宇宙で好き勝手やってるのはアタシだって知ってる。 アタシに会いに来ないのも、忙しいからとかじゃないのは重々承知している。 そんなこと改めて聞きたくもなかったけど、でも、心のどこかで薄々感づいてた。 『付き合ってるって言っても、ちゃんと告白されたわけでもないしなぁ。』 アタシが溜息混じりに天井を見上げながらそう呟けば、 銀時は「えっ?そうだったの?」と目を見開いてアタシを見る。 「だってお前等ずっと一緒に居たじゃん。付き合ってるって言ってたじゃん。」 『あれは小さい時の約束がアレだっただけで……。』 「小さい時の約束?何それ、婚約者的な?」 『いや……実はアタシもあんまり覚えてないんだけど……。』 確か、大きくなったらわしのお嫁さんになってね、みたいな内容だったと思う。 アタシが曖昧な記憶を辿りながらそう言えば、銀時は心底呆れた顔になった。 「オイオイ……お前ってホント適当な女だな。 そーゆーのって普通覚えとくもんだろ。大事なことなんだからよ。」 『だってその約束があったのってアタシが5歳の時よ? 辰馬は大きかったから覚えてるかもしれないけど……。』 そこまで言って、アタシはまた深い溜息を吐いた。 覚えてたらこんなほっとらかしにされてないか……。 そんな考えが頭をよぎり、気分が一瞬でブルーになる。 思えばこの曖昧な記憶以外、 辰馬がアタシに結婚しようなんて言ったことなかったなぁ。 ちゃんと返事もしてないのに、あの約束は一体どこへ行ったんだろうか。 そうよ、あの約束を完全に忘れてるのは辰馬の方じゃない。 アタシがどれだけ待ってもどれだけ想ってても、 アイツの空っぽの頭ん中にはキャバクラのことしか入ってないんだから。 そこまで考えて、アタシは急に全てが腹立たしくなってきた。 『あーもー腹立つ!!こうなったら辰馬なんてもう知らない! ちゃんは新しい男見つけてさっさと結婚してやるんだから!!』 「おー、そーしろそーしろ。ついでに結婚式の招待状を辰馬に送りつけてやれ。」 『そうとなったらサラサラヘアーの身長小さめの男子を見つけにいかないと! 行くわよ銀時!年齢は30オーバーくらいね!』 「はぁ?何で俺も……。」 張り切って玄関へ向かうアタシに向かって銀時が反論しようとした次の瞬間、 突然万事屋の壁が何者かによって破壊された。 あれ、この光景なんかデジャヴ。 「ぎゃああああ!!俺ん家がぁぁ!!!!!」 『ちょっ、大丈夫銀時!?』 頭を抱えて絶叫する銀時に駆け寄ると、見覚えのある船が視界に飛び込んできた。 「アッハッハ!こりゃまたハデに突っ込んだのー!」 そう言って笑いながら船から降りてきた能天気な毛玉の姿に、 アタシは突然殺意に近い感情が湧き上がってきた。 「やっぱりテメェか辰馬!!ちったあ学習しろや!!」 「おー!金時!久しぶりじゃのー!元気しちょったか?」 「俺は銀時だッ!!」 辰馬はそんなお決まりの挨拶を交わした後、 ふとアタシの姿を確認して嬉しそうな顔をした。 「!久しぶりじゃのー!会いたかったぜよー!」 そう言いながらちゅーの口で抱きついてこようとした辰馬を、 アタシは無言無表情で素早く避けてやった。 すると辰馬は「あり?」なんて言ってアタシに向かって小首を傾げる。 「久々に会うたゆーんに、再会のちゅーもなしかぇ?」 能天気に言った辰馬を思いっきり睨みつけてやれば、 睨まれた辰馬ではなく銀時が焦ったように話に入ってきた。 「お、おい、ちょっと落ち着けよ?な? 辰馬、テメーもテメーだ。2年もほっとらかして何が再会のちゅーだよ。」 「なんじゃ、それで怒っちょるがか。 仕方ないじゃろー。式の用意に思うたよりも手間取ったんじゃき。」 そう言いながら困ったように笑う辰馬に、アタシと銀時は顔を見合わせた。 「式?式って何?お前の葬式?」 「アッハッハ!銀時おまんわしんこと嫌いか!」 銀時の言葉を豪快に笑い飛ばした後、辰馬は懐から小さな箱を取り出した。 「、約束どおり今年でワシも三十路ぜよ。」 辰馬はそう言ってアタシにその小さな箱を差し出してきた。 『えっ?』 「え?」 状況を理解できていないアタシが間抜けな声を出すと、 辰馬も驚いているアタシに驚いたのか、目を見開いて間抜けな声を出した。 そしてアタシ達はしばらくの間無言で見つめあい、2人同時に小首を傾げた。 『えっと……辰馬もう三十路なんだ、おめでとう。』 「いや、おめでとうじゃのーて。」 『えっ?まさかそれだけのためにココに来たの?年齢報告する為に?』 「そんなわけないじゃろーが!えっ!?まさかおまん忘れちょるがか!?」 ガラにもなく慌てている辰馬の姿に、アタシはますます状況が理解できなかった。 え?何を?何を忘れてるって?辰馬の誕生日? それなら11月15日ってちゃんと覚えてるけど……。 「おまんがオッサンやないと結婚せん言うから今年まで待ったがやないか!」 『えっ?』 全く身に覚えのない発言に、アタシは怪訝な顔で辰馬を見た。 すると銀時が突然何かを思いついたような顔をして、「オイ、」と辰馬に声をかける。 「お前それもしかしてガキん頃にしたっていうプロポーズ?」 「そうじゃ!何で銀時が知っちょって肝心のおまんが忘れちょるんじゃ! おまんが小さい頃『アタシ30オーバーのオッサンとしか結婚しないから保留』 っちゅーからワシャこん歳になるまでコレ渡すん我慢しちょったんじゃぞ!?」 怒ったようにそう言って、辰馬は小さな箱の蓋を開いた。 見るとそれはどっからどう見ても結構値の張りそうな結婚指輪。 それを見て、アタシはさらに頭の中が真っ白になる。 『えっ?アタシそんなこと言った?」 「言うたわ!!え!?おまん本気で忘れゆうがか!?」 『ゴ、ゴメン……。』 「なんじゃあ!!ほいたら律儀に待たんと さっさとプロポーズしちょったら良かったぜよ……!」 辰馬は言いながら頭を抱えてウガーっと首を横に振った。 そんな辰馬の姿を放心状態で見ていると、隣からチクチクと痛い視線が。 見るとそこにはアタシの事を責めるような顔で見ている銀時の姿があった。 「さっき散々文句垂れてたのはどこの誰だったかなぁー。」 『うっ。』 そうだった。アタシそんな約束(って言うか発言)すっかり忘れてたから、 辰馬が会いに来ないだの他の男と結婚するだの、散々なことを言っちゃったっけ。 だってそんな言った本人でさえ忘れるような些細なことを この能天気で頭空っぽな辰馬が覚えてるとは思わないじゃない。 でも、そっか。 辰馬ってば、そんな小さい頃のことまでちゃんと覚えてて、 アタシの望むオッサンになったからって、こうして指輪まで……。 『えっ?じゃあさっき言ってた式って……。』 「もちろんワシ等の結婚式じゃき。取引き先から商売仲間まで声ばかけて、 宇宙で一番有名な式場にコネで頼んで、地球風にアレンジしてもろうたぜよ。」 口を尖らせてアタシを咎めるように睨みながら、辰馬はそう言った。 ちょっとスケールが大きすぎて何が何だか分からないんだけど、 とりあえずここ2年近くは自分の三十路を目前に控え、 アタシとの結婚式のために仕事ほっぽって奔走してたと……そんな感じ? 『ゴ、ゴメン……そこまでしてくれてるなんて全然知らなくて……。』 「謝らんでもええがじゃ。がワシん嫁さんになってくれりゃあそれでええ。」 辰馬のその言葉に、アタシは久々に胸の辺りがキュンとした。 すると辰馬は優しく微笑み、改めてアタシに結婚指輪の箱を差し出す。 「、ワシと結婚してくれ。」 その真剣な眼差しに、その真っ直ぐな声に、 アタシは急に感極まって思わず辰馬に抱きついた。 辰馬はそんなアタシに少し驚いた様子だったけど、 アタシの返事を悟ってくれたのか、優しく頭を撫でてくれた。何年か越しの天の川
(ゴメンね辰馬、ホントにゴメンね!アタシ辰馬を疑って浮気しようとした!) (何ィ!?ワシャ浮気は絶対に許さんぜよ!はワシだけのもんじゃき!) (あぁんその台詞も今なら超嬉しい!辰馬大好き!) (バカかお前等ヨソでやれ) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 七夕記念の辰馬夢でした。なんかウチの坂本夫婦ってすれ違いが多いなぁ。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/07/07 管理人:かほ