しょうせつ

『新ちゃーん、おつかい頼んでもいい?』
「え?あぁ、いいですよ。」

僕はそう返事をしてさんからおつかいのメモを受けとった。
紙には今日の夕飯の材料と、明日の朝ご飯の材料が書いてあった。

『神楽ちゃんも連れてってあげてね。アタシ溜まってた洗濯物片付けるから。』

そう言ってくるっと振り返ったさんに、
社長イスでジャンプを読んでいたた銀さんが「オイ」と声をかけた。

「お前ヅラんとこ行かなくていいのか?今日エイプリルフールだぜ?」

デッカい嘘でもついてやれよ、と銀さんがニヤニヤしながら言えば、
さんは意外にも『んー、』と薄いリアクションを示した。

『いいよ別に、怒られるもん。』
「何で?アイツ電波だからぜってー盛り上がるって。」
『盛り上がらないよ。小太郎嘘ついたら超怒るから。
 そんな子に育てた覚えはありませんって正座させられるもん。
 お前はアタシのお母さんかっつーの。』

さんが溜息混じりにそう言えば、銀さんは「マジでか」と驚いた。
そして同じく話を聞いていた僕と神楽ちゃんも意外な事実に心底驚いた。
僕の中では桂さんはイベント事には踊らされるイメージがあったので、
今日も真っ先に電波の入った嘘をつくものだと思っていたけれど、
どうやらそれは僕の思い違いだったみたいだ。

「アイツに対して厳しいよなー。やっぱ彼女だから?」
『銀時それ小太郎に言ったら怒られるよ。彼女じゃない、妻だって。』
「何それめんどくせっ。」

机にダラッと持たれかかりながらやる気のない声で言った銀さんに、
さんはまた溜息混じりに言葉を返した。
すると銀さんは眉間にしわを寄せて「うわっ」と言いたげな顔になる。

ピーンポーン

「あれっ、お客さんかな。」

突然鳴り響いたチャイムに僕がそう言えば、
銀さんがダルそうな声で「どーせヅラだろ」と言ってのそっと玄関に出て行った。
そして玄関の扉を開ける音と桂さんのものらしき声が聞こえてきて、
のそのそと戻ってきた銀さんの後ろにはやっぱり桂さんの姿があった。

「!何故俺の元に来んのだ!菓子を持ってスタンバってたんだぞ!」

さんの姿を確認した途端に桂さんが憤慨したようにそう言い、
その意味不明な発言に全員が「はぁ?」と声を合わせた。

「え、ヅラお前何言ってんの?」
「む?今日は悪戯を仕掛けて菓子を貰う日だろう?」
「それハロウィンな。」

どうやら根本的に4月1日を勘違いしているらしい桂さんに、
銀さんが面倒くさがりながらもエイプリルフールについて説明してあげていた。
そんな2人を眺めながら、さんがやれやれと頭を抱える。

「嘘をついてもいいと幕府が認めているのか!?奴等め許せん!!」
「お前俺の話聞いてた?」
「桂さん、エイプリルフールは風習みたいなもんですよ。」

完全に怒るベクトルを間違えている桂さんに僕が訂正を加えれば、
桂さんは「そうなのか」と納得したような声を出してさんに向き直った。

「では、俺は浮気をしたぞ。」
『何その見え透いた嘘。全然面白くも何ともないんだけど。』
「む、そうか。じゃあ俺は攘夷活動を止める。」
『だから嘘だろってばそれ!』

さんはそう言って呆れたように溜息を吐いた。
しかしその顔はちょっと安心したような表情だ。
きっと桂さんがエイプリルフールを肯定したことが嬉しかったんだろう。
さっきまで嘘ついたら桂さんに怒られるってつまらなさそうにしてたから。

『うっ……!』

僕が嬉しそうな顔をしていたさんをじっと見つめていると、
さんは突然お腹を押さえてソファーの上でうずくまってしまった。
そんなさんの様子に銀さんと神楽ちゃん、そして僕は少しだけ驚き、
桂さんは一大事だと言わんばかりにさんの傍へと駆け寄って行った。

「!?どうした、大丈夫か!?」
『いったた……小太郎、アタシ妊娠したかもしれない。』

演技がかったさんのその一言に、
万事屋メンバーが心配して損したと言いたげな表情で一斉に溜息を吐いた。
どうやらさんは桂さんにちょっとした嘘をついてみたらしい。
やりたくて仕方がなかったんだろうなぁさん。
嘘といってもバレバレの嘘だけど。

「妊娠!?、それは俺の子か!?」

真面目な顔で嬉しそうにそう叫んだ桂さんに、
その場に居た全員が「え、」と目を見開いた。

『いや、嘘に決まって「よくやった!!」

桂さんはさんの手をガシッと掴んで満面の笑みでそう言った。
そんな桂さんの様子に、さんが冷や汗をかき始める。

『え、ちょ、小太郎?』
「そうか、俺もようやく父親か……!!」
『え、ちょっと待って小太郎、それ本気じゃないよね?』
「こうしちゃおれん、すぐにベビー用品を準備せねば!」
『えっ!?ちょっと待って小太郎!それ本気じゃないよねぇぇ!?』

叫ぶさんを背に、桂さんは一目散に万事屋を出て行ってしまった。
僕たち4人は桂さんが出て行った玄関をしばらくの間呆然と見つめ、
数秒後ハッとしたさんが
桂さんの暴走を止める為に同じく玄関から慌しく出て行った。

「……まぁ、いつかは出来るんだから、無駄にはならねぇよな。」

銀さんのその一言に、僕と神楽ちゃんはただ苦笑いをするしかなかった。




嘘つく相手はびましょう

(!嘘つきは泥棒の始まりなんだぞ!) (攘夷浪士に言われたくないんだけど……) (口答えするな!俺はお前をそんな子に育てた覚えはありません!) (育てられた覚えもありませぇん!) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ ヅラは真面目すぎていちいち扱いヅラいといい。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/04/05 管理人:かほ