いきなりだけど、高杉とは村でも有名な許婚の関係だった。 許婚と言っても名ばかりで、家同士が「保険」として結んだ婚約だ。 しかし、当時ガキだった俺たちにも知れ渡っていたほど、 2人の関係はそれはそれは有名なものだった。 当の本人達はと言うと、それはそれは仲が悪かった。 いや、別に喧嘩ばっかりとかいう仲の悪さじゃねぇんだけど、 許婚にしてはやけに他人行儀と言うか、 は高杉のことを「晋助さん」と呼んでいたし、 高杉も高杉でに話しかけたり優しくしたりなんてのは一切なかった。 だから俺たちは子供ながらに「保険の婚約なんだな、」なんてぼんやりと思っていた。 別に本人達が好きで結婚を決められてるわけじゃねぇんだ。 だから2人の婚約は暗黙の了解で禁句のようになっていた。 なのに、 「!!俺は断じて認めねぇぞ!!」 「高杉落ち着け。こういうのは本人達の問題だろう。」 「俺がその本人だ!!!!」 戦闘で負った傷を治療していたヅラが高杉をなだめれば、 高杉は怒り狂った表情でヅラを睨みつけ、吼えるようにそう言った。 「いい加減諦めろよ。どーせ家の約束だったんだろ?」 今にもヅラに殴りかかりそうな高杉に俺がそう言うと、 高杉は殺気のこもった目でキッと俺を睨みつける。 「テメェは黙ってろ! 俺は自分が振られたみたいで腹の虫が収まらねぇんだよ……!」 「そんなんだからフラれんだよ……。」 「振られてねぇ!!」 高杉が言いながら俺の胸倉を掴んできたので、 隣で辰馬の手当てをしていたが慌てて俺たちの方に駆け寄ってきた。 『ちょっと晋助さん!少し落ち着いて……!』 「元はと言えばテメェがそんなちゃらんぽらんに惚れるから悪いんだろうが!!」 今度はを睨みつけながらそう怒鳴った高杉に、 はビクッと体を震わせてシュン、と顔を伏せてしまった。 「まぁまぁ、そない怒鳴らんと。」 へらへらと笑いながらそう言った辰馬は、 高杉に怒鳴られてシュンとしているを後ろから抱きかかえ、 さらに青筋を立てる高杉にニコニコとこう言った。 「にはワシから言い寄ったんじゃき、あんまりを責めんでやってくれんか。」 この言葉がまた高杉の癇に障ったのか、 高杉はこれ以上ないほど怒り狂った表情で辰馬の頭をガッと掴んだ。 「テメェがを庇うんじゃねぇよ!俺が悪者みたいだろ!」 「現にそうじゃねーか。」 「んっだとテメェ!!」 「アッハッハッハ!」 「笑うな腹立つ!!」 そろそろ血管がプッチンいきそうな高杉をヅラがどうにかこうにか抑えこみ、 俺たちは5人で円を作ってとりあえず話し合いをすることになった。 「高杉、貴様は一体何が気に食わんのだ。 婚約に関しては自分で意に沿わぬ約束だと申していたではないか。」 「婚約だの許婚だのはどうでもいいんだよ。 俺が気に食わねぇのはこの俺がこんな毛玉に負けたことだ。」 言いながら高杉が辰馬をキッと睨みつければ、辰馬は困ったように「アハハ、」と笑った。 「でもは高杉より辰馬がいいんだもんなー?」 『えっ、えぇっと……。』 俺が声をかけると、は言葉を詰まらせながら苦笑した。 まぁここでヘタなことを言えばまた高杉の血圧が上がることになるので賢明な判断だと思う。 「よし、お前がどれほど坂本を愛しているか高杉に言ってやれ。」 「お前はとりあえず空気を読め。」 俺は言いながら隣でイイ顔をしたヅラの頭を掴み地面にめり込ませた。 コイツって何でこう人の思惑とか考えを木っ端微塵にするのが得意なの? そんなことしたら高杉がキレるのは目に見えてるじゃねーか。 「ほいたらワシが代わりにをどれだけ愛しちゅーか……。」 「テメーは黙ってろ。」 俺はヅラの頭を掴んでいるのと反対の腕で辰馬の頭を掴み、地面にめり込ませた。 辰馬の隣に座っていたが口に手をあててビックリしていたが、 俺はバカ2人を押さえ込んだまま高杉に目を向ける。 「お前もいい加減大人になれよ。 に惚れてるわけじゃねーならスッパリ切ってやったらどうだ? お前が婚約破棄しねぇ限りお前等の婚約は続いたまんまなんだからよ。」 俺がその場をまとめるためにそう言えば、 高杉は「テメェには関係ねぇだろ……」と口ごもりながら バツの悪そうな顔をして俺から視線を逸らした。 本当は高杉がちょっとだけに興味を持っていたのを俺は知っていた。 親が決めた婚約とはいえ、ずっと婚約者を名乗ってきたんだ。 流石の高杉でもに少しは情が移ったんだろう。 しかし辰馬の方は情が移ったなんてモンじゃねぇ。コイツは本気だ。 だからここは高杉に身を引いてもらって、コイツ等が幸せになる道を開くしかねぇんだよ。 「オイ高杉、あんまりを困らせてやんなよ。 コイツ等が本気だって、お前もよーく分かってんだろ?」 「…………。」 俺の言葉に高杉は少しの間何かを考え込み、突然キッとを睨みつけた。 『あっ、あの……。』 「テメェ、本気でこのちゃらんぽらんと結婚する気か?」 『えっ……。』 驚くに高杉が「答えろ」と冷たく続きを促すと、 は困ったような表情で、しかししっかりと高杉を見据えて一度だけ頷いた。 「……そうか……。」 高杉のどこか諦めたようなその一言に、 俺はこれで少しは話がまとまりそうだと安堵のため息を吐いた。 しかし、このイイ感じの雰囲気は 超ド級のちゃらんぽらんの声によって一気に壊されることとなる。 「!!おんしそこまでワシんこと……!! ー!!愛しちゅーぜよぉぉー!!」 むちゅうぅぅ 『んっ!?』 「なっ……!?」 「…………ッ!!!!」 ブチィッ 呆気にとられる俺とヅラのすぐ隣で、高杉の何かがブチギレる音がした。 「坂本テメェ……!!」 「アッハッハッハ!この通り、ワシとはラブラブじゃきー、 悪いがのことは諦めてくれんかのー!アッハッハッハ!」 「何で俺がテメェみてーなちゃらんぽらんにー!!」 「高杉落ち着け!とりあえず刀をしまえ!!」 怒り狂う高杉にトドメの一言をお見舞いして能天気に笑い出した辰馬に、 高杉は堪忍袋の緒が切れたように刀を持って暴れだした。 それを慌てて止めたのは例によってヅラだ。 俺は暴れる3人(正確には暴れてるのは高杉1人だが)をオロオロしながら見ていると、 何故かこの期に及んでまだ笑っている辰馬を交互に見つつ、 せっかく話がまとまりかけてたのに……と深い深いため息をはいた。俺様VSちゃらんぽらん
(辰馬、今のはお前が悪い) (なしてじゃ?ワシャとワシの仲の良さを分かってもらおうと……) (お前さ、火に油を注ぐって知ってるか?) (何じゃ?ことわざか?それくらい知っちょるきに) (…………) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ いつもはだらしないって言われまくる銀ちゃんだけど、 攘夷が集まれば一番空気読んでまともな役回りになるのがたまらんですね。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2012/08/17 管理人:かほ