その日、やけに真剣な顔をしたヅラが俺の家にやってきて突然こう切り出した。 「銀時、聞いてくれ。今日は俺の誕生日だろう。」 「あー、そうだっけ?おめっとさん。」 俺はジャンプを読みながらヅラの言葉に適当に相槌を打った。 するとヅラは憤慨したように机をガンッと叩いて俺の方を見る。 「貴様から祝われても嬉しくもなんともないわ! 俺はに祝ってほしかったんだ!」 真剣な眼差しでそう言ったヅラを、俺は眉間にしわを寄せて睨みつける。 「んだよ人が折角祝ってやったっつーのに。 ってかお前等付き合ってんだからフツーに祝ってもらえるだろ。」 「馬鹿か貴様。普通に祝ってもらっていたら 今頃こんな所で貴様相手に喋っているわけないだろうが。」 「よーし分かった、お前ここに喧嘩売りに来たんだな、そうなんだな。」 言いながら俺がジャンプを置いて腕まくりをしながら立ち上がれば、 俺たちの会話を黙って聞いていた新八が 「ちょっと、喧嘩しないで下さいよ!」と声を荒げた。 「ヅラ、と喧嘩でもしたアルか?」 「そのようなんだが……俺にはが怒っている理由がさっぱり分からないんだ。」 神楽に尋ねられ、ヅラは頭を左右に振りながらそう言った。 近所ではバカップルとして名高いコイツ等が喧嘩をするなんて珍しい。 大方ヅラが余計な事を言ってを怒らせたんだろう。 「おいヅラ、お前に何したんだよ。」 「俺は何もしていない。ただ、俺への誕生日プレゼントに メイド服で“お帰りなさいませご主人様♪”と言ってくれと頼んだだけだ。」 「いやそれが原因だろ明らかに。」 そんな俺のツッコミと同時に、 ヅラの向かい側で腰掛けていた新八と神楽が大きな溜息を吐いた。 「ハッ!そうか!自分の彼女とはいえ、 自らプレゼントをねだるなど武士として恥ずべき行為であったか……!!」 「いやいや、そういう問題じゃねーから。 普通の女はいきなり彼氏にそんなこと言われたら引くから、怒るから。」 「なんと!」 「いや何その初耳みたいな顔。腹立つんだけど。」 「銀さん、穏便に穏便に。」 いちいち癇に障るリアクションをするヅラに俺がイライラしているのを見て、 新八が諦めたようにそう言った。 「ヅラは女心が分かってないアルなぁ。」 チッ、チッ、チッ、とお決まりのポーズでそう言った神楽に、 ヅラはガバッとテーブルの上に乗り出して深刻な声で言った。 「リーダー!俺は一体どうすればいいんだろうか!!」 まるでこの世の終わりだとでも言いたげなヅラに、 神楽がこれ以上ないほどのドヤ顔をした。 「とりあえずに謝ってこいヨ。 “俺実はお前がほしかったんだガバァッ!”って押し倒せばイチコロネ。」 「いやそれヅラがイチコロされちゃうからね、死の呪文だからねそれ。」 「ちょっと神楽ちゃん、あんまり適当な事言わないで。 この人馬鹿だからすぐ信じちゃうだろ?」 「あまり俺を見くびるなよ眼鏡小僧。 俺だってそんな獣のような態度はアウトなことくらい分かっている。 “プレゼントはお前がほしい♪”“あんっ♪”の方が ラブラブ感があっていいだろう。」 「そのラブラブ感が味わえないから俺んとこに相談に来てんじゃねぇの? 馬鹿なのお前?それギャグなの?本気なの?」 真面目な顔でボケ倒すヅラに俺が呆れ果てていた時、 突然「ピンポーン」と万事屋のチャイムが鳴り響いた。 その音にいつものように新八が「はーい」と返事をしながら玄関へと急ぐ。 そして数秒後、新八と共に姿を現したのは、 先ほどから話題に上がりまくっていただった。 「なっ、!?貴様なぜここに……!!」 『何故ここにじゃないわよ。エリーが探してたよ?』 突然現れたにヅラが心底驚きながら声をあげれば、 は怒ったような拗ねたような表情でヅラを睨んだ。 『エリーが急に居なくなっちゃったって言うから、多分ここだろうと思って。』 「お、俺を探しに来てくれたのか……?」 恐る恐る尋ねるヅラに、がフン、とそっぽを向いた。 『別にアタシは探してなかったけど。』 「……。」 まだ怒っている様子のにそう言われ、 とうとうヅラは眉を下げて情けない顔になった。 何だかんだでコイツ、にベタ惚れしてるからなぁ……。 俺はそんな事を考えながら、 普段ならば絶対にお目にかかれないであろうヅラの姿を眺めていた。 すると突然ヅラがバッと床に両手をつき、 に向かってマジで土下座する5秒前の体勢を整えた。 突然のその行動に唖然とする俺たちなんて気にも留めず、 ヅラは神妙な面持ちでに向かって言葉を続ける。 「、本当にすま――。」 『土下座しないで。』 「あべしっ!!」 ヅラが頭を下げようとした次の瞬間、 が言いながらヅラを思いっきり蹴り飛ばした。 まさかそんな攻撃が来るなんて微塵も思っていなかったヅラは、 ろくにディフェンスもしないまま勢いよく壁にのめり込む。 そんなの突然の行動にこれまた呆気に取られる俺たちだったが、 はそんな事気にもしないで ダラダラと鼻血を流しているヅラの元へと歩み寄った。 『お願いだから、誕生日くらいはカッコいい小太郎で居てよ。 普段の電波バカな小太郎には特別に目を瞑ってあげるから。』 「……。」 ヅラは何ともいえない表情でを見上げていたが、 その鼻からはまだ止め処なく鼻血が流れていた。 傍から見ればそのギャップに思わず笑いがこみ上げてくるレベルだったのだが、 当の本人達は至って真剣そのものだったので、 万事屋には噴き出すことすら許されない雰囲気が漂っていた。 『……アタシだって、ちゃんとプレゼント用意してたのよ?』 「え?」 は言いながら、驚いているヅラの前にしゃがみこんだ。 『なのに小太郎ったら、あんなふざけたものを要求してくるんだもん。 流石のアタシも久々にはらわた煮えくり返っちゃった。』 可愛い顔してとんでもない言葉を言い放ったに、 何故かヅラは「……!」と感極まった様子だ。 毎度の事だが、コイツ等の感覚が全く持って理解できない。 『小太郎、はい、これ。』 が言いながら呆れた笑顔で差し出した手の中には、 多分の手作りであろう藍色のお守りが顔を覗かせていた。 そのお守りの姿を確認した途端、 ヅラがまたオーバーリアクションで演技がかったように驚いた。 「……これは……!!」 わなわなと体を震わせながらそのお守りを受けとったヅラに、 今度は優しい笑顔でがこう言葉を添える。 『お誕生日おめでとう、小太郎。』 あぁなんだ、結局ラブラブなんじゃねーかお前等。 わざわざ家まできて盛大に惚気られた事に腹を立てつつも、 俺たちは感極まってに抱きついたヅラの姿に思わず顔を綻ばせた。ずっと隣に居てほしいから
(世を立て直すのもいいけど、くれぐれも体だけは壊さないでね) (壊さんさ。の為に、俺は倒れるわけにはいかんからな) (頭ならいっつも壊れてるけどな) (もう修復不可能アル) (ちょっと2人とも、茶々入れないで下さいよ) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 遅くなっちゃったけど、ヅラお誕生日おめでとー! ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/07/03 管理人:かほ