「ー! 今日は十五夜じゃき、一緒に団子でも食いながら月ば見るぜよ!」 そんなことを言いながら辰馬がアタシを呼びに来たのが丁度1時間前。 ニコニコといつものように笑いながら、片手にはおいしそうなお団子を持って。 もちろんそのお団子を銀時が見逃すはずもなく、 「団子!!」と叫びながら辰馬の片手に飛びついた銀時を、 辰馬が「こら!ハウス!!」と言いながらなだめ終えたのが約30分前。 月を見るという条件で銀時にお団子の半分を取られたのもその時だった。 「すまんちや。折角の団子が半分になってしもうた。」 『ううん、いいの。辰馬と月が見れたらそれで。』 微笑みながらアタシがそう言うと、 辰馬はちょっとだけ照れたように笑ってアタシの手を引いた。 「ほいたら行ってくるろー」と銀時たちに手を振って、 辰馬はアタシを待機場所の近くにある丘の上まで連れて来てくれた。 そこから見る月はまさに大迫力といった表現が相応しいくらい大きくて、 アタシ達はしばらくその月に見とれていた。 『こんなに綺麗な満月、久々に見たかも。』 「ほーじゃのー。近頃はこじゃんと戦が増えよったきに、 空ば見ることなんて、すっかり忘れてしもうちょったのー……。」 いつもよりも低いトーンでそう言いながら、辰馬は悲しそうな顔をした。 そんな辰馬の手をそっと握れば、辰馬は一瞬驚いた顔をして、 また小さく微笑んだかと思うとアタシの手をギュッと力強く握り返してくれた。 そしてお互い顔を合わせて微笑み合った後、また黙って月を眺めていた。 アタシも辰馬も何も喋らなかったけど、きっと考えていることは一緒。 早くこんな戦終わればいいのに。これ以上、誰も傷つかなければいいのに。 戦が長引くにつれて、自分の無力さを思い知らされる。 救護隊隊長なんて大それた名前をもらってはいるものの、 戦場では毎日救いきれなかった命が消えていく。 せめて願うのは、死んでいった志士たちがあの月のように綺麗な場所に居ること。 そんなことを考えていたら、ふと隣から小さな寝息が聞こえてきた。 不思議に思って辰馬の方を見れば、辰馬は座ったままうとうとと眠り始めていた。 『辰馬?』 アタシがそう声をかければ、 辰馬はハッとして目を覚まし、まだ眠たそうな目をアタシに向けた。 「あー……こりゃすまん。寝ちょったか……。」 『辰馬大丈夫?最近寝てなかったもんね……今日はもう戻って休む?』 アタシは気遣ったつもりでそう言ったのに、 辰馬は困っているとも悲しんでいるともとれるような表情でアタシを見た。 「アッハッハ……困ったのぅ。 今日はとずっと一緒におりたかったんじゃが……。」 苦笑しながらそう言った辰馬に、アタシは思わず顔を真っ赤に染め上げた。 『なっ、何言ってるのよ、バカ!』 アタシが照れ隠しで辰馬の脚をバシッと叩けば、 辰馬は短く「いだっ」と言ってさっきよりさらに困った顔でアタシを見た。 「な、何をそないに怒っちゅーがじゃ……?」 『怒ってないもん!』 言いながらアタシがそっぽを向くと、辰馬は全てを悟ったようにアハハと笑った。 「なんじゃあ、照れちょるだけかぇ。」 『う、うるさいっ。』 アタシが精一杯の強がりでそう毒づいたのも辰馬にはお見通しで、 辰馬はまた嬉しそうにアハハと笑うと そっと握っていた手を離してアタシを後ろから優しく抱きしめてきた。 背中に感じる辰馬の体温が暖かくて、アタシは思わずそっと目を閉じる。 「のー、しばらくこんままでもええかのー?」 『暑苦しいけど、背もたれになるから特別に許してあげる。』 「アッハッハ!そりゃあ良かったぜよ!」 辰馬はそう言って笑うとアタシの体をギュッと抱き寄せてまた空を眺めた。 空を眺める辰馬の顔は他のどの瞬間よりも一番輝いて見える。 もし戦なんか無かったら、この辰馬の横顔をいつまでも見ていられるのに。 『……綺麗だね。』 アタシが空を眺めながらそう言えば、辰馬は「あぁ……」と短く返事をした。 「……のぉ、。」 しばらく2人で寄り添いながら月と辺り一面に散らばった星を眺めていると、 ふいに辰馬がアタシの名前を呼んだ。 アタシはゆっくりと辰馬の横顔を見つつ『何?』と言葉を返す。 「もしワシが戦ば捨てて宇宙に出るっちゅーたら、おんしゃあどうするがよ。」 『え……?』 そう言った辰馬の目はただ真っ直ぐに空を見つめていた。 『……アタシは、空を見てる辰馬が一番好き。』 「……!……。」 アタシが辰馬に向かって微笑みながらそう言えば、 辰馬は一瞬驚いたような顔をして、そしてゆっくりと笑顔になった。 「……ほーか。」 そう返事をした辰馬がアタシを連れて宇宙に行くことを決意し、 それを銀時たちに伝えたのは、数日後のやっぱり星が綺麗な夜だった。アナタが一番輝く瞬間
(アナタのその闇夜を優しく照らす月のような笑顔は、アタシだけのもの) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 辰馬の普段の笑顔は太陽なんで、優しい笑顔は月かなって。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2012/04/21 管理人:かほ