その日、アタシは朝から体調が悪すぎて授業中に気持ち悪くなり、 先生に許可をとってから保健室へと足を運んだ。 『晋ちゃーん。しんどいから休んでていいー?』 「誰が晋ちゃんだ。テメェ保健室といわず病院送りにしてやろうか。」 口の悪い保険医の暴言を軽くスルーして、 アタシは入り口から一番近いベッドにボスンと横たわる。 「なんだ、女子の日か。」 『違うよバカ!普通に体調悪いの!ってかそれセクハラ!』 晋ちゃんは一応アタシの傍に来ておでこに手をあて熱だけ測り、 「寝てたら治るだろ」と言ってドアの方へと歩いていった。 『あれ?どっか行くの?』 「野暮用でちょっと出てくる。 休み時間までには帰ってくるから、それまで保健室のこと頼んだぞ。」 『えぇー?』 「最近保健室を遊郭と勘違いして使いやがる野郎が増えてるからな。 そういう奴が来たら迷わず追い返せよ。」 晋ちゃんはそう言って本当に出て行ってしまった。 しんどいからって保健室に休みに来てる生徒に保健室任せたはないでしょ。 まぁそんな適当な先生だからアタシもこうやって気軽に来れるんだけどさ。 そこまで考えて、アタシはとりあえず周りのカーテンを閉め、ベッドに横たわった。 いいや、寝ちゃえば気づきませんでしたって言えるもんね。ねーちゃお。 アタシは目を閉じて、しばらくしてから意識を手放した。 カチャ……カチャカチャ…… 『…………?』 どこかから金属がぶつかる音がする。アタシはその音で目が覚めた。 どれくらい寝てたんだろう。気分は結構楽になってる。 やっぱ晋ちゃんの言ったとおり寝たら治った。 じゃなくて! アタシは目を擦りながらベッドの上に起き上がった。 さっき聞こえてきた金属音はまだカチャカチャと聞こえ続けている。 これは……ベルトを外す音!? その音は明らかに隣のベッドから聞こえていた。 ベッドの上でベルトを外すなんて…… まさかコレが晋ちゃんが言ってた遊郭勘違い野郎? アタシは内心ドキドキしながらも、意を決してバッとカーテンを開けた。 『コラー!!誰だこんなところで昼間っから発情してるのは!』 叫んだアタシの目に飛び込んできたものは、 ビックリしている服部先生の顔と、服部先生の、お尻。 「なっ、お前っ、!?」 『…………!!!!!!』 驚いたを通り越して何が何だか分からなくなったアタシは、 とりあえず服部先生を蹴り飛ばしながら大声で叫んだ。 『イヤアアァァァァ!!!!!!』 「いや……、今のはお前が悪いだろ……。」 強打した腰の辺りをさすりながら、服部先生が情けない声でそう言った。 『ご、ごめんなさい……その、ビックリして……。』 まさか服部先生が座薬を注入しているところだったなんて思いもしなかったから、 てっきりアタシは保健室でお尻を出す新手のプレイかと……。 アタシがオズオズとそう言えば、服部先生は大きな溜息を吐いた。 「まぁいいよ、誰も居ないと思ってボラギノってた俺にも非はある。」 『ボラギノってたって何ですか?座薬ってたってことですか?』 「おぉ、お前“座薬ってた”なんて単語知ってんのか。さてはお前も痔だな?」 『訳分かんない理由で勝手に人を痔にしないで下さい!』 服部先生は「あはは」と笑いながら 近くにあったゴミ箱に先ほど使用したボラギノールの箱を捨てた。 『先生っていつもココでボラギノってるんですか?』 アタシが何気ない疑問を口にすると、服部先生は笑顔でそれに答えてくれる。 「あぁ、まぁな。」 『晋ちゃん何も言いません?』 「別になんも?ただ坂田と一緒にココにエロ本置かせてくれって頼んだ時は 流石の高杉もキレてたな。ここはテメェらの遊郭じゃねぇんだよって。」 『遊郭勘違い野郎はアンタ達か!!』 思わぬところから発覚した犯人に、アタシは思わず盛大にツッコんでしまった。 すると服部先生は「は?」と不思議そうに小首を傾げる。 別にこのまま『晋ちゃんが文句言ってたよ』と話を続けても良かったのだが、 この話をそんなに掘り下げても変な話にしか発展しなさそうだったので、 アタシは慌てて別の話題に切り替えた。 『いや、別に何も!それより服部先生、エロ本なんて読むんですね!』 言い終わってから、アタシは全力でその場に打ちひしがれた。 『(全然話題変わってないじゃん!!! それどころかピンポイントで話振っちゃってるじゃん!!!アタシのバカ!!!!)』 自分の馬鹿さ加減にアタシが頭を抱えていると、 服部先生はアタシの発言を何とも思わなかったのか、 あははと笑いながら普通に「ブス専だから探すの大変だけどなー」と返してきた。 その反応に、アタシは呆気にとられながらも『助かった!!』と胸を撫で下ろした。 『あ、そう言えば服部先生ってブス専でしたね。えげつないくらいの。』 「えげつないとか言うなよ!俺にとっては可愛い奴らなの!」 怒ったようにそう言った服部先生に、 アタシはおかしくってケラケラと笑ってしまった。 先生って痔とかブス専とかそういうイメージしかなかったけど、 話してみると結構面白い人なんだなぁ、なんて思ったり。 すると服部先生はおもむろに笑っているアタシの隣に腰掛けてきて、 「まぁ例外もあるけどな」と言ってアタシの頬に手をかけた。 「お前、笑ったら結構可愛いじゃん。」 『えっ……。』 服部先生のその真面目な雰囲気と重低音に、 アタシの顔がみるみるうちに真っ赤に染まっていく。 そして服部先生が何かを言おうと口を開こうとしたその時、 ガララッと軽快な音と共に保健室の主がご帰還なさったのであった。その隠された瞳に、心を射抜かれた
(テメェ等何してやがる!!俺の保健室でエロいことしてんじゃねーよ!!) (べっ!別にエロいことなんてしてないよ!!ねぇ服部先生!?) (さぁー?悪ぃな、俺あんまり覚えてねぇわ) (ちょっと服部先生ー!!) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 六万打本当にありがとうございました! 全蔵って飄々としてて結構いいキャラしてるよなーって書いてて思いました。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/10/02 管理人:かほ